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第一章 『私のまほう使い』
⑨ 『さらわれたアミィ』
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何かが聞こえる。
うっ、ううっ……。という感じの、苦しそうな声が。
でも、私もなんだか気分が悪い。左のお腹の横の辺りに何かが押しつけられているみたいで……。
私は重い目を開ける。すると、何故か木が見えた。そしてそれが動いていく……。いや、違う。私が動いているんだ。
誰かに抱えられて、私は森の中を移動しているみたい。
別の方向を見ると太い腕が見えて、さらにその上を見る。すると、あの人さらいの大男の顔がそこにはあった。
「なっ! はっ、離しなさいよ! 離して!」
私は大男に自分が攫われていることを理解し、逃れようと暴れる。
「ぐっ! うううっ……」
ジタバタとあばれているうちに、私の足が大男の背中に当たった。すると大男は苦しそうな顔をして、ひざをつく。
体をつかむ力がゆるんだので、私はそのスキに大男の腕から逃れる。
「まっ、まて! 逃がすわけにはいかねえだ!」
大男はそう言って私をつかまえようとしてくるけれど、動作がすごく遅い。
これなら逃げられる。そう思った。
「……あっ、あれ?」
でも、急に私の体から力が抜けていく。
魔法の力を使ってからどれくらい経っているのか分からないけれど、まだ私の体は疲れたままみたいだ。
「にっ、逃がさねぇだ」
「くっ!」
へなへなと地面に腰をおろしてしまった私は、大男をにらみつける。それしか出来なかった。
けれど、私ににらまれたことで、大男は私から少しはなれる。後ずさる。
「また、あのおっかねぇ力を、魔法ってやつを使うつもりなんか?」
大男はふるえている。明らかに私を怖がっているようだ。
「そんなの、あなたの自業自得でしょうが! リリーナをさらおうとしたんだから!」
体が動かせないので、大声で文句を言う。
「そういえば、リリーナ達はどこ? それに、私をさらってどうするつもりなのよ?」
「えっ、あっ、それは……」
大男が口をモゴモゴさせて何も言ってこないので、私は一層大きな声で文句を言う。
「なんで子どもをさらおうとするのよ! しかも女の子を! いい! 私に変なことをしようとしたら、すぐに私の大事な人が、あなたなんてコテンパンにしちゃうんだから!」
私が強気で言うと、大男はドスンと大きなおしりを地面に落とし、こっちに背中を向け、頭を両手でかかえてふるえ始める。
「なっ、なんなのよ。あなたは……」
大きな体とは似つかないその行動に、どうしたらいいものかと私は困ってしまう。
なんとか足に力を入れて立ち上がると、私はふるえている大男に近づく。すると、大男のシャツの背中の部分に大きな穴が空いていることに気がついた。
そして、その穴から、もう乾いてはいるものの血のあとが見えて、自分がこの大男にひどいケガを負わせた事をようやく理解した。
(……私が、やったんだ……)
リリーナを助けるためとはいえ、アゼルに使わないようにときつく言われていたのに。
私は一度自分の両手を見て、静かにそれをにぎりしめる。そして、これからどうするべきかを考えることにした。
「その、私の名前はアミィというの。よかったら、あなたの名前を教えてくれないかしら?」
私はなるべく優しい声で言う。すると、大男は、体をビクッとさせたかと思うと、ゆっくりと首を動かし、私に顔を向けてきた。
「あっ、あのおっかねぇ魔法を、また使ったりしねぇか?」
大男はそう確認してくる。
なんでさらわれた私が気を使わないといけないのかとも思うけれど、今は事情が分からないことにはどうしようもない。
「うん。約束するわ」
そう言うと、大男は体を正面に向ける。私もまだ疲かれていたので、大男と同じように地面に腰をおろした。
「その、オラは、ポールという名だ。おっかあがつけてくれたんだ」
「ポールね。お母さんがつけてくれたの?」
「んだっ」
大男、いや、ポールはそう言うと、どこかうれしそうに笑う。
少し会話をしただけだけれど、私は目の前にいるポールがそれほど悪い人には思えなかった。
いや、リリーナをさらおうとしたり、こうして私をさらったりしている時点で十分悪いことをしているんだけれど、でも、それが本人の意志ではないような気がした。
「ねぇ、ポール。あなたがさらおうとした、ピンクの髪の女の子や栗色の髪の女の子はどうしたの?」
「あっ、それは、逃げられちまった……。だから、気を失っていたおめぇを連れてきたんだ」
ポールは本当に申し訳無さそうに言う。
「そっか。よかった……」
リリーナとネイは無事のようだ。きっと先生に事情を伝え、さらにアゼルにもこの事を知らせてくれているはずだ。
私はそのことに、ほっと胸をなでおろす。
「その、すまねぇ事をしていると思っている。けれど、おっかあのためなんだ。本当にすまねぇけれど、オラといっしょに付いてきてくれ。そうしないと、薬がもらえねぇんだ」
ポールは大きな頭を地面にぶつかるのではという勢いで下げて、たのんでくる。
「薬? どういうこと? くわしく教えて」
私の言葉に、頷いて話してくれた。どうして女の子をさらおうとしたのかを。
うっ、ううっ……。という感じの、苦しそうな声が。
でも、私もなんだか気分が悪い。左のお腹の横の辺りに何かが押しつけられているみたいで……。
私は重い目を開ける。すると、何故か木が見えた。そしてそれが動いていく……。いや、違う。私が動いているんだ。
誰かに抱えられて、私は森の中を移動しているみたい。
別の方向を見ると太い腕が見えて、さらにその上を見る。すると、あの人さらいの大男の顔がそこにはあった。
「なっ! はっ、離しなさいよ! 離して!」
私は大男に自分が攫われていることを理解し、逃れようと暴れる。
「ぐっ! うううっ……」
ジタバタとあばれているうちに、私の足が大男の背中に当たった。すると大男は苦しそうな顔をして、ひざをつく。
体をつかむ力がゆるんだので、私はそのスキに大男の腕から逃れる。
「まっ、まて! 逃がすわけにはいかねえだ!」
大男はそう言って私をつかまえようとしてくるけれど、動作がすごく遅い。
これなら逃げられる。そう思った。
「……あっ、あれ?」
でも、急に私の体から力が抜けていく。
魔法の力を使ってからどれくらい経っているのか分からないけれど、まだ私の体は疲れたままみたいだ。
「にっ、逃がさねぇだ」
「くっ!」
へなへなと地面に腰をおろしてしまった私は、大男をにらみつける。それしか出来なかった。
けれど、私ににらまれたことで、大男は私から少しはなれる。後ずさる。
「また、あのおっかねぇ力を、魔法ってやつを使うつもりなんか?」
大男はふるえている。明らかに私を怖がっているようだ。
「そんなの、あなたの自業自得でしょうが! リリーナをさらおうとしたんだから!」
体が動かせないので、大声で文句を言う。
「そういえば、リリーナ達はどこ? それに、私をさらってどうするつもりなのよ?」
「えっ、あっ、それは……」
大男が口をモゴモゴさせて何も言ってこないので、私は一層大きな声で文句を言う。
「なんで子どもをさらおうとするのよ! しかも女の子を! いい! 私に変なことをしようとしたら、すぐに私の大事な人が、あなたなんてコテンパンにしちゃうんだから!」
私が強気で言うと、大男はドスンと大きなおしりを地面に落とし、こっちに背中を向け、頭を両手でかかえてふるえ始める。
「なっ、なんなのよ。あなたは……」
大きな体とは似つかないその行動に、どうしたらいいものかと私は困ってしまう。
なんとか足に力を入れて立ち上がると、私はふるえている大男に近づく。すると、大男のシャツの背中の部分に大きな穴が空いていることに気がついた。
そして、その穴から、もう乾いてはいるものの血のあとが見えて、自分がこの大男にひどいケガを負わせた事をようやく理解した。
(……私が、やったんだ……)
リリーナを助けるためとはいえ、アゼルに使わないようにときつく言われていたのに。
私は一度自分の両手を見て、静かにそれをにぎりしめる。そして、これからどうするべきかを考えることにした。
「その、私の名前はアミィというの。よかったら、あなたの名前を教えてくれないかしら?」
私はなるべく優しい声で言う。すると、大男は、体をビクッとさせたかと思うと、ゆっくりと首を動かし、私に顔を向けてきた。
「あっ、あのおっかねぇ魔法を、また使ったりしねぇか?」
大男はそう確認してくる。
なんでさらわれた私が気を使わないといけないのかとも思うけれど、今は事情が分からないことにはどうしようもない。
「うん。約束するわ」
そう言うと、大男は体を正面に向ける。私もまだ疲かれていたので、大男と同じように地面に腰をおろした。
「その、オラは、ポールという名だ。おっかあがつけてくれたんだ」
「ポールね。お母さんがつけてくれたの?」
「んだっ」
大男、いや、ポールはそう言うと、どこかうれしそうに笑う。
少し会話をしただけだけれど、私は目の前にいるポールがそれほど悪い人には思えなかった。
いや、リリーナをさらおうとしたり、こうして私をさらったりしている時点で十分悪いことをしているんだけれど、でも、それが本人の意志ではないような気がした。
「ねぇ、ポール。あなたがさらおうとした、ピンクの髪の女の子や栗色の髪の女の子はどうしたの?」
「あっ、それは、逃げられちまった……。だから、気を失っていたおめぇを連れてきたんだ」
ポールは本当に申し訳無さそうに言う。
「そっか。よかった……」
リリーナとネイは無事のようだ。きっと先生に事情を伝え、さらにアゼルにもこの事を知らせてくれているはずだ。
私はそのことに、ほっと胸をなでおろす。
「その、すまねぇ事をしていると思っている。けれど、おっかあのためなんだ。本当にすまねぇけれど、オラといっしょに付いてきてくれ。そうしないと、薬がもらえねぇんだ」
ポールは大きな頭を地面にぶつかるのではという勢いで下げて、たのんでくる。
「薬? どういうこと? くわしく教えて」
私の言葉に、頷いて話してくれた。どうして女の子をさらおうとしたのかを。
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