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予告編
予告編① 『私から、ここにいる貴方へ』
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いつもそうだ。
あの人は、自分が傷つくことを厭わない。
そして、ぼろぼろになって他人のために頑張って、物事を解決しても、御礼の言葉すらろくに受け取ろうとはしない。
私はその事が悲しかった。そして、それと同時に腹立たしくも思っていた。
でも、そんなあの人を叱る役は、いつもイルリアさんがしてくれている。だから、私はいつも黙っていた。
けれど、そういった積み重ねは、私自身も気づかないうちに、私の中でどんどん膨れ上がってきていたようだ。
ある日、朝の掃除をしようと部屋を出ると、すでにあの人が掃除を始めていた。昨日も夜遅くまで仕事をしていたのだから、今朝の掃除は自分が代わると言っておいたのに。
……正直、腹が立った。
私の言うことを、あの人が聞いてくれないこともそうだけれど、それ以上に私を頼ってくれないことに。
「おはようございます、ジェノさん」
私は少し怒気を込めた声で、朝の挨拶を口にする。
「ああ、おはよう」
あの人は振り返って短くそう応えると、再び掃除に戻ってしまう。
「ジェノさん。私、昨日の夜に言いましたよね。今朝の掃除は私がしますって」
「……そうだったな。だが、俺は代わるとは言っていない」
あの人は突き放すように言う。
「ジェノさん!」
私が少し強い口調で言うと、あの人は再び手を止めて、振り返る。
「いいから、もう少し休んでおけ。先週は仕事で街に居なかったから、全てお前に任せてしまった。その埋め合わせだとでも思ってくれ」
「ですが、いつもジェノさんはそう言って……」
「今日は、午後からリリィ達と出かけると言っていただろう? せっかくの楽しい時間も、疲れが残っていたら台無しになるぞ」
あの人は、そう言って僅かに口の端を上げる。
本当に、この人は他人のことを心配してばかりで、自分のことを疎かにしすぎている。
数日前に私が食事中に言った何気ない日程さえ覚えていて、そんな私を気遣おうとしてくれている。まだ、先週の仕事の疲れが残っているはずなのに。
どうしてなのだろう?
この人はめったに笑わない。
笑うことが無いわけではないが、その殆どが他人が幸せな時に微かに笑うだけだ。
他人の幸せが自分の幸せなのだと言わんばかりに、誰かの幸せを見ているだけ。自分はその幸せの輪に入ることを仕様とはしない。
まるで、自分には幸せになる資格は無いとでも言わんばかりに。
遠くにある幸せを眺める以上のことをしてはいけないと戒めているかのように。
……駄目だ。腹が立って仕方がない。
「いいですから! そのモップを渡して下さい!」
私は言うが早いか、返答を待たずに、あの人の手からモップを奪い取る。
「メルエーナ。だから、掃除は俺が……」
「ジェノさん!」
私は、そう言って、私の名前を呼んだあの人を睨む。そして、感情の赴くままに言葉を紡ぐ。
「ジェノさん! 貴方は、ここにいるんですよ!」
私は常日頃から思っている言葉を口にした。
「……どういう意味だ?」
あの人は怪訝そうな顔をしてこちらを見るが、頭に血が上った私は、一方的にまくしたてる。
「言葉通りです! なんですか、ジェノさんは! いつもいつも他人のために頑張るのに、自分はその輪に入ろうとはしないじゃあないですか!
まるで、自分がその輪の中に入って幸せになることを拒んでいるみたいに!」
声が大きくなってしまったけれど、私はもう止まらなかった。
「そんなの、おかしいです。貴方はいまここにいて、私達と同じ時間を過ごしているんですよ! それならば、もっと私達と時間を共有して下さい! 一方的に施すばかりではなく、こちらからのお返しも受け取って下さい! そうしないと、このままでは、ジェノさんが壊れてしまいます!」
そこまで一気に言って、私は呼吸を荒げる。
この人の前で、ここまで怒ってしまったのは初めてのことだ。
そう、怒ってしまった。
本当なら、叱るべきだったのに、感情のままに怒ってしまった。
これがバルネアさんなら、きっとしっかりとこの人を叱れたはずだ。でも、未熟な私には怒ることしか出来なかった。
「……そうか」
私のありったけの気持ちを聞いても、この人は短くそう応えただけだった。
私の手に思わず力がこもる。
駄目だ、このままだと私はこの人を叩いてしまいそうだ。
「済まないが、掃除を任せてもいいだろうか?」
けれど、あの人の口から溢れたその言葉に、私は手を止めることが出来た。
「……あっ、はい。もちろんです」
私は驚きながらも、なんとかそう答える。
「少し、休ませて貰う」
あの人はそう言って、私に背を向けた。
怒らせてしまったと思った。
後悔の気持ちが湧き上がってくる。
けれど、これだけはどうしても言って置かなければ行けなかったことだと思う。たとえ、この人に嫌われることになったとしても。
でも、そんな私にあの人は、
「済まなかった。感謝する」
そう言って、部屋に戻って行ったんです。
それからというもの、あの人は、私からの掃除の交代などの提案を受け入れてくれることが多くなりました。
その事はとても嬉しかったです。
嫌われることを覚悟で、自分の思っていることを言って良かったと思います。
……できれば、もうこんな事はしたくはないですが。
でも、この時の私は知りもしませんでしたが、この少し後に、もう一度だけあの人に対して思い切り怒ることになります。
この時とは比較にならないほど、激怒することになるのです。
その時に、私は後悔します。
どうしてこの時に、もっとあの人の事をみんなが大切に思っていると伝えて置かなかったのかと。
せめて私だけでも、この胸の気持ちを伝えておかなかったのかと後悔するのです。
あの人は、自分が傷つくことを厭わない。
そして、ぼろぼろになって他人のために頑張って、物事を解決しても、御礼の言葉すらろくに受け取ろうとはしない。
私はその事が悲しかった。そして、それと同時に腹立たしくも思っていた。
でも、そんなあの人を叱る役は、いつもイルリアさんがしてくれている。だから、私はいつも黙っていた。
けれど、そういった積み重ねは、私自身も気づかないうちに、私の中でどんどん膨れ上がってきていたようだ。
ある日、朝の掃除をしようと部屋を出ると、すでにあの人が掃除を始めていた。昨日も夜遅くまで仕事をしていたのだから、今朝の掃除は自分が代わると言っておいたのに。
……正直、腹が立った。
私の言うことを、あの人が聞いてくれないこともそうだけれど、それ以上に私を頼ってくれないことに。
「おはようございます、ジェノさん」
私は少し怒気を込めた声で、朝の挨拶を口にする。
「ああ、おはよう」
あの人は振り返って短くそう応えると、再び掃除に戻ってしまう。
「ジェノさん。私、昨日の夜に言いましたよね。今朝の掃除は私がしますって」
「……そうだったな。だが、俺は代わるとは言っていない」
あの人は突き放すように言う。
「ジェノさん!」
私が少し強い口調で言うと、あの人は再び手を止めて、振り返る。
「いいから、もう少し休んでおけ。先週は仕事で街に居なかったから、全てお前に任せてしまった。その埋め合わせだとでも思ってくれ」
「ですが、いつもジェノさんはそう言って……」
「今日は、午後からリリィ達と出かけると言っていただろう? せっかくの楽しい時間も、疲れが残っていたら台無しになるぞ」
あの人は、そう言って僅かに口の端を上げる。
本当に、この人は他人のことを心配してばかりで、自分のことを疎かにしすぎている。
数日前に私が食事中に言った何気ない日程さえ覚えていて、そんな私を気遣おうとしてくれている。まだ、先週の仕事の疲れが残っているはずなのに。
どうしてなのだろう?
この人はめったに笑わない。
笑うことが無いわけではないが、その殆どが他人が幸せな時に微かに笑うだけだ。
他人の幸せが自分の幸せなのだと言わんばかりに、誰かの幸せを見ているだけ。自分はその幸せの輪に入ることを仕様とはしない。
まるで、自分には幸せになる資格は無いとでも言わんばかりに。
遠くにある幸せを眺める以上のことをしてはいけないと戒めているかのように。
……駄目だ。腹が立って仕方がない。
「いいですから! そのモップを渡して下さい!」
私は言うが早いか、返答を待たずに、あの人の手からモップを奪い取る。
「メルエーナ。だから、掃除は俺が……」
「ジェノさん!」
私は、そう言って、私の名前を呼んだあの人を睨む。そして、感情の赴くままに言葉を紡ぐ。
「ジェノさん! 貴方は、ここにいるんですよ!」
私は常日頃から思っている言葉を口にした。
「……どういう意味だ?」
あの人は怪訝そうな顔をしてこちらを見るが、頭に血が上った私は、一方的にまくしたてる。
「言葉通りです! なんですか、ジェノさんは! いつもいつも他人のために頑張るのに、自分はその輪に入ろうとはしないじゃあないですか!
まるで、自分がその輪の中に入って幸せになることを拒んでいるみたいに!」
声が大きくなってしまったけれど、私はもう止まらなかった。
「そんなの、おかしいです。貴方はいまここにいて、私達と同じ時間を過ごしているんですよ! それならば、もっと私達と時間を共有して下さい! 一方的に施すばかりではなく、こちらからのお返しも受け取って下さい! そうしないと、このままでは、ジェノさんが壊れてしまいます!」
そこまで一気に言って、私は呼吸を荒げる。
この人の前で、ここまで怒ってしまったのは初めてのことだ。
そう、怒ってしまった。
本当なら、叱るべきだったのに、感情のままに怒ってしまった。
これがバルネアさんなら、きっとしっかりとこの人を叱れたはずだ。でも、未熟な私には怒ることしか出来なかった。
「……そうか」
私のありったけの気持ちを聞いても、この人は短くそう応えただけだった。
私の手に思わず力がこもる。
駄目だ、このままだと私はこの人を叩いてしまいそうだ。
「済まないが、掃除を任せてもいいだろうか?」
けれど、あの人の口から溢れたその言葉に、私は手を止めることが出来た。
「……あっ、はい。もちろんです」
私は驚きながらも、なんとかそう答える。
「少し、休ませて貰う」
あの人はそう言って、私に背を向けた。
怒らせてしまったと思った。
後悔の気持ちが湧き上がってくる。
けれど、これだけはどうしても言って置かなければ行けなかったことだと思う。たとえ、この人に嫌われることになったとしても。
でも、そんな私にあの人は、
「済まなかった。感謝する」
そう言って、部屋に戻って行ったんです。
それからというもの、あの人は、私からの掃除の交代などの提案を受け入れてくれることが多くなりました。
その事はとても嬉しかったです。
嫌われることを覚悟で、自分の思っていることを言って良かったと思います。
……できれば、もうこんな事はしたくはないですが。
でも、この時の私は知りもしませんでしたが、この少し後に、もう一度だけあの人に対して思い切り怒ることになります。
この時とは比較にならないほど、激怒することになるのです。
その時に、私は後悔します。
どうしてこの時に、もっとあの人の事をみんなが大切に思っていると伝えて置かなかったのかと。
せめて私だけでも、この胸の気持ちを伝えておかなかったのかと後悔するのです。
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