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許婚と結婚して本当に幸せになれるのか

疲労がはげしい

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 ステラはクロードから建設中の橋を見にいかないかとさそわれ久しぶりに一緒にでかけることになった。

 ステラが住んでいるイリアトスはディアス国で一番栄えている都市といわれている。

 海から近く大きな河があることから国内外の交易がさかんだった。

 これまでいくつか川向こうの町と小さな橋がかけられていたが、大風や大雨で破損したり、どの橋もよく渋滞することから、頑丈で大きな橋が建設されることになった。

 橋の建設状況はよく市民の話題にのぼった。

 クロードと並んで歩きながらステラはお互いの目線が近くなったなとあらためて思った。

 二歳年上のクロードは物心ついたころからステラより体が大きく、ステラはいつもクロードを見上げていた。

 お互い背が伸び、とくにステラは高身長の父に似たため周りの女性にくらべ頭半分ほど背が高かった。

 クロードはステラよりも背は高いが目線をすこし上げるていどの差で、小さい頃のように見上げることはなくなっていた。

 クロードは半年前からひげをはやしはじめたこともあり、お互いもう子供ではないとしみじみ思った。

「こうして一緒に出かけるの久しぶりだね」

 ステラがそのようにいうとクロードが足をとめた。

 どうしたのかとクロードをみると、「ごめん」急にあやまられた。

「どうしたの?」

「ずっと許婚らしいことしなくて悪かった」

「許婚らしいことって―― どういうこと?」

「俺たちの周りで恋人や結婚の話が多くなってきただろう。恋人や婚約者と一緒にでかけた話をいろいろ聞いてるうちに、そういえば俺とステラって婚約者らしいことしたことないなと思って」

 いわれてみればとステラは思ったが、ステラ自身とくにそのようなことを意識したことがなかった。

「ステラは俺にとってもう家族だから婚約者らしいことしなくてはとか考えたことなかったけど、やっぱり女の子はそういうの大切だろう?」

 たしかに学園の女子の間で恋愛話がされることは多い。

 しかし裕福な家では気軽に異性と二人きりで出かけることは許されないようで、いろいろと面倒な決まりごとをどのようにかいくぐるかという話が多かった。

 イザベラとフィリップも学園内で一緒にいるのは黙認されているが、学園外で会うのは親が了承した社交の場のみらしく不満をこぼしていた。

 そのため恋人や婚約者が一緒にでかけてといったことを意識するような環境でもなかったため、そのようなことを考えたこともなかった。

「お出かけするのは楽しいけど、許婚だからと無理して出かけるのはちがうと思う」

「べつに無理はしてない。でもそれが不満だったんじゃないのか? 婚約解消しようっていったの」

 ステラはもやもやとした気持ちがわきあがるのを感じた。クロードに嫌なことをいわれたわけではないが怒りをかんじる。

「ねえ、クロード。私達、結婚して本当に幸せになれると思う?」

「もちろんだ。そんなこと当たり前だろう?」

「そっか、クロードはそう思うんだね。でもね私は幸せになれるような気がしなくなった」

「どういう意味だよ?」

 ステラは大きく息をすいこんだ。

「このあいだ頬をたたかれてから、こんなことが一生つづくのかと思ったら――」

「まてよ! あれはジルが誤解して感情的になっただけで、あんなことめったにおこらないって。それにジルはちゃんと自分が悪かったって反省したし。

 ジルからの詫びの品もちゃんとわたしたよな? ジルが直接ステラに謝らなかったことが問題なのか? 

 それなら大丈夫だ。ジルはステラが怖がるかもと思って直接あやまらなかっただけだから、ステラさえ大丈夫ならちゃんとあやまるよ」

 ステラは疲労感をおぼえた。クロードに何をどのように説明すれば自分の気持ちを分かってもらえるのかと考えると気が遠くなりそうだった。

 二人の間に沈黙がおちる。

 目の前にいるクロードは自分がよく知っているはずの幼馴染みで、そして許婚だが、何を考えているのかステラにはもう分からなかった。

「やっぱり好きな奴がいるんだろう?」

 ステラは口をひらくのも億劫になった。

 このまま肯定した方が関係を解消しやすいかもと思ったが、自分が悪者となることに納得がいかなかった。

「いない。いたらすでに話してる。私の性格しってるなら分かるでしょう?

 クロード、私は疲れたの。ものすごく疲れた。もう頑張れないほど疲れた。見知らぬ人から悪意をむけられることに疲れたよ」

「どういう意味だ?」

 ステラはこれからいわなくてはならないことを考えうんざりしたが、いわなければ話はすすまないと深呼吸し、まとわりつく疲労感をふりはらった。

「クロードの態度に勘違いした女の子や、クロードのことを好きな女の子達から、これまでいろいろいわれてきた。

『こんなブスがクロードの許婚だなんて』とか

『ひょろひょろして男の子みたい』とか

『こんな子がクロードの許婚なんてクロードがかわいそう』とか、

 知らない人からいきなり悪意のある言葉をぶつけられてきた。これまでいわなかったけど」

「嘘だろう!? どうしていままでいわなかったんだよ!」

 ステラはクロードの口を手でおさえ話せないようにした。

「最後まで話させて。クロードにいわなかったのは決まった人に毎日いわれるとかじゃなかったから。

 通り魔のようなものだから防ぎようはないし、ひんぱんにあることでもなかったから。

 それに思い出すだけで腹が立つから思い出さないようにしてた」

 ステラは一息ついたあと再び口をひらいた。

「それに何度もクロードに女の子に愛想よすぎると誤解をうむっていってきたよね? でも結局クロードは私のいうことを聞く気もなければ行動もあらためなかった。

 頬をたたかれてからいろいろ考えた。婚約解消したいといった時はあの場の勢いだったけど、考えれば考えるほどもう嫌だと思うようになった。

 人から悪くいわれるのも嫌だし、それより私の気持ちをどうでもよいとないがしろにされるのも嫌。

 クロードのことは好きだけど、今の状況が一生つづくのかと思ったら『それは私にとって幸せといえるの?』と強く思った」

 クロードが口をふさいでいたステラの手をとると、両手で祈るような形に握った。

「ごめん、ステラ。そんなことになってたなんて。女の子がそんなことしてるなんて思ってもみなかった。

 これから行動をあらためる。だから婚約解消しようなんていうのはやめてくれ。ステラはもう俺の家族なんだ。家族の絆を切るようなことはできない」

 ステラはクロードに自分の気持ちが通じないもどかしさでいっぱいになったが、自分でもクロードに何が通じていないのかはっきり分からなかった。

「これまでつづけてきた行動を本当に変えられると思ってるの?」

「もちろんだ。これまでステラがただ妬いてるとしか思って――」

「いい加減にしてよ、クロード!」

 ステラは叫んでいた。

「これまで数えきれないほど、本当に何度も真剣に女の子への態度をあらためてほしいっていってきた。

 私だけじゃなくてクロードの家族だって態度をあらためろっていってきたでしょう。

 人を馬鹿にするのもいい加減にして! ちゃんと話をきかないだけでもむかつくけど、やきもちとかそういう話にすりかえて言い訳されるのものすごく腹が立つ」

 ステラはそばを歩いている人達の視線が自分達にむけられていることに気づき、人目のある場所で喧嘩していたと自分のうかつさを反省する。

「とりあえず橋がよく見えるところまでいこう」

 クロードが歩きはじめたのでステラもあとをおう。

 ステラはクロードの横にならばず一歩下がった位置を歩く。

 クロードとは家族のように育ってきたが、話せば話すほど分かり合えないという気持ちが強くなる。

 ステラはクロードが行動をかえるといったことをまったく信じていないことに、信じない自分が悪いのか、信じられなくしてしまったクロードが悪いのかと考え、疲労感が濃くなっていくのかんじた。
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