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守護天使は進むべき道をささやいてくれるのか

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 ステラはヤング・ジュニアと顧客を訪問したあと、ジュニアから頼まれた書類を役所へ届け事務所にもどった。

 事務所にもどると、ヤング・シニアがシニアと同年代の男性と談笑していた。

「ステラ、紹介するよ」

 シニアが訪問客を旧友でニウミールで弁護士をしているダシルバ弁護士だと紹介した。

「君が押しかけ見習いのステラか」

 ダシルバ弁護士にそのようにいわれステラは胸の中で苦笑した。

「でも弁護士はそのぐらい押しが強くないとな。そういう意味で適正あるよ」

 ステラはいつも通りほほえむ。何をいわれてもほほえみ表情をかえないことは交渉の場で必要なので普段の生活から訓練している。

 自分のことを押しが強いと思ったことはないが、弁護士になれるかどうかも分からない身でありながら弁護士見習いになったのだ。人からみれば押しが強いとなるのだろう。

 ステラとわかれたあと他の用事を済ませたジュニアが事務所にもどりダシルバ弁護士を見たとたん、「まだ生きてたんですか!」大きな声でうれしそうにいった。

「憎まれっ子世にはばかるっていうだろう。刺されもせずこの通り元気にしてるよ」

 ダシルバ弁護士がおどけたようにいうと「刺されるのも時間の問題でしょう」とジュニアがかえす。

 ステラは自分の席につき先ほど訪問した顧客に必要な書類づくりをはじめる。ステラにとってはじめての遺言作成になる。

 遺言は「書類をつくること自体は大したことはないが、個人的な感情がいろいろとからむから家族との確執や愚痴を聞くのが仕事の大半」で精神的につかれるという。

 その言葉通り顧客は折り合いの悪い息子のことをいろいろと愚痴った。

 気がつくとヤング親子とダシルバ弁護士が酒をのみながら話していた。どうやら気を利かせた事務員がつまめるものを用意してから帰宅したようだ。

 ステラが仕事をおえ帰ろうと挨拶をすると少し飲んでいけと引きとめられた。

 ダシルバ弁護士が住んでいるニウミールはディアス国で二番目に大きな都市で西地区にある。

 ステラが西地区で女性弁護士が誕生したことについて質問すると、

「それ、うちで見習いしてた子だよ。いまは旦那の商会で契約関係をとりしきってる。ついでに俺の姪っ子」

 こともなげにダシルバ弁護士がいった。

 ステラは声をうしなった。まさか偉業をなしとげた弁護士事務所の人とこのように向かい合っているとは。

 ステラが声をだせずにおどろいている姿をみたダシルバ弁護士が「すごいでしょう?」と自慢げにいったので、ステラは無言で何度もうなずいた。

 女性弁護士が誕生したのを聞き、ステラはいてもたってもいられずお祝いをのべる手紙を所属先として報じられていた弁護士事務所におくった。

 その時にダシルバ弁護士事務所と書いたにもかかわらず、シニアから紹介されたときにぴんとこなかった自分の鈍さがなさけなかった。

「いやー大変だったよ。本人も大変だったけど、うちの事務所もいろいろ大変だった。無事に認められて本当にほっとしたよ」

「ダシルバ先生、私を見習いとして雇っていただけませんか?」

 勝手に体と口がうごき椅子から立ち上がるとダシルバ弁護士にそのようにいっていた。

 ダシルバ弁護士は口の端をすこしあげからかうように

「嫌だよ。もう面倒なことするのこりごりだ」といった。

 ステラは自分の存在が厄介者なのを思い出した。女というだけで見下され、あからさまに男性弁護士としか話したくないといわれるのが日常だ。

「すみません、何も考えずいきおいでご迷惑になるようなことをいってしまい。弁護士になったあとも事務所のお荷物となる可能性が高いことを忘れていました」

「へえ、一応わかってるんだ。シニアのようなお人好しの弁護士たらしこんだ図太くて人の迷惑を考えない女性かと思ってたよ」

 ステラはこの手の嫌みにもなれているので、嫌み自体には何とも思わなかった。それよりもダシルバ弁護士のおもしろがっているような声色が印象にのこった。

「君みたいにうちで見習いさせてほしいという女の子が嫌というほど事務所におしかけてくるけど、女性の見習いはとってない。

 うちは男でもきついと評判で見習いがよくやめる。だから女性にはつとまらないと思ってる。

 俺がいってるきついの意味は体力的にきついの意味。俺、見習いをこき使うし、理不尽なこと言いまくるから精神的にもきついらしいよ」

 ダシルバ弁護士がからからと気持ちよさそうに笑う。

「ステラ、こいつのいってること誇張じゃない。これまで何人もの見習いがやめてる。ダシルバのところで見習い終了したといえば『根性がある』と自慢できると有名だ」

 シニアも笑う。

「オヤジが俺にダシルバ弁護士事務所で修行するかと聞いた時は俺を殺したいのかと思った。おじさんのことは好きだけど見習いつぶしとよばれる人の所で修行はしたくないもんな」

 ジュニアもしみじみという。ジュニアはニウミールの高等学校を卒業している。

 ヤング・シニアはもともと西地区出身だが、シニアの父がイリアトスで仕事をすることになり移住していた。

「ジュニアがうちにきたら『特別やさしく』してあげたのに残念だ」

 ダシルバ弁護士がそのようにいいながらステラをみた。

「うちの事務所そういう所だけど見習いやってみるか? 女性弁護士はこりごりだと思ったが、最近うちを敬遠して見習い希望がこないし暇つぶしにいいかなあと思い始めた」

 挑発する笑みをうかべているダシルバ弁護士に、ステラは即座に「よろしくお願いします」といっていた。

 このチャンスを逃してはいけないという声がする。ここでひるむような姿をみせてはいけないと直感がはたらく。

「いいね。若いなあ。怖れをしらないその勢い。いいよ。見習いとして雇うよ。でもいっとくけど女性だからといって手加減はもちろんしないし、使えないと思ったらさっさと切る。

 そういえば家族は? もしかして結婚してる?」

「家族は母と兄がいます。結婚してません。する予定もありません」

 ダシルバ弁護士がくすりと笑った。

「じゃあ家族の了承もらってこい。ついでだ。いまのこの勢いですべて決めてしまおう。

 俺がニウミールに帰る一週間後までに了承をもらう。そして俺がニウミールに帰る時に一緒にくる。

 旅費はもちろんそっちもち。でもニウミールについてからの一か月は俺の家で面倒みるよ。どうだ?」

 シニアがあわててダシルバ弁護士とステラの会話に割ってはいり、大切なことを勢いだけできめるなとダシルバ弁護士をいさめる。

「こっちはお荷物かかえようっていうんだ。気分がのってる時にしかそんなことできないだろう? 

 別に俺は見習いなんていくらでも選べる立場だ。ステラを選ぶ必要なんてまったくないがチャンスをやるっていってるんだ。こちらの条件にしたがえないなら、はい、さようならだ」

「ステラ、はやる気持ちは分かるが」シニアがなだめようとするが、ステラはシニアにしっかりつたえる。

「先生、ダシルバ先生の所でお世話になります。恩を仇でかえすようなことをしてすみません。いま抱えている案件をすべてこの一週間で片付けます。母の説得もちゃんとします」

 目の端でジュニアが苦笑しているのがみえた。無謀なのは十分わかっている。しかしいまこの流れにのらなければという声がきこえる。

 酔っぱらった勢いで守るつもりのない空約束をしてしまったといわれるかもしれない。しかし後でそのようにいわれてもダシルバ弁護士の所へいきそれこそ押しかけ見習いをする。

 ステラはダシルバ弁護士によろしくお願いしますというと手をさしだされた。ステラは迷わずダシルバ弁護士の手をにぎり「契約成立」と声にだし握手した。
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