暗闇に輝く星は自分で幸せをつかむ

Rj

文字の大きさ
22 / 89
世の中何が起こるか分からない

ヤング弁護士事務所

しおりを挟む
 ステラはヤング弁護士事務所へといそいでいた。ステラはヤング弁護士事務所で週に二度、書類の整理や清書を手伝っている。

 ステラがヤング弁護士と縁ができたのは近所に住んでいたレベッカの離婚を手伝ったためだった。

 十二歳の時にレベッカから、ディアス人の弁護士と話をしたいがディアス語でこみいった話ができるか不安なので通訳してほしいと頼まれた。

 ステラは両親をふくめノルン人がディアス語で苦労するのを見てきたので子供の頃から頼まれると通訳をしてきた。

 ディアス人が流暢にディアス語を話すノルン人にむかってノルン訛りのせいで何をいっているか分からないとからかったり、片言のディアス語しか話せないノルン人を馬鹿にするのを、同じディアス人として恥ずかしく思っていた。

 ステラに通訳してほしいと頼んだレベッカはステラよりも十二歳年上の女性だった。

「ごめんね、こんなことにステラを巻き込んで」

 レベッカはなぜ弁護士に会う必要があるのかを説明した。

 レベッカはノルン国から恋人と一緒にディアス国へ移住してきたが恋人に裏切られ捨てられた。その後ディアスで出会ったノルン人と結婚した。

 結婚後、夫がディアスでの生活の不満を酒でまぎらわせるようになっただけでなくレベッカに暴力をふるうようになった。

「ノルンでは離婚できないけど、ディアスでは離婚できるはずだからから離婚したい。でも結婚の誓いをたてたノルン村の教会で離婚はできないっていわれて。

 ディアス人の弁護士で二か月に一度無料で相談にのってくれる日をつくってる人がいると聞いたの。だから本当に離婚できないのか聞きたい」

 相談をうけたヤング弁護士は、レベッカの話を聞いたあと「離婚できるよ」と力強くいった。

 夫婦間で暴力や虐待があったり、働かないなど夫婦として正常な関係を維持するのがむずかしい場合は離婚が可能だった。

「結構あるんだよ。ディアスの法に従うべきなのに、他国の法を押し通そうとする教会は本当にたちが悪い」

 ディアス国で結婚した場合、結婚した人がどの国の人間であってもディアスの法が適用される。

 しかしノルン村にある教会のように、離婚が認められていない国の移民があつまる教会では離婚をみとめず、離婚させないようにするという。

 レベッカはキャンベル弁護士から離婚するのにどのような手続きが必要なのかを教わり、離婚に同意しない夫に手こずったが無事に離婚することができた。

 ステラは弁護士事務所で通訳しただけでなく、レベッカがディアス語の読み書きをほぼできないことからステラが必要な書類作りを手伝った。

 不明な点があったためステラがひとりで弁護士事務所へ質問しにいったところ、ヤング弁護士に気に入られ事務所の手伝いをすることになった。

 ステラはノルン村の商会で書類をととのえる仕事をしていたため商業的な知識があったことがさいわいした。

「遅くなってすみません」

 ステラが挨拶しても誰も返事をしない。よほど切羽詰まった状況にあるらしい。

 ステラは自分が処理する書類をさがし黙々と片付けはじめた。

 事務所は大きな商会同士が取り引きをするための契約締結で先月からごたついていた。

 急に一方が契約内容をかえたいといいだし、署名すれば終わるという段階だったものをくつがえした。

 そのため交渉のやり直し、契約内容の見直し、契約書の文言のすり合わせなど変更につぐ変更で翻弄された。

「もう嫌だ!」

 弁護士見習いのポールがペンをなげだし叫んだ。ポールの限界をこえてしまったらしい。

「残念ながら帰っていいとはいえないから食べ物をかってきてくれ」

 ヤング弁護士が財布から金をだしポールにわたす。

「一杯やらないとこれ以上がんばれません」

 ポールの目の下には濃い隈ができており、そのようにいうポールには凄みがあった。

 普段であれば飲むのは終わってからにしろというヤング弁護士だが、ポールの様子に思うところがあったのか黙って財布から金をとりだし「一杯だけだ」といってわたした。

 ポールがコートをひっつかみ出ていくのを見ながら「ポール、大丈夫でしょうか?」とステラがきくと、ヤング弁護士が「大丈夫じゃないだろうな」と苦笑した。

 ポールは高等学校を卒業したあと弁護士になるため見習いとして働いていた。

 いつもであればヤング弁護士の息子であり、すでに弁護士であるジュニアがいるが、たちの悪い風邪にかかってしまい寝こんでいた。

 そのためポールの仕事量が一気にふえた。ステラも本来なら週に二度事務所にくるだけだが、あいている日があれば来てほしいといわれきていた。

 ポールが戻ってこずさがしに行った方がよいのではと思い始めたころ、

「おいしいお夜食と幽霊みたいな弁護士見習いをお届けにまいりました!」

 明るい声が弁護士事務所にひびきわたった。

 レベッカが道でポールとばったりあったので顔をだしにきたと、ポールとポールがかかえている夜食がはいったバスケットを指さした。

「あら、今日はステラが働いてる日なのね。サンドイッチいっぱい入ってるようだからちゃんと食べさせてもらいなね」

 レベッカのよく通る声と笑い声がお葬式のような雰囲気の弁護士事務所に心地よくひびいた。

「ポールが夜食のはいったバスケットをかかえて酒場にいこうとしてたのでとめときましたよ」

 レベッカがヤング弁護士に目くばせした。

 ポールがあきらめたように自分の席にもどるのをみて、レベッカにまくしたてられたら諦めるしかなかっただろうと少し気の毒になった。

 レベッカは離婚について相談してからときどき事務所に差し入れするようになり、事務所の人達とすっかり顔なじみだった。

 レベッカはポールが放置したバスケットからサンドイッチをとりだすと皆にくばった。

「ステラ、レベッカと一緒に帰っていいぞ」ヤング弁護士がステラに声をかけた。

「でも、まだ今日の分を終えてませんが」

「暗くなってきたし妊婦をひとりで帰すわけにもいかないだろう」

 レベッカが「先生、さすが紳士だから」とおだてたあとステラに帰り支度をうながした。

 ステラは先に帰ることを申し訳なく思いながら、とくにポールと目があわないよう急いで荷物をあつめ事務所をでた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

【完結】見えてますよ!

ユユ
恋愛
“何故” 私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。 美少女でもなければ醜くもなく。 優秀でもなければ出来損ないでもなく。 高貴でも無ければ下位貴族でもない。 富豪でなければ貧乏でもない。 中の中。 自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。 唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。 そしてあの言葉が聞こえてくる。 見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。 私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。 ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。 ★注意★ ・閑話にはR18要素を含みます。  読まなくても大丈夫です。 ・作り話です。 ・合わない方はご退出願います。 ・完結しています。

完結  やっぱり貴方は、そちらを選ぶのですね

ポチ
恋愛
卒業式も終わり 卒業のお祝い。。 パーティーの時にソレは起こった やっぱり。。そうだったのですね、、 また、愛する人は 離れて行く また?婚約者は、1人目だけど。。。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

処理中です...