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第三章 誰がために、彼女は微笑んで
⑬ 『不快感』
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夕食の時間になり、ジェノは夕食を持って、再びサクリ達の部屋を訪れる。
すると、部屋のドア越しにイルリアの声が聞こえてきた。
サクリの声は小さいので、どうしてもイルリアの声のほうが耳に入ってくる。しかし、彼女の声が楽しそうな響きをしていることから、サクリもきっと会話を楽しんでいるのだろう。
ドアをノックすると、イルリアが出てきた。別にそれは今までと変わらないのだが、何故かジェノの顔を見て、ニンマリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「……なんだ、その笑いは?」
「さぁね。それじゃあ、私は夕食を食べてくるんで、後はよろしくね」
イルリアはそう言うと、サクリに「ちょっと夕食を食べてくるわ」と気安い口調で言い、ジェノと入れ違いに部屋を出ていく。
「夕食を持ってきた」
ジェノは端的に用件を告げて、ベッドに座るサクリの元に歩み寄る。
「ありがとうございます」
サクリは礼を返してきた。昨日とは違う反応に、ジェノは心のうちで安堵する。
夕食時ということを考慮し、イルリアが移動式のテーブルをすでに準備してくれていた。そのため、ジェノはそこに静かにトレイを置く。
「嬉しい。また、この白いゼリーを作ってきて下さったんですね」
デザートの皿をみて、サクリは口元を緩める。
「……イルリアか……」
イルリアが、サクリの食事を誰が作っているか話したようだ。
ジェノは小さく嘆息する。
「ジェノさん。食事をする前に教えて下さい。この白いゼリーは、何という料理なのでしょうか?」
きっとイルリアとの話が楽しかったのだろう。サクリは明るい声で尋ねてくる。
「アプリコットの種で作った、アーモンドゼリーだ」
「えっ? これが、アプリコットの種から出来ているんですか?」
ジェノの答えに、サクリは驚く。
「ああ。アプリコットの種を割り、その中の白い部分を取り出して加工して、砂糖とミルクをあわせて作ったものだ」
ジェノは端的に説明する。
「そうなんですか。アーモンドゼリーなんて言葉は初めて聞きました。アプリコットの種にこんな有効利用法があったなんて……。
すごいですね。ジェノさんは料理が上手なだけではなく、物知りなんですね」
サクリの賛辞に、しかしジェノは「違う」と口にする。
「俺も今まで、このゼリーを作ったことはなかったし、名前も初めて聞くものだった。バルネアさんが、お前に食べさせてあげてほしいと、俺にレシピと材料を預けてくれていた。俺はただ、その言葉に従っただけだ」
正直、この料理がなければ、まともにサクリと話をすることも出来なかっただろう。
そして、サクリはあのままろくに食事を取らなかった可能性が高い。
普段はついつい忘れがちになってしまうが、やはりバルネアさんは素晴らしい料理人なのだと、ジェノは彼女を心のなかでもう一度称賛する。
「ですが、どうして私が、ゼリーが好きだと分かったのでしょうか?」
サクリが不思議そうに疑問を口にする。
「初めて店にやって来た時に、バルネアさんの料理を食べただろう。その時にゼリーだけは食べきっていた。だから、少なくともゼリーが嫌いではないことをバルネアさんは知っていたんだ」
ジェノはそう言うと、入口近くの壁に移動して、そこに背を預ける。
見られていては食べにくいだろうという配慮だった。
サクリは女神カーフィアに祈りを捧げ、食事を始める。
ゆっくりと、だが昨日までとは異なり、彼女は食事を楽しんでいるようだ。
ジェノはただ無言で、彼女が食事を終えるのを待った。
「とても美味しかったです。その、全部は食べ切れなかったですが……」
「俺に謝ることではないと言ったはずだ。それに、昨日よりずっと食が進んでいる。いい傾向だ」
申し訳無さそうに言うサクリに、ジェノは仏頂顔で答える。
そして、彼はサクリの食事が終わったことを理解して、トレイを回収するために動く。
トレイを近くのテーブルに置き、移動式のテーブルを片付ける。
食事のための上半身を起こしているのも大変だろうと思い、ジェノはそうしたのだが、サクリは横になろうとはしなかった。
「ジェノさん。その、イルリアさんが帰ってくるまで、少し話し相手になって頂けませんか?」
サクリの思わぬ申し出に、しかしジェノは「分かった」とそれを了承し、イルリアが座っていたベッド横の椅子に腰掛ける。
「その、ありがとうございました。ジェノさん。貴方に指摘してもらわなければ、私はカーフィア様に不敬を働いていたことにも気づかず、カルラとレーリアを貶めてしまっていた事にさえ気づきませんでした」
礼の言葉を口にするサクリに、ジェノは首を横に振る。
「そんな事をしたつもりはない。俺はただ、お前のただならない様子が気になって、その理由を話すように言い、それに個人の感想を口にしただけだ」
そのジェノの答えに、サクリは苦笑する。
「本当に、イルリアさんの言うとおりですね。貴方はどうしてそう人のお礼を素直に受け取ってはくれないのですか?」
「……俺は、よく知りもしない女神カーフィアとお前の大切な友人を侮辱したんだ。それを恨まれるようなことはあっても、礼を言われるようなことはしていない」
ジェノがそう言うと、サクリはクスクスと笑う。
「そうですか。では、そういうことにしておきます。そして、それならば、私の大切な友人を悪く言った責任を取ってくれるんでしょうか?」
サクリの言葉の巧みさに、ジェノはイルリアが間違いなく彼女に入れ知恵をしたことを理解する。
「何が望みなんだ?」
ジェノが嘆息混じりに言うと、サクリは口を開く。
「私の大切な友人の、親友の話を聞いて下さい。もっとも、話とはいっても、ほとんど自慢話ですから、聞いているのは苦痛ですよ」
言葉とは裏腹の、真っ直ぐな瞳でこちらを見てくるサクリに、ジェノは「分かった」と頷いた。
それから、サクリは親友の話を、カルラとレーリアと言う同い年の少女たちの話をし続けた。
それは、イルリアが部屋に帰って来てからも。
彼女は楽しそうに、嬉しそうに親友のことを語っていた。
「ふふっ、熱弁ね」
だから、話を聞いていたイルリアは、サクリが元気を取り戻してくれたようだと思ったようだった。
だが、ジェノはどうしてか、彼女がカルラとレーリアのことを話すのは、自分に気を使っているように見えた。
彼女達を侮蔑した自分に対して、免罪符を与えようとしているように思えてしまったのだ。
「……何故、俺に気を使う必要がある」
ジェノはその事を不快に感じた
なぜ、そう感じたのかは、ジェノ自身にもわからなかったのだが……。
すると、部屋のドア越しにイルリアの声が聞こえてきた。
サクリの声は小さいので、どうしてもイルリアの声のほうが耳に入ってくる。しかし、彼女の声が楽しそうな響きをしていることから、サクリもきっと会話を楽しんでいるのだろう。
ドアをノックすると、イルリアが出てきた。別にそれは今までと変わらないのだが、何故かジェノの顔を見て、ニンマリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「……なんだ、その笑いは?」
「さぁね。それじゃあ、私は夕食を食べてくるんで、後はよろしくね」
イルリアはそう言うと、サクリに「ちょっと夕食を食べてくるわ」と気安い口調で言い、ジェノと入れ違いに部屋を出ていく。
「夕食を持ってきた」
ジェノは端的に用件を告げて、ベッドに座るサクリの元に歩み寄る。
「ありがとうございます」
サクリは礼を返してきた。昨日とは違う反応に、ジェノは心のうちで安堵する。
夕食時ということを考慮し、イルリアが移動式のテーブルをすでに準備してくれていた。そのため、ジェノはそこに静かにトレイを置く。
「嬉しい。また、この白いゼリーを作ってきて下さったんですね」
デザートの皿をみて、サクリは口元を緩める。
「……イルリアか……」
イルリアが、サクリの食事を誰が作っているか話したようだ。
ジェノは小さく嘆息する。
「ジェノさん。食事をする前に教えて下さい。この白いゼリーは、何という料理なのでしょうか?」
きっとイルリアとの話が楽しかったのだろう。サクリは明るい声で尋ねてくる。
「アプリコットの種で作った、アーモンドゼリーだ」
「えっ? これが、アプリコットの種から出来ているんですか?」
ジェノの答えに、サクリは驚く。
「ああ。アプリコットの種を割り、その中の白い部分を取り出して加工して、砂糖とミルクをあわせて作ったものだ」
ジェノは端的に説明する。
「そうなんですか。アーモンドゼリーなんて言葉は初めて聞きました。アプリコットの種にこんな有効利用法があったなんて……。
すごいですね。ジェノさんは料理が上手なだけではなく、物知りなんですね」
サクリの賛辞に、しかしジェノは「違う」と口にする。
「俺も今まで、このゼリーを作ったことはなかったし、名前も初めて聞くものだった。バルネアさんが、お前に食べさせてあげてほしいと、俺にレシピと材料を預けてくれていた。俺はただ、その言葉に従っただけだ」
正直、この料理がなければ、まともにサクリと話をすることも出来なかっただろう。
そして、サクリはあのままろくに食事を取らなかった可能性が高い。
普段はついつい忘れがちになってしまうが、やはりバルネアさんは素晴らしい料理人なのだと、ジェノは彼女を心のなかでもう一度称賛する。
「ですが、どうして私が、ゼリーが好きだと分かったのでしょうか?」
サクリが不思議そうに疑問を口にする。
「初めて店にやって来た時に、バルネアさんの料理を食べただろう。その時にゼリーだけは食べきっていた。だから、少なくともゼリーが嫌いではないことをバルネアさんは知っていたんだ」
ジェノはそう言うと、入口近くの壁に移動して、そこに背を預ける。
見られていては食べにくいだろうという配慮だった。
サクリは女神カーフィアに祈りを捧げ、食事を始める。
ゆっくりと、だが昨日までとは異なり、彼女は食事を楽しんでいるようだ。
ジェノはただ無言で、彼女が食事を終えるのを待った。
「とても美味しかったです。その、全部は食べ切れなかったですが……」
「俺に謝ることではないと言ったはずだ。それに、昨日よりずっと食が進んでいる。いい傾向だ」
申し訳無さそうに言うサクリに、ジェノは仏頂顔で答える。
そして、彼はサクリの食事が終わったことを理解して、トレイを回収するために動く。
トレイを近くのテーブルに置き、移動式のテーブルを片付ける。
食事のための上半身を起こしているのも大変だろうと思い、ジェノはそうしたのだが、サクリは横になろうとはしなかった。
「ジェノさん。その、イルリアさんが帰ってくるまで、少し話し相手になって頂けませんか?」
サクリの思わぬ申し出に、しかしジェノは「分かった」とそれを了承し、イルリアが座っていたベッド横の椅子に腰掛ける。
「その、ありがとうございました。ジェノさん。貴方に指摘してもらわなければ、私はカーフィア様に不敬を働いていたことにも気づかず、カルラとレーリアを貶めてしまっていた事にさえ気づきませんでした」
礼の言葉を口にするサクリに、ジェノは首を横に振る。
「そんな事をしたつもりはない。俺はただ、お前のただならない様子が気になって、その理由を話すように言い、それに個人の感想を口にしただけだ」
そのジェノの答えに、サクリは苦笑する。
「本当に、イルリアさんの言うとおりですね。貴方はどうしてそう人のお礼を素直に受け取ってはくれないのですか?」
「……俺は、よく知りもしない女神カーフィアとお前の大切な友人を侮辱したんだ。それを恨まれるようなことはあっても、礼を言われるようなことはしていない」
ジェノがそう言うと、サクリはクスクスと笑う。
「そうですか。では、そういうことにしておきます。そして、それならば、私の大切な友人を悪く言った責任を取ってくれるんでしょうか?」
サクリの言葉の巧みさに、ジェノはイルリアが間違いなく彼女に入れ知恵をしたことを理解する。
「何が望みなんだ?」
ジェノが嘆息混じりに言うと、サクリは口を開く。
「私の大切な友人の、親友の話を聞いて下さい。もっとも、話とはいっても、ほとんど自慢話ですから、聞いているのは苦痛ですよ」
言葉とは裏腹の、真っ直ぐな瞳でこちらを見てくるサクリに、ジェノは「分かった」と頷いた。
それから、サクリは親友の話を、カルラとレーリアと言う同い年の少女たちの話をし続けた。
それは、イルリアが部屋に帰って来てからも。
彼女は楽しそうに、嬉しそうに親友のことを語っていた。
「ふふっ、熱弁ね」
だから、話を聞いていたイルリアは、サクリが元気を取り戻してくれたようだと思ったようだった。
だが、ジェノはどうしてか、彼女がカルラとレーリアのことを話すのは、自分に気を使っているように見えた。
彼女達を侮蔑した自分に対して、免罪符を与えようとしているように思えてしまったのだ。
「……何故、俺に気を使う必要がある」
ジェノはその事を不快に感じた
なぜ、そう感じたのかは、ジェノ自身にもわからなかったのだが……。
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