Lily connect

加藤 忍

文字の大きさ
2 / 32
二人の関係

第二話

しおりを挟む
 私はなぜここに楓がいるのか全く見当がつかなかった。足元には楓の物であろう鞄が置かれている。




 私がここに来た理由は楓に会うためではない。ラブレターの相手にお断りを言うため。




「ねぇ、楓?」




「なに?」




「ここに男の子いなかった?」




「どうして?」




 楓は全く笑顔を絶やさず答える。私は鞄からさっき下駄箱に入っていたラブレターを取り出して楓に見えるように突き出した。




「このラブレターの差出人がここにいると思うの、見てない?」




 それを見た楓は笑顔を失った。そして私の耳にかろうじて届くような息を吐いた。




「遥華の近くにいるじゃん、その人」




「え!?」




 私はわかっていて、そして自分が今置かれている現実を否定したくて、周りをキョロキョロと見渡す。




 そんな私に呆れたのか、楓は今度ははっきりと聴こえるくらいのため息を吐いた。




「遥華はわかっていてやっているの?それとも天然?」




 楓はもたれかかっていた桜の木から離れ、ゆっくりと草を踏み付けながら近づいて来る。




 私は近付いて来る楓から逃げるように二、三歩後ずさったが、そこからは逃げ出すことは出来なかった。




 私たちの間にあった三メートル近くの距離はすぐに縮められた。




「遥華」




 楓の顔がすぐ目の前まで来た時、私の頭は真っ白になった。楓の少し赤い頬が段々と濃くなっていく。潤んだ瞳がしっかりと私を捉えている。




 暑さのせいか、この現状のせいか、体中から異常じゃないほどの汗が出てきているのがわかる。




 楓も額に少し汗をかいていたが、顔は真剣そのものになった。




「私、遥華のこと好きだよ」




「・・・」




 楓の言葉でその場は静まりかえる。運動部の声も吹奏楽部の音楽も、スズメやカラスの鳴き声ですらも止まったかのように。




 その間も楓や私の髪が横になびいているけど、風の吹く音はもちろん聞こえない。ただ時間が止まっているわけではないと教えてくれる。




 その沈黙も楓によってすぐに壊される。




「だから、私と付き合って欲しい」




「・・・」




 私は答えを出すのに躊躇った。この告白はこれまでのものと違うことは明らかだったから。




 興味のない男子でも、関わりのない先輩でもない。私のたった一人の親友の嘘のない告白。それは私が彼女の事を知っているから分かる。




 だから考える時間が欲しかった。冷静になれる時間が欲しかった。




「・・・少し、考えさせて」




 楓は俯いた私を見て、それ以上はなにも言わなかった。気持ちがまとまったら言って、そう言って木の側に置いていた鞄を取ると、また明日、とだけ言って通り過ぎていった。




 私の後ろからは段々と遠ざかって行く足音がする。それが聴こえなくなるにつれ、徐々に周りの音が聴こえて来る。




 楓の足音はどこか弱々しかった。





 家に帰ってからは食欲がなかった。お母さんが心配してくれたけど、なんでもない、といって部屋に戻った。




 右の一の腕をおでこに当てながら、白い見慣れた天井を見つめる。静かな部屋は私に冷静な考えをもたらしてくれる。




「遥華のこと好きだよ」




「私と付き合って欲しい」




 楓が言った言葉がフラッシュバックする。思い出された声はとても生々しいものだった。まるで楓に横で言われているかのような、そんな事ないのに。




 思い出した途端、自分の顔が熱くなるのがわかった。誰が見ているわけでもないけど、それを隠すように枕に顔を埋め、勢いよく足をばたつかせる。




 

 私も楓のことは好きだ。




 

 いつも優しくて、スポーツが得意で、勉強もそこそこできる。ほかの友達より私を優先してくれる彼女が好きだ。大切で、手放したくなくて、そばにいて欲しいと思う。




 だけど・・・。




 これが楓の好きとは違うことはわかっている。私のは親友としてのもの。恋愛の方ではない。でもどうして私は楓の告白を今までの男子みたいに断れないのだろう。




 埋めた顔を少し上げる。




「楓は私のどこが好きなんだろう?」




 それだけが気になった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。 そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。 夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。 それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになるのでご安心ください。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

処理中です...