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第一章 エルマイラムの冒険者
㉑ 『不安と期待 そして、決着』
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頭部を狙う重力を利用した一撃を、猿に似た化け物は両手を交差させて防ごうとする。
だが、ジェノは硬い腕との激突を避け、剣の切っ先を上手く腕に当てて、毛に覆われた化け物の腕の皮膚を切り裂いた。
その痛みに、化け物は大きな奇声を上げて、腕のガードを下げる。
ジェノはその隙きを見逃さない。着地をするとすぐに、化け物の喉に剣の切っ先で突きを入れる。
浅くだが、化け物の喉の部分から血がこぼれ落ちた。
化け物は血を見て逆上したのか、両腕と背中から生えてきた腕を回転しながら振り回し、ジェノを吹き飛ばさんとする。
だが、すでに彼は化け物の攻撃範囲から飛び退いて離れている。
そして、逆にジェノは拳一つ分ほどの距離で彼の体に届かなかった左腕の掌部分に、カウンターで斬撃を食らわせて切り飛ばした。
「ほ~う。また腕を上げたようだな、ジェノちゃん」
仕事を終わらせたリットが、魔法の力でコウの隣に瞬間移動して現れ、そんな軽口を叩く。
「おい、コウ。そんなに前のめりになっていたら、転げ落ちるぞ」
この屋根の上にはリットが魔法を掛けていて、あらゆる攻撃を防げるようにしている。だが、ここから落ちてしまえば守るものはなにもない。
「ははっ。聞こえちゃあいないか」
コウは瞬きをするのも忘れたかのように、じっとジェノと化け物の戦いに魅入っていた。
その瞳には不安と期待感で溢れている。先程までの絶望感はまるで感じられない。
化け物はジェノに向かって突進する。質量の大きさを利用して吹き飛ばすつもりなのだろう。
「ジェノさん!」
心配するコウの声が響き渡る。
だが、ジェノはそれを難なく横に交わすと、続きざまに化け物が横に振り回す腕を搔い潜り、三撃目の背中から生えた腕の一撃を下からの斬り上げで見事に両断した。
しかし、ジェノの攻撃はまだ続く。突進をかわしたことで無防備になった化け物の左足のふくらはぎ部分に一撃を叩き込んだ。
化け物は悲鳴とともに、バランスを崩して前につんのめって転倒した。
「…………」
ジェノは無言で剣を構えて、倒れた化け物に近づいて行く。
化け物はうつ伏せの状態から仰向けになる反動を使って腕を振り回したが、やはりその攻撃はあと少しのところでジェノに届かない。そして、再びその先端部分が無情に斬り飛ばされる。
「すっ、すごい。あの化け物が、全然相手にならない……」
あまりにも一方的な展開に、コウは驚きながらも興奮していた。自分が依頼した冒険者のあまりの強さに。
だが、そんなコウとは対象的に、ジェノはただ冷静に化け物の攻撃を交わし、カウンター攻撃を繰り返し続ける。
化け物の武器である腕が使い物にならないほど短くなっても、距離を取りながら、攻撃の瞬間だけ距離を詰める、ヒットアンドアウエイを続けて、確実に化け物の気力と生命力を奪い取っていく。
そして、ジェノの一方的な攻撃がしばらく続いた後に、化け物は力なく正面に倒れ込んだ。
最後の抵抗であるかのように、その醜悪な蜘蛛のような顔をジェノに向けるが、すぐさまそこに連続して斬撃が叩き込まれ、化け物の命運は尽きることとなった。
ジェノは化け物がもう動けないことをしっかり確認すると、
「コウ! お前の出番だ!」
化け物から目を離さずに、そう叫んだ。
「えっ、あっ、僕?」
驚くコウの頭に、リットはポンと手を置く。
「さぁ、クライマックスだ。エスコートはしてやるから、頑張れよ」
リットはそう言うと、魔法の力で自分とコウの体を宙に浮かせて、ジェノの元に向かって飛んでいく。
「わっ、とっ、飛んでいる?」
驚くコウだったが、化け物の姿が近づくにつれて、その顔に恐怖が浮かんでいく。
そして、リットに連れられて、コウはジェノ隣に立ったのだが、恐怖で化け物を直視することが出来ずに居た。
「コウ。目を背けるな! これから、俺とお前でこいつにとどめを刺すぞ」
だが、そんな彼に、ジェノは酷なことをさせようとする。
「僕が……。止めを……」
「お前の父さんの仇を取るんだろう! それをやるのはお前だ。お前でなくてはいけないんだ!」
震えるコウを、ジェノは叱咤する。
「……ジェノさん。僕、僕は……」
コウは恐怖を堪えて顔を上げ、ジェノの顔を黙って見上げた。
ジェノは小さく頷き、
「俺の手の上に掌を重ねるんだ。決して手を離すな。そして、こいつから目も離すな」
そう告げる。
「はい!」
コウはそう答えると、剣を怪物の顔に突き刺さんとするジェノの掌に自分の小さなそれを重ねる。
次の瞬間、ジェノの掌がわずかに動かされた。コウは手を離すまいと腕を伸ばす。
ジェノとコウが一緒に放ったその一撃を顔に受けて、化け物猿は力なく顔を俯けて動かなくなった。
「あっ、ああ……。僕、僕は……」
掌に伝わってきたなんとも言えない不快な感触。そして、目の前で消えていく命。それらが激情となって込み上げてきて、コウは泣き出してしまう。
そんなコウを、ジェノは優しく抱きしめた。
泣いて、泣いて、コウの涙が止まるまで、ジェノは彼を優しく抱きしめ続けた。
そして、コウが泣き止むと、ジェノは体を離して優しい微笑みをコウに向ける。
「辛い思いをさせてしまったな。だが、お前は父さんの仇を取ったんだ。恐ろしい化け物を倒したんだ。だからもう、怯えなくてもいいんだ……」
そう何度もコウに言い聞かせるように言い、ジェノは彼の頭を優しく撫でるのだった。
だが、ジェノは硬い腕との激突を避け、剣の切っ先を上手く腕に当てて、毛に覆われた化け物の腕の皮膚を切り裂いた。
その痛みに、化け物は大きな奇声を上げて、腕のガードを下げる。
ジェノはその隙きを見逃さない。着地をするとすぐに、化け物の喉に剣の切っ先で突きを入れる。
浅くだが、化け物の喉の部分から血がこぼれ落ちた。
化け物は血を見て逆上したのか、両腕と背中から生えてきた腕を回転しながら振り回し、ジェノを吹き飛ばさんとする。
だが、すでに彼は化け物の攻撃範囲から飛び退いて離れている。
そして、逆にジェノは拳一つ分ほどの距離で彼の体に届かなかった左腕の掌部分に、カウンターで斬撃を食らわせて切り飛ばした。
「ほ~う。また腕を上げたようだな、ジェノちゃん」
仕事を終わらせたリットが、魔法の力でコウの隣に瞬間移動して現れ、そんな軽口を叩く。
「おい、コウ。そんなに前のめりになっていたら、転げ落ちるぞ」
この屋根の上にはリットが魔法を掛けていて、あらゆる攻撃を防げるようにしている。だが、ここから落ちてしまえば守るものはなにもない。
「ははっ。聞こえちゃあいないか」
コウは瞬きをするのも忘れたかのように、じっとジェノと化け物の戦いに魅入っていた。
その瞳には不安と期待感で溢れている。先程までの絶望感はまるで感じられない。
化け物はジェノに向かって突進する。質量の大きさを利用して吹き飛ばすつもりなのだろう。
「ジェノさん!」
心配するコウの声が響き渡る。
だが、ジェノはそれを難なく横に交わすと、続きざまに化け物が横に振り回す腕を搔い潜り、三撃目の背中から生えた腕の一撃を下からの斬り上げで見事に両断した。
しかし、ジェノの攻撃はまだ続く。突進をかわしたことで無防備になった化け物の左足のふくらはぎ部分に一撃を叩き込んだ。
化け物は悲鳴とともに、バランスを崩して前につんのめって転倒した。
「…………」
ジェノは無言で剣を構えて、倒れた化け物に近づいて行く。
化け物はうつ伏せの状態から仰向けになる反動を使って腕を振り回したが、やはりその攻撃はあと少しのところでジェノに届かない。そして、再びその先端部分が無情に斬り飛ばされる。
「すっ、すごい。あの化け物が、全然相手にならない……」
あまりにも一方的な展開に、コウは驚きながらも興奮していた。自分が依頼した冒険者のあまりの強さに。
だが、そんなコウとは対象的に、ジェノはただ冷静に化け物の攻撃を交わし、カウンター攻撃を繰り返し続ける。
化け物の武器である腕が使い物にならないほど短くなっても、距離を取りながら、攻撃の瞬間だけ距離を詰める、ヒットアンドアウエイを続けて、確実に化け物の気力と生命力を奪い取っていく。
そして、ジェノの一方的な攻撃がしばらく続いた後に、化け物は力なく正面に倒れ込んだ。
最後の抵抗であるかのように、その醜悪な蜘蛛のような顔をジェノに向けるが、すぐさまそこに連続して斬撃が叩き込まれ、化け物の命運は尽きることとなった。
ジェノは化け物がもう動けないことをしっかり確認すると、
「コウ! お前の出番だ!」
化け物から目を離さずに、そう叫んだ。
「えっ、あっ、僕?」
驚くコウの頭に、リットはポンと手を置く。
「さぁ、クライマックスだ。エスコートはしてやるから、頑張れよ」
リットはそう言うと、魔法の力で自分とコウの体を宙に浮かせて、ジェノの元に向かって飛んでいく。
「わっ、とっ、飛んでいる?」
驚くコウだったが、化け物の姿が近づくにつれて、その顔に恐怖が浮かんでいく。
そして、リットに連れられて、コウはジェノ隣に立ったのだが、恐怖で化け物を直視することが出来ずに居た。
「コウ。目を背けるな! これから、俺とお前でこいつにとどめを刺すぞ」
だが、そんな彼に、ジェノは酷なことをさせようとする。
「僕が……。止めを……」
「お前の父さんの仇を取るんだろう! それをやるのはお前だ。お前でなくてはいけないんだ!」
震えるコウを、ジェノは叱咤する。
「……ジェノさん。僕、僕は……」
コウは恐怖を堪えて顔を上げ、ジェノの顔を黙って見上げた。
ジェノは小さく頷き、
「俺の手の上に掌を重ねるんだ。決して手を離すな。そして、こいつから目も離すな」
そう告げる。
「はい!」
コウはそう答えると、剣を怪物の顔に突き刺さんとするジェノの掌に自分の小さなそれを重ねる。
次の瞬間、ジェノの掌がわずかに動かされた。コウは手を離すまいと腕を伸ばす。
ジェノとコウが一緒に放ったその一撃を顔に受けて、化け物猿は力なく顔を俯けて動かなくなった。
「あっ、ああ……。僕、僕は……」
掌に伝わってきたなんとも言えない不快な感触。そして、目の前で消えていく命。それらが激情となって込み上げてきて、コウは泣き出してしまう。
そんなコウを、ジェノは優しく抱きしめた。
泣いて、泣いて、コウの涙が止まるまで、ジェノは彼を優しく抱きしめ続けた。
そして、コウが泣き止むと、ジェノは体を離して優しい微笑みをコウに向ける。
「辛い思いをさせてしまったな。だが、お前は父さんの仇を取ったんだ。恐ろしい化け物を倒したんだ。だからもう、怯えなくてもいいんだ……」
そう何度もコウに言い聞かせるように言い、ジェノは彼の頭を優しく撫でるのだった。
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