一番でなくとも

Rj

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愛しい息子

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「じゃあ行ってくるよ」
「早く帰ってきてね。いってらっしゃい」

 軽く唇を合わせる。
 その次の瞬間、お互い「うわっ」と言って飛びのき笑いあう。

 ああ、あの頃は無邪気だったなあと懐かしさがこみ上げる。

 目を開けると実家の自分の部屋だった。エドワードと結婚したはずなのにと思った途端、そうだ出産したはずと思い出す。

 赤ちゃんはと体を動かそうとしたが、少し体を動かしただけで目が回る。

 暗闇に目が慣れたのか、すぐ側にあるソファーに人が丸まっているのが見えた。様子に変化があった時のために詰めてくれているのだろう。

 出産するまで悪阻がひどく体が弱っていたので、出産後にきっと気を失ってしまったにちがいない。生まれた赤ちゃんを見たような気はするが、はっきりとしない。しかし元気な産声を聞いたのはおぼえている。

 ああ、早く会いたい。悪阻のせいでろくに食べられなかったので、ちゃんとお腹の中で成長できたのかずっと心配だった。ふがいない母親で申し訳ない。

 そういえばと夢の中に出てきた男の子のことを思い出す。従兄弟の所に遊びに来ていた男の子で、おままごとで夫婦役としてお見送りのキスをし、お互い何をやってるのだろうと思わず手で口をぬぐってしまった。お互い役になりきり、勢いで何も考えずにやってしまった。

 よく考えるとあれがファーストキスだったのかと思い至り、笑いがもれた。

「奥様?」
ソファーに体を横たえていた侍女が、サラが目を覚ましたことに気付いたようだ。

「マギーよね? 暗くてよく見えないけど」

「そうです、奥様。よかった目覚められて」

 マギーはサラの調子を確かめながら、何度も本当によかったと口にする。その声は湿っていた。すぐに戻りますからとウォーカー医師に知らせにいった。

 どのぐらい気を失っていたのか分からないが、随分心配させてしまったようだ。

 視界がゆれる。どうやら自分が思っている以上に弱っているようだ。

 ウォーカー医師が現れた後に、両親、兄夫婦、弟、エドワードが姿を見せ、みな泣きながらサラの意識が戻ったことを喜んでくれた。

 次にサラが目を覚ました時に、ようやくサラは我が子に会うことができた。おくるみにくるまれ眠っている我が子の姿は愛らしく、自然と涙がこぼれた。小さく産まれたが、五体満足で元気そうだ。

 まだ起き上がることも出来ないので、自分の手で抱っこすることが出来ず歯がゆい。この子のために早く回復しなくては。

 サラは自分が出産後に生死をさまよったこと、意識が三日戻らなかったことなど、少しづつ出産後の自分の状況を周りから教えられた。

 サラの体は順調に回復した。エドワードがアーサーと名付けた我が子を、ようやく自分の手で抱くことが出来た時は、涙が止まらなかった。

 小さな、小さなアーサー。頑張ってお腹の中でちゃんと育ってくれ、そしてこうして無事に生まれてくれた。サラは自分の全てをかけて、この小さな存在を愛し抜くのだと、改めて決意をあらたにする。

 誰の一番にもなれなかった私だからこそ、アーサーに誰の一番にもなれないなどと絶対に思わないよう育てたい。アーサーが母から一番愛されていると実感出来るよう愛し抜くのだ。妊娠が分かった時に、サラは強くそのように思った。

「アーサー、この世で一番大切な我が子」

 サラは自分の腕の中で眠るアーサーにそっとつぶやき、アーサーの小さな鼻にキスをした。
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