彼は、英雄とは呼ばれずに

トド

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第六章 『そこに、救いなどなくて……』

⑧ 『女子会(それは、恋愛話の宝庫)』

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 最初は平和な飲み会だった。
 だが、流石に、マリアとメルエーナ、それにバルネアだけでは、若干気まずいということで、たまたま別件で夕方に<パニヨン>を訪ねてきたパメラに参加してもらったところから、話の方向性が変わり始めた。
 
 パメラが、「今回、一緒に旅をするのだから、もっと仲良くなりたい。本音で語り合いたいわ、お姉さんは!」と言って、言葉巧みにマリアにお酒を勧め、また自分も盃を重ねていった。その結果……。

「だぁかぁらぁ~、分かっていますよ。それこそ、バッチリしっかりと、分かっているんですってばぁ。ジェノがもう、メルエーナさんの彼氏になってしまったことはぁ~」
 普段であれば、それこそ物語に出てくる深窓の令嬢かお姫様のような風貌と落ち着いた雰囲気なのだが、前後不覚になりそうなほど酩酊している今のマリアは、涙を目に浮かべながら拗ねている。

「うんうん。分かってくれてお姉さんは嬉しいよ。これで、お互い気持ちよく友達付き合いができるってものだからね」
 パメラはそう言って、慰めるようにポンポンと彼女の背中を優しく叩く。

「うううっ。どうせ貴族に生まれた私は、自分の意志とは無関係に政治利用されて、愛のない結婚生活をするしかないんですよぉ~だ。くすん」
「それは、神官だって同じよ。マリア。私なんて、ちょっといいなぁと思った男の人がいても、取り巻きの若い女の子が追い払うのよ。そして、さも、お姉様を狙う不届き者を排除しましたと言わんばかりの笑顔を向けてきて。そのうえ、そんなことをするくせに自分には彼氏もいると来たもんだ! お姉さん、泣きたくなるよ……」
 パメラはそう言い、よよよっと泣く真似をする。

「あっ、あの。マリアさんもパメラさんも、流石にお酒はここまでにされた方が良いのではないでしょうか?」

 この上なく酔っている二人を心配してメルエーナは声を掛けたのだが、その瞬間、マリアとパメラにすごい顔で同時に睨まれた。

「聞いた、マリア? この余裕。寂しい私達と違って、彼氏持ちは心がおおらかでいいと思わない?」
「そうですね。しかも、人の初恋の相手を彼氏にしているのに、すごいですよね」
「まったくよね。その上、そんな傷心の私達にお酒を飲むなですって。ああっ、彼氏持ち様ってばぁ、全然寂しい女の気持ちなんてわからないんだなぁ。お姉さん、メルを見損なったよぉ」
 パメラとマリアは結託し、メルエーナを責める。

「ほらほら。そんなふうに喧嘩しちゃあ駄目よ。それと、ジェノちゃんが作ってくれた料理も減ってきたので、私が一品作ってみたわ。温かなスープだけど、良かったら食べてね」
 バルネアが厨房から出てくると、二人分の深皿に入れられたミルク仕立てのスープを皆の前に給仕する。

「美味しそう……」
「本当に。バルネアさんの料理って、どうしてこんなにいい香りがするんでしょうか?」
 お酒で酩酊しているパメラとマリアも、スープから立ち上る芳しさに言葉を失う。

「はい、どうぞ」
 バルネアにスプーンを手渡されたパメラとマリアは、お互いの顔を見て頷くと、そのまま嬉しそうにスープを口に運ぶ。そして、やさぐれていた二人の顔が満面の笑みに変わった。

「ああああっ、なんて優しい味……」
「本当。深いコクはあるのに、口当たりも後味も優しい……」
 お酒を飲むのを止めて、感動しながらバルネア特製スープを堪能する二人に、メルエーナは、ホッと胸をなでおろす。

「ねぇ、パメラちゃん」
 バルネアは満足そうに微笑むと、パメラとマリアの向かいの席に腰を下ろす。

「何です、バルネアさん?」
 パメラはスープを楽しみながら、バルネアに笑みを向ける。それを確認して、メルエーナもコソコソとバルネアの横に座る。

「パメラちゃんはさっき、いいなぁと思う男の子がいても、取り巻きの娘が追い払ってしまうと言っていたわよね。だから、パメラちゃんの好みの男性像って、『お肉を毎日食べさせてくれる人』になってしまっているの?」
「うっ……。まぁ、そうです、はい……」
「ええっ、もったいない! パメラさん、美人でスタイルもいいのに!」
 マリアが、バルネアとパメラの会話に割り込んでくる。

「いやぁ、そう言ってくれるのは嬉しいけれど、お姉さん、流石にマリアにそう言われると恐縮しちゃうなぁ」
「何を言っているんですか! 私と一つしか違わないのに、もう神官にまでなっているのって、並大抵のことではないことくらいは私にもわかります! 間違いなくパメラさんは才色兼備の素晴らしい女性です!」
「あっ、はははははっ。そこまで言われると、お姉さん照れちゃうよ」
 パメラはお酒以外の理由で頬を赤らませ、ポリポリと頬を掻く。

「でも、マリアちゃんの言うことはもっともよ。パメラちゃんは、もっと理想を高くしてもいいと思うわ。自分を過大評価するのは良いことではないかもしれないけれど、過小評価するのも良くないわよ。
 そして、いい御縁を結んで幸せになって欲しいわ」
 バルネアはそう言って微笑むと、今度はマリアの方を向く。

「もちろん、それはマリアちゃんもよ。お貴族様だから、自由恋愛というのは無理なのかもしれないけれど、御縁で結ばれることになる方と愛は育めないと最初から決めつけるのは良くないと思うわ。私の知り合いでも、生まれる前からの親の許嫁と結婚した女性がいるけれど、その人は幸せななっているわよ。逆に、大恋愛で結ばれた結果、袂を分かってしまった人もいるわ」
「そうなのですか?」
「ええ。それに、恋人ができて、結婚するのって、二人で生活をそこから始めていくということなのよ。決してゴールではないの。そこからがスタートよ。そのことは忘れては駄目」
 バルネアは再びパメラの方を向く。

「パメラちゃん。貴女がとってもいい娘だってことを私は知っているわ。だから、良い人と結ばれて欲しいと思うの。長い人生を一緒に歩いていくパートナーなのだからね」
「ううっ。そうですね。すみません、軽率な発言でした」
「謝ることなんてないわよ。パメラちゃんが大事にしたいと思えて、そして大事にしたいと思ってくれる方が、パメラちゃんの好きなお肉を無理なく食べさせてくれる人なのなら、それに越したことはないんだから」
 バルネアの言葉に、パメラは「はい」と穏やかに微笑む。

「そうですね。もう後悔はしたくないから、少し頑張ってみます」
 それは、パメラとしては何気なく口から漏れた決意の言葉だったのだが、その言葉に、メルエーナ達の目がキラッと光る。

「パメラさん、何か過去に……」
「もう、駄目よ、メル。こういうのは、じっくり話してもらわないと!」
 先程まで反目していたメルエーナに、マリアが加勢する。

「ちょっと待って! 今のナシ! よし、夜も更けてきたから、お姉さん、そろそろお暇するね」
 パメラはそう言って慌てて席を立とうとしたが、

「あら、残念。良いお肉があるから、ステーキでも焼こうかと思ったのだけれど……」
 バルネアの悪魔の囁きに屈して、過去の恋愛話を吐露することになってしまったのだった。
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