暗闇に輝く星は自分で幸せをつかむ

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井戸の中にいたカエルは自分の小ささを知る

決闘廃止

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 夕方が近づき顧客先へいっていた弁護士達も事務所にもどってきてと、ダシルバ法律事務所内はにぎやかだった。そのにぎやかさにまけないほどの大きな話し声と靴音が廊下から聞こえてきた。

 事務所のドアがあいたかと思うとモリソン先生が、

「決闘が廃止になった!」高らかにいった。

「おめでとう!」歓声と拍手が事務所にあふれた。

 決闘は海を隔てた大陸に古くからある習慣で、ディアス国でもその習慣が引き継がれていた。

 ノルン国では決闘をするのは貴族だけで、貴族同士で名誉を傷つけられた時にされ、それだけでなく法では裁くことができないことに対し本人同士で決着をつける方法としても認められている。

 王侯貴族といった身分制度のないディアス国では決闘は誰にでも許されてはいるが、決闘というものがあることや決闘が許されることが知られていないことから、決闘をする人がいなかった。

 しかし十年前にディアス国で決闘が許されていることを知った人が、実際に決闘したことからディアス国で決闘が広まった。

 決闘をするには決められた手続きを踏む必要があるが、そのようなことを知らない人がほとんどで、決闘がただの私刑の言い訳に使われるようになっていった。

 そのため決闘を廃止にする動きが活発になり、イリアトスでポバーグ村でのポバーグ高位貴族による決闘という名の復讐があったことが大きな後押しとなり、東地区ではすでに廃止されていた。

 西地区でも東地区につづけと廃止活動がもりあがったが、政治家がからんだ決闘があり、そのことが政争になった。政敵同士が決闘廃止について相手をつぶす良い機会だと動いたことから状況がもつれた。

 決闘をした政治家が所属する派閥は、法では裁けないことに対し正義をつらぬく道を残すべきだと主張した。

 法ではどうしようもないことから泣き寝入りした人や、法により苦い思いをさせられた人も多く、決闘の正しい実行方法を周知し決闘を残すべきと賛成する人は多かった。

 反対派は決闘という名で私怨をはらし、何の根拠もなく人をさばく私刑を横行させている現状を考えれば、決闘を都合よく使おうとする状況を変えるため廃止すべきだと主張した。

 どちらの派閥も意見をゆずらなかったが、北地区で決闘が廃止され、南地区でも決闘廃止案が考慮されているという状況が追い風になり、ようやく西地区での廃止にこぎつけた。

 決闘廃止派として活動してきたモリソン先生は、四年以上つづいた闘いを無事におえた。

「祝い酒だ!」

 モリソン先生が勝利を祝う乾杯を事務所近くの酒場でするのでついてこいと叫ぶと、先生の秘書が酒場は貸し切りですとうれしそうにいう。

 まだ仕事は残っているが事務所の男性陣が酒場へと移動する。

「ステラ、この案件のひな形つくっておけ」

 ダシルバ先生がジャケットをひっつかみうれしそうに酒場へ向かう途中で、ステラに仕事をふることを忘れない。

「先生、酒場にいけない女性陣におこぼれの祝い酒をもって帰ってきてください」

 ステラがそのようにいうと「やだね。俺を給仕係に使おうなんて千年はやい」笑いながら去っていった。

「お酒飲みたかったなあ。それよりもあそこのおつまみおいしいって男性陣がいつもいってるから、おつまみ食べたかったなあ。

 こういう時に女って損だなあっていやになる。酒場にいく女は堕落してるなんてこといわれるし」

 カミラが残念そうにいう。

「べつにあそこのつまみは大したことないって。酔っ払ってるからおいしく感じるだけだよ」

 ジョージが仕事をしながらカミラの言葉に反応する。

「ジョージ、はやくいかないと酒場のお酒のみほされちゃうよ」

「別にいいよ。モリソン先生のことを祝いたいけど、下っ端の俺なんかが行っても、どうせ酒を飲むよりも酔っ払ってより一層うざくなった先生達のお相手をして、ついでに介抱もしないといけないから、よろこんで事務所で仕事する」

 ジョージがそのようにいうと、

「酒場へいってはどうかと誘いにきたのだけど必要なかったみたいね」

 モリソン先生について政治家見習いをしている女性、ラリッサ・フィッシャーがほほえんでいた。

 ステラがラリッサに祝いの言葉をかけると

「私は本当に何にもしていないの。その言葉はモリソン先生にいってさしあげて。

 私が見習いとして働き始めたころには廃止派が波にのっていたところだったから、私がやったことといえば本当に事務処理ぐらいなの」といった。

 十二歳年上のラリッサは年上ということだけではない落ち着きがあった。

 女子大学を卒業したあと高等学校で教師として働いていたが、女性医師や女性弁護士が誕生したことから、女性だからとあきらめていた政治家を目指すことにしたという。

 ラリッサとステラは経歴としては似ているが、裕福な家庭出身で大学を卒業し、教職をえるのが初等学校よりもはるかにむずかしい高等学校で教師をしていたラリッサとでは、比べること自体がおこがましいほどの差があった。

 ステラはラリッサと親しくなりたいと思っていたが、ラリッサはモリソン先生の政治活動用事務所の方で働いているため、ダシルバ法律事務所にくることが少なく話す機会がほとんどなかった。

「ラリッサ、ルカが仕事やめるといってない?」

 カミラがラリッサにモリソン先生付きの事務員のルカがやめないかを聞く。

 ラリッサが目を三日月にして笑い

「カミラって本当にモリソン先生が好きよね。残念ながらルカはさっき先生に『一生ついていきます』っていってたからチャンスはなさそうよ」

 カミラがわざとらしく落ち込んだふりをする。

「これはもうルカに怪我させて事務員の座をうばうしかないかもな」

 ジョージがふざけてそのようにいうと、

「残念。モリソン先生は清廉な印象をたもつため、女性を雇うときは既婚者に限るといってたわよ」

 ラリッサがそのようにいうとカミラが悲鳴をあげた。

「いやー! 私もうすぐ結婚するから既婚者にはなるけど、引っ越すからモリソン先生の所で働けない。ああ、タイミングが悪すぎよ」

 カミラが身もだえするのを皆で笑う。

「そういえばステラは結婚しているの?」

 ラリッサに聞かれ、ステラがこたえようと口を開きかけたところでカミラが、

「ラリッサ、そんなかわいそうなこと聞いちゃだめだよ。旦那さんのお友達とか知り合いで未婚男性がいたらステラに紹介してあげて。ステラはモテないから何とかしてあげないとね」と痛いところをつく。

「未婚男性の知り合いについて夫に聞いておくわ」ラリッサがいった。

 ステラはラリッサにそのようなことはしなくてよいといいたかったが、カミラが自身の結婚を楽しみにしている話をしだしたのでいいそびれてしまった。

 ステラはラリッサが、カミラのいったことを真に受けないことを祈った。







「すみません。ジョージ・ウルソンはまだ事務所にいますか?」

 ステラが事務所の出入り口付近にいたところ年下の女の子に声をかけられた

 ジョージの席をたしかめると席に座っている。

「ご用件は?」

「ジョージの妹です」

 妹と聞き女の子の顔をあらためて見ると、たしかにジョージに似ていた。

 ジョージに取り次いだあと仕事をしていると、「あなたが同僚のステラ?」とジョージの妹から声をかけられた。

「お兄ちゃんは先生の部屋に書類をおきにいったわ」というと、ジョージの妹がステラをじっと見つめたあとくすりと笑った。

「最近よくあなたの話がでるから、お兄ちゃんの幼馴染みの婚約者が気をもんでたけど大丈夫そうだね」

 どうやら勝手に品定めされていたらしい。

「お兄ちゃんやさしいから変な勘違いしないでね」

 急にジョージの妹が小さく手をふった。ジョージが自分の席にもどってこようとしているのだろう。

「心配しなくて大丈夫だよ。隣の席に座っているただの同僚だから」

 ジョージの妹はうたがうような表情をみせたが、ジョージに声をかけられると二人で言い合いをしながらにぎやかに事務所をでていった。

 事務所に静寂がもどる。

 カミラもラリッサもすでに帰宅している。

 ステラは椅子の背もたれに体をもたれかけると、ジョージに婚約者がいること知りショックを受けている自分に苦笑した。

 ジョージのやさしさは誰にでもやさしい人だからで、ステラに特別やさしいわけでないのは分かっていた。幼馴染みのクロードが女の子達にみせてきたのと同じやさしさだ。

 だからジョージにやさしくされても勘違いしないように気をつけていたつもりだった。

 しかしニウミールにきてから人からやさしくされることが少なかったので、ジョージのやさしさがうれしく、いつの間にか勘違いしてしまっていたようだ。

 クロードのやさしさに引き寄せられた女の子達の気持ちが分かった。きっといまのステラと同じようにやさしくしてくれたのにと割り切れない思いをいだいたのだろう。

 これまで勘違いさせるクロードが悪いとは思っていたが、女の子達に対してちょっぴり思い込みがはげしすぎるのではという気持ちがあった。

 しかし自分が彼女たちと同じ立場になると、やさしくされれば単純にうれしく、そのやさしさをもっとほしいと求めてしまうものなのだと分かる。

「やっぱり勘違いさせる方が悪いよ、クロード」

 ステラは思わずつぶやく。きっとクロードはステラのその言葉にうなずくことはないだろうと思うと笑えた。

「さてと、さっさと終わらせて私も帰ろう」

 ステラは座り直すと終えるべき仕事に意識をむけた。
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