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第三章 誰がために、彼女は微笑んで
⑭ 『贈り物』
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朝食後に、いつものようにリットがやって来て、サクリに癒やしの魔法を掛ける。昨日までならリットの話にも上の空だったサクリも、今日はその話を楽しそうに聞いている。
今朝は朝食もほとんど残さなかった。それに、だいぶ明るくなった。
ジェノが随分と酷いことを言ったらしいが、しかし、それをきっかけにサクリが立ち直れたのだから、文句は言わないでおこうとイルリアは思う。
「う~ん、いいね。こんなふうに明るい声で話してくれるのであれば、俺も少しサービスをしたくなってしまうな」
サクリと話していたリットは、にっこり微笑んで、怪しげなことを言う。
「ちょっと、リット。サクリ……さんに、変なことをしようとしているんじゃあないでしょうね?」
イルリアの指摘に、リットは肩をすくめる。
「酷いなぁ。俺は、サクリちゃんに贈り物をしたいだけだぜ」
リットはそう言って立ち上がると、ベッドに座るサクリに自らの掌を向ける。
サクリが驚いて体を固くしたが、「大丈夫だよ。サクリちゃん」とリットが微笑むと、彼女は小さく頷いた。
次の瞬間、サクリの体が穏やかな光りに包まれる。その光はすぐに消えたが、別段サクリに変わった様子はない。
「あっ、あの、リットさん? いったい何をされたのでしょうか?」
サクリ自身も何が起こったのか自覚できていないようだ。
「サクリちゃん。少し、体を動かしてみなよ」
リットの言葉に、サクリは静かに右手を横に動かした。そして、「えっ?」と驚きの声を上げる。
「そっ、そんな……」
サクリは少しずつ体を大きく動かし始める。今までのゆっくりとした動きが嘘のように、彼女の体はキレよく動く。
「サクリちゃんの筋肉を少し強化させてもらった。動くのはだいぶ楽になるはずだ」
リットは気障ったらしい笑みをサクリに向ける。
「魔法による一時的なものだが、この天才の魔法ならば一日は持つぜ。癒やしの魔法と一緒に、これからはこの魔法も掛けることにしようと思う。だから、少し歩いて体を鍛えたほうがいいよ。そうすれば、魔法なしでも多少の無理は効くはずさ」
「リットさん……。ありがとうございます」
サクリは感激し、リットに礼を言う。
しかし、イルリアは不満だった
「ちょっと、リット。そんな事ができるんなら、どうして最初からその魔法を使わなかったのよ?」
イルリアのもっともな指摘に、しかしリットは悪びれた様子もなく笑う。
「俺は、サクリちゃんに癒やしの魔法をかけてほしいとしか頼まれていなかったんでね。それに、いくら女の子が相手でも、自分の意志で前に進もうとしない人間には、俺は力を貸したりはしないってだけさ」
「何よ、それ!」
気障な声で訳がわからない事を言うリットに、イルリアは怒声を浴びせるが、彼は気にした様子はなく、「それじゃあ、俺も朝飯に行ってくる」と言って部屋を出ていこうとする。
ただ、去り際に、
「ああっ、もしも甲板に出たくなったら、声をかけてね、サクリちゃん。俺が優しくエスコートするからさ」
とふざけたことを言う。
「いいから、とっとと食べて来なさいよ!」
イルリアの怒声を喉で笑い、リットはドアを締めて部屋を出ていった。
「まったく、あの女ったらしのろくでなしは……」
怒りが治まらないイルリア。だが、そんな彼女を見て、サクリはクスクスと笑う。
「もう、笑わなくてもいいじゃあないの」
「ふふっ、ごめんなさい。でも、おかしくて。イルリアも苦労しているのね」
「まぁね」
イルリアはサクリと顔を合わせて笑いあう。
「でも、リットさんて凄いわよね。あの若さで、あれ程の魔法を使えるなんて。いったい、どれほどの努力をしたのかしら?」
「う~ん、ごめんなさい。アイツのことって、自分を天才と自称する、度し難い女ったらしってくらいしか分からないのよね。まぁ、分かりたいとも思わないけれど」
「えっ? 同じ冒険者仲間なのに?」
サクリのもっともな問に、イルリアは頬を掻く。
「ジェノと二人で仕事することの方が多くて、アイツと仕事したことはあまりないのよ。つまらない仕事はしたくないってふざけた考え方をしている、いい加減な奴だから……」
イルリアは事実を口にしたのだが、サクリは口元に手をやって、意味ありげに微笑む。
「へぇ~。ジェノさんと二人きりなことが多いんだ。いいなぁ、あんな格好いい男の人とだなんて。ということは、もう、その、進んでいるの?」
「何を想像しているのか分かるけれど、まったくの誤解だから。だれがあんな馬鹿とそんな関係になるもんですか。私は、仕方なくあの馬鹿に協力しているだけ。それ以上はなんにもないわよ」
イルリアは心外だと言わんばかりに言葉を返す。
「なぁ~んだ、残念。せめてそういう話くらいは聞いてみたかったのに。カーフィア様の信徒は女性ばかりだから、みんなそういう話題に飢えているのよ」
「そうなんだ。まぁ、その辺りの話題が求められるのは、どこも同じよね」
サクリとイルリアはそう言って笑いあう。
だが、ここでイルリアは悪巧みをを思いつく。
「ねぇ、サクリ。リットの言葉に従うのは癪だけれど、少し歩く練習をしてみない? そして、もしも歩けそうなら、甲板に出てみましょうよ」
「えっ? でっ、でも……」
サクリは顔を俯けるが、イルリアはそんな彼女の頭を優しく撫でる。
「大丈夫よ。人がいない時間を見計らうから。それに、一度くらいは甲板からの景色を見ておかないともったいないわよ」
「……でも、私……」
震えるサクリを、イルリアは優しく抱きしめる。
「ごめんね。強制はしないから安心して。甲板から見る夕日はすごく綺麗なの。だから、よかったら見てほしいと思っただけだから」
イルリアの言葉に、サクリは小さく頷いた。
そして、イルリアはサクリの歩く練習を手伝ったが、思った以上にリットの魔法は効果があった。
サクリは最初こそ慣れるためにイルリアの助けを必要としたが、それ以降は自分だけの力で歩けるようになったのだ。
「どうする、サクリ? 別に今日ではなくてもいいけれど、明日には補給のために港町による予定だから、景色は今日の夕方が一番いいと思うけど?」
イルリアの提案に、サクリは今日、夕日を見ることを願った。
それを笑顔で受け止めながら、イルリアは心の中で少し意地悪な悪戯を企てるのだった。
今朝は朝食もほとんど残さなかった。それに、だいぶ明るくなった。
ジェノが随分と酷いことを言ったらしいが、しかし、それをきっかけにサクリが立ち直れたのだから、文句は言わないでおこうとイルリアは思う。
「う~ん、いいね。こんなふうに明るい声で話してくれるのであれば、俺も少しサービスをしたくなってしまうな」
サクリと話していたリットは、にっこり微笑んで、怪しげなことを言う。
「ちょっと、リット。サクリ……さんに、変なことをしようとしているんじゃあないでしょうね?」
イルリアの指摘に、リットは肩をすくめる。
「酷いなぁ。俺は、サクリちゃんに贈り物をしたいだけだぜ」
リットはそう言って立ち上がると、ベッドに座るサクリに自らの掌を向ける。
サクリが驚いて体を固くしたが、「大丈夫だよ。サクリちゃん」とリットが微笑むと、彼女は小さく頷いた。
次の瞬間、サクリの体が穏やかな光りに包まれる。その光はすぐに消えたが、別段サクリに変わった様子はない。
「あっ、あの、リットさん? いったい何をされたのでしょうか?」
サクリ自身も何が起こったのか自覚できていないようだ。
「サクリちゃん。少し、体を動かしてみなよ」
リットの言葉に、サクリは静かに右手を横に動かした。そして、「えっ?」と驚きの声を上げる。
「そっ、そんな……」
サクリは少しずつ体を大きく動かし始める。今までのゆっくりとした動きが嘘のように、彼女の体はキレよく動く。
「サクリちゃんの筋肉を少し強化させてもらった。動くのはだいぶ楽になるはずだ」
リットは気障ったらしい笑みをサクリに向ける。
「魔法による一時的なものだが、この天才の魔法ならば一日は持つぜ。癒やしの魔法と一緒に、これからはこの魔法も掛けることにしようと思う。だから、少し歩いて体を鍛えたほうがいいよ。そうすれば、魔法なしでも多少の無理は効くはずさ」
「リットさん……。ありがとうございます」
サクリは感激し、リットに礼を言う。
しかし、イルリアは不満だった
「ちょっと、リット。そんな事ができるんなら、どうして最初からその魔法を使わなかったのよ?」
イルリアのもっともな指摘に、しかしリットは悪びれた様子もなく笑う。
「俺は、サクリちゃんに癒やしの魔法をかけてほしいとしか頼まれていなかったんでね。それに、いくら女の子が相手でも、自分の意志で前に進もうとしない人間には、俺は力を貸したりはしないってだけさ」
「何よ、それ!」
気障な声で訳がわからない事を言うリットに、イルリアは怒声を浴びせるが、彼は気にした様子はなく、「それじゃあ、俺も朝飯に行ってくる」と言って部屋を出ていこうとする。
ただ、去り際に、
「ああっ、もしも甲板に出たくなったら、声をかけてね、サクリちゃん。俺が優しくエスコートするからさ」
とふざけたことを言う。
「いいから、とっとと食べて来なさいよ!」
イルリアの怒声を喉で笑い、リットはドアを締めて部屋を出ていった。
「まったく、あの女ったらしのろくでなしは……」
怒りが治まらないイルリア。だが、そんな彼女を見て、サクリはクスクスと笑う。
「もう、笑わなくてもいいじゃあないの」
「ふふっ、ごめんなさい。でも、おかしくて。イルリアも苦労しているのね」
「まぁね」
イルリアはサクリと顔を合わせて笑いあう。
「でも、リットさんて凄いわよね。あの若さで、あれ程の魔法を使えるなんて。いったい、どれほどの努力をしたのかしら?」
「う~ん、ごめんなさい。アイツのことって、自分を天才と自称する、度し難い女ったらしってくらいしか分からないのよね。まぁ、分かりたいとも思わないけれど」
「えっ? 同じ冒険者仲間なのに?」
サクリのもっともな問に、イルリアは頬を掻く。
「ジェノと二人で仕事することの方が多くて、アイツと仕事したことはあまりないのよ。つまらない仕事はしたくないってふざけた考え方をしている、いい加減な奴だから……」
イルリアは事実を口にしたのだが、サクリは口元に手をやって、意味ありげに微笑む。
「へぇ~。ジェノさんと二人きりなことが多いんだ。いいなぁ、あんな格好いい男の人とだなんて。ということは、もう、その、進んでいるの?」
「何を想像しているのか分かるけれど、まったくの誤解だから。だれがあんな馬鹿とそんな関係になるもんですか。私は、仕方なくあの馬鹿に協力しているだけ。それ以上はなんにもないわよ」
イルリアは心外だと言わんばかりに言葉を返す。
「なぁ~んだ、残念。せめてそういう話くらいは聞いてみたかったのに。カーフィア様の信徒は女性ばかりだから、みんなそういう話題に飢えているのよ」
「そうなんだ。まぁ、その辺りの話題が求められるのは、どこも同じよね」
サクリとイルリアはそう言って笑いあう。
だが、ここでイルリアは悪巧みをを思いつく。
「ねぇ、サクリ。リットの言葉に従うのは癪だけれど、少し歩く練習をしてみない? そして、もしも歩けそうなら、甲板に出てみましょうよ」
「えっ? でっ、でも……」
サクリは顔を俯けるが、イルリアはそんな彼女の頭を優しく撫でる。
「大丈夫よ。人がいない時間を見計らうから。それに、一度くらいは甲板からの景色を見ておかないともったいないわよ」
「……でも、私……」
震えるサクリを、イルリアは優しく抱きしめる。
「ごめんね。強制はしないから安心して。甲板から見る夕日はすごく綺麗なの。だから、よかったら見てほしいと思っただけだから」
イルリアの言葉に、サクリは小さく頷いた。
そして、イルリアはサクリの歩く練習を手伝ったが、思った以上にリットの魔法は効果があった。
サクリは最初こそ慣れるためにイルリアの助けを必要としたが、それ以降は自分だけの力で歩けるようになったのだ。
「どうする、サクリ? 別に今日ではなくてもいいけれど、明日には補給のために港町による予定だから、景色は今日の夕方が一番いいと思うけど?」
イルリアの提案に、サクリは今日、夕日を見ることを願った。
それを笑顔で受け止めながら、イルリアは心の中で少し意地悪な悪戯を企てるのだった。
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