彼は、英雄とは呼ばれずに

トド

文字の大きさ
35 / 249
第二章 その出会いに、名をつけるのならば

④ 『再会』

しおりを挟む
 しっかりと暖かな格好をしてきたが、肌寒さを感じる。
 もう何時間か経てば、逆に暑くてたまらなくなってしまうのだろうが、早朝の空気はやはり冷たい。
 寝付けないのではと不安だったメルエーナだったが、昨晩は久しぶりに料理作りを頑張ったおかげか、ぐっすりと眠ることができた。
 今日は森の中を歩き廻らなければいけないのだから、十分に睡眠を取れたのは喜ばしい。

 そして、まだ日が昇らない時間に目を覚まし、母と一緒に父と自分たちの分の昼のお弁当を作ったメルエーナは、かなり早めの朝食を食べ、父親のコーリスと一緒に村の広場で、冒険者(正確には見習いらしいが)の人達が来るのを待っていた。

「いいか、メル。絶対に父さんから離れるんじゃあないぞ」
「はい。分かっています」
 父は何度も何度も念を押してくる。
 けれど、それは自分のことを心から心配してくれているからに他ならないことは、メルエーナも分かっている。

 昨日の晩、母のリアラに、父と一緒に村人の捜索に行くようにと言われたときには驚いた。

 リアラは、昨日のあの帰り道に、自分たちの後を付けてきたらしい人物がまた娘を狙って来る可能性を考えて、家族の中で一番頼りになる父親と一緒の方が安全だと判断したのだ。
 
「撒いたつもりだけれど、最悪、この家に入るところを見られていたかもしれない。そんな中で、この娘を一人で家に置いておくのは危険だわ。それに、私と一緒にいても、私一人では守れない。
 だから、あなた。大変だけれども、メルのことをお願いしたいの」
 最愛の妻に頼りにされて、父はその提案を快諾した。

 本当に、いつまで経っても仲のいい夫婦で嬉しいとメルエーナは微笑む。
 そして、将来の話だが、いつかは自分もこんな風に信頼し会える素敵な男性と出会いたいと思う。

 そんな事を考えていると、こちらに向かってくる赤髪の少女と黒髪の少年の姿が見えた。
 その黒髪の少年――ジェノの姿を見て、メルエーナは自分の鼓動が早くなっていくことに気づく。

 だが……。

「えっ?」
 思わずメルエーナは、そんな言葉を発してしまった。

 母がいた。
 いや、別にまだ村から出てもいないのだから、母がいるのは別におかしなことではないのだが、朝食を食べ終わった後に、少し出かけると言って出ていったはずの母が、どうしてあの二人と一緒に仲良く歩いているのか理解できなかった。

「お待たせ、あなた。メルエーナ。見送りに来たわよ」
「おっ、お母さん。どうして、その、こちらの方たちと?」
 メルエーナのもっともな質問に、リアラは微笑む。

「別に何もないわよ。ここに向かう途中で、偶然出会ったの。そうよね、ジェノ君、イルリアちゃん」
 リアラのその言葉に、ジェノは頷き、イルリアは「ええ」と小さく答える。

「じぇっ、ジェノ君……」
 まだ自分はきちんとした自己紹介さえもしていないのに、どうして母がこんなに親しげなのか、メルエーナには訳がわからない。

「あっ、その。おはようございます。ジェノさん。イルリアさん」
 メルエーナが挨拶をすると、イルリアはニッコリ微笑み、「ええ、おはようございます」と返してくれる。
 だが、ジェノは「ああ」とだけ言うと、メルエーナには目もくれず、彼女の父のコーリスの前に歩み寄って頭を下げた。

「おはようございます。冒険者見習いのジェノといいます。今日はよろしくお願いします」
「おっ、おう。こちらこそ、よろしく頼む」
「まだ他の者が来ていないのですが、私が冒険者見習いたちの取りまとめをすることになりました。そこで、軽く出発前に情報確認をお願いできませんでしょうか?」
「わっ、分かった」
 ジェノは、早速今日の捜索についての話を父と始めてしまった。
 
 もちろん、それが今回の目的なのだから、当たり前のことだ。
 けれど、正直なところ、メルエーナは寂しさを感じてしまう。

「ああっ、ごめんなさいね。あの馬鹿は愛想っていうものがまったくないのよ。行方不明の……ハンクさん、だったわよね? その人をどうやって見つけるかで頭がいっぱいなわけ」
 イルリアはそう言って肩をすくめる。

「そうなんですか。いえ、その、頼もしいです。今日はどうかよろしくお願いします」
 メルエーナが頭を下げ、そして顔を上げて微笑むと、イルリアは感心して頷く。

「うんうん。なるほどなるほど。物腰も柔らかだし、こんなに可愛いんだもの。仕方ないわね」
「えっ? どうなさったんですか?」
 メルエーナの問に、イルリアはニッコリ微笑む。

「改めて、イルリアよ。歳は十六歳。今日の捜索では女は私と貴女しかいないみたいだから、良かったら仲良くしてくれないかしら?」
 そう言って差し出された手の意味に気づき、メルエーナは慌てて自分も名乗る。

「メルエーナです。その、私も十六歳です。よろしくお願いします」
 そう言ってイルリアの手を握ると、ガッチリと握手をしてくれた。

「で、あの無愛想な馬鹿が、ジェノ。歳は私達と同じ。剣の腕は良いんだけれど、いつも仏頂面で何考えているのかよくわからないの。まぁ、悪人ではないから、そこだけは信じてやって」
「あっ、はい。ですが、同い年なんですね、ジェノさんも……。年上かなって思っていました」
 メルエーナの素直な感想に、イルリアは苦笑する。

「あいつは、なんか年寄りくさいのよ。若さがないのよ、若さが」
 イルリアの言いようがあまりにも芝居がかっていて、メルエーナは悪いとは思いながらも微笑んでしまう。

「うんうん。貴女とはやっぱり気が合いそうだわ」
 イルリアは本当に嬉しそうに言ってくれた。

 ジェノが父と打ち合わせをしている間、メルエーナはイルリアとの他愛のない話を楽しむ。
 もちろん、これから行方不明の村の仲間を捜索するのだから、気を抜きすぎてもいけないが、気を張り詰めすぎても良いことはないと自分に言い訳をして。

 それから、父とジェノが話し合いを終えたのを確認し、メルエーナとイルリアは二人のもとに歩み寄る。
 そして、今回の探索の方針を皆で確認し合う。

「それでは、俺が先頭で道案内をしよう。後は、今指定した箇所にたどり着いてから、範囲を広げて捜索する。とは言っても、娘を入れても四人では、そう大した捜索はできそうもないがな」
 コーリスは頭を掻いて嘆息する。
 だが、メルエーナも父の気持ちが分かる。人を捜索するのならば、最低でもこの倍の人数は欲しいはずだ。

「すみません。私達と同じ冒険者見習いには全員声をかけて、あと五人は来る予定だったのですが……」
 ジェノが何も言わないためだろう。イルリアがそう謝罪する。

「いや、嬢ちゃん……ええと、イルリアさんだったな。あんたのせいではない。気にしないでくれ」
 コーリスはそう言い、説明に使った地図をリュックにしまう。

「ありがとうございます。それと、私のことはどうかイルリアと呼んで下さい。この無愛想な男もジェノと呼んで頂ければ結構ですので」
「そうか? 分かった。そう呼ばせてもらうことにしよう」
 父が笑顔なのを見て、メルエーナは微笑む。

 少しとっつきにくいところがある父だが、最初から今回の捜索にやる気を見せたジェノと、礼儀をわきまえたイルリアには好印象を抱いたようだ。

 その後、集合時間まで待ったが、結局ジェノとイルリア以外の冒険者たちは姿を見せなかった。

 そのため、やむを得ずに四人で森に入ろうとした時だった。

 三人の男達が、遅れて広場に姿を見せたのは。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました

志熊みゅう
恋愛
 十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。  卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。  マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。  その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。  ――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。  彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。  断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!

安全第一異世界生活

ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのになぜか溺愛ルートに入りそうです⁉︎【コミカライズ化決定】

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

処理中です...