249 / 249
第六章 『そこに、救いなどなくて……』
⑩ 『馬車にて』
しおりを挟む
旅の初日は天気にも恵まれたこともあり、快適に進んだ。
お昼に食べたバルネアさん特製のお弁当は絶品だったし、女慣れしているであろうリット君は言わずもがな、シーウェンさんも気さくな人柄で話していてとても面白いと皆にも好評であった。
むしろ好評すぎて、これから私達が何をしに行くのかを改めて皆に注意を促さなければいけなかったほどに。
パメラは、これから自分たちはラセード村にお見合いパーティーをしに行くということを忘れてはいけませんよと、先輩たちに釘を差した。そうしておかねば、たらし込まれてしまいそうな人もいたからだ。
それはリットとシーウェンが魅力的なのが原因なのか、男性とまともに交際をしたことがない自分たちがちょろいのかは分からない。いや、きっと両方だろう。
そういえば、女性信徒が多い宗教の信徒はこうなりがちだと他の宗教の友人も困り顔で話していたのを思い出し、パメラは苦笑する。
そういった現場を考えると、こういった交流は良い事柄なのかもしれない。まぁ、どちらもマイナーな宗教なので、どちらの宗教に改宗してもらうかなどの問題はあるが。
(今の時代は、どの神様を信じるかは個人の自由とされているけれど、やっぱり一つの家族が別々の宗教を信仰しているのはトラブルの元だしね)
大昔にあったという邪神の信仰などは今が全く聞いたことがないし、宗教の違いによる争いももう何百年と起きてはいない。だから信仰の自由が人々には認められている。それは素晴らしいことだとパメラは思う。
それに、どの神様であろうと、元は一つの<世界樹>から生まれたのだから、その教義の違いなどで人々が命を奪い合うなどあるべきではないと思うし、この平和が続いてほしいと思う。
ただ、そのためには神々の教えを正しく後世に伝えていく存在が不可欠だ。そう、自分たちのような神官たちがその役目をしっかりと担っていくことが大事なのだ。
「シーウェンさん。お水を飲みませんか?」
先輩神官たちとのお喋りに興じているリットとは対象的に、シーウェンは話に参加はするけれど、自分の一つ前の席に座って前の馬車を、ジェノ達の乗ったそれを常に気にかけているようなので、パメラは少し気を休めてほしいと思い声を掛ける。
「ああ、ありがたい」
笑顔でそう言うと、シーウェンは昼食の際に皆に渡したグラスを差し出してきたので、パメラはそこに水筒から水を注ぐ。
「そんなに、ジェノ君のことが気になりますか?」
水を美味しそうに口にするシーウェンに尋ねると、彼は「まぁな」と笑みを返してきた。
話の流れで他の先輩神官に年を尋ねられたので知ったのだが、シーウェンはパメラの一つ上で、二十歳だという。ただ、それよりももう少し年上に思っていたパメラは内心で驚いていた。
別段、シーウェンが老けて見えるということではない。精悍な顔立ちだが、その所作が年相応以上に落ち着いた様子に思えるのだ。そんなところが良いと、彼に好感を持つ女性も多いだろうなぁとパメラは思う。
「ジェノは真面目で一生懸命なんだが、それが過ぎるところがあるんでな。先輩としては気になってしまうんだ」
シーウェンはジェノと同じ師匠の元で武術の鍛錬をしているのだという。そして、後輩であるジェノを可愛がっているようだ。それが彼の表情からも読み取れる。
「その気持ちはわかります。ジェノ君は仕事の時以外も肩に力が入りすぎている気がしますから。少しずつでも、メルがそれを改善してくれれば良いと思います」
「ああ。メル嬢ちゃんはいい娘だからな。ぜひそうなって欲しいものだな」
嬉しそうに笑うその笑顔を見て、パメラはきっとシーウェンもジェノに似ている性格なのだろうと感じ取った。この人も、他人のことを大切に思える人なのだろうと。
「こらこら、パメラ君。私達に注意をしておきながら、シーウェン君を独り占めするのは頂けないなぁ」
「そうそう。こんないい男と話をする機会なんてめったにないんだから、独り占めは駄目よ」
先輩たちにそう言われ、パメラはおどけたように、「いやぁ、すみません」と謝罪する。
シーウェンは気を利かせてくれて、それから積極的に皆との会話に入ってきてくれる様になった。
ただ。それでも皆の目を盗んでは前の馬車を気にしているのが、席の近いパメラにはよく分かったのだった。
◇
馬車での移動は順調そのもので、予定通り、夕刻に本日の目的地である町までなんのトラブルもなく到着することができた。
だが、その町で予想外のことがあった。それは、自分たちが宿泊する宿について。
ナイムの街にならばもっと高級な宿屋はあるが、間違いなく、この町では最高品質の宿であろうことが分かる佇まいに、ジェノは驚き、そして訝しんだ。
「パメラさん。本当にこの宿に宿泊するんですか?」
「ふっふっふっ。驚いたかね、ジェノ君達」
ジェノとは対象的に、パメラはしてやったりといった顔で微笑んでいる。
「まぁ、詳しい話は宿にチェックインしてから、食事の時に話すね。みんなもお腹が空いているだろうからさ」
パメラ達神官の皆は目を輝かせながら、普段は泊まる機会がなさそうな高級な宿屋に入っていく。
「まぁ、宿屋が悪いよりは良いじゃあないの」
リットは気にした様子もなく宿に入って行き、それにマリアとイルリアが続く。
「ジェノ、先に入っているぞ」
わざわざそう断りを入れてから、シーウェンも宿に入っていく。
それが万が一のための配慮だとジェノは理解していた。
「随分と高そうな宿ですね」
ジェノの気持ちを代弁し、セレクトが話しかけてきた。
彼もこの状況に違和感を覚えているのだ。
「この宿に不審な点はありません。何かしらの魔法の痕跡も感じません」
「……そうか。考えすぎなら良いんだがな」
セレクトの確認の言葉を聞いても、不安な気持ちが拭えない。
「私も貴方と同じ考えです。貸し切りの馬車に、高品質の宿屋の手配。これをたかだか田舎の一つの宗教団体が負担しているというのは妙に思えます」
「……夜に一度話し合いたい」
「分かりました」
ジェノとセレクトは簡単な打ち合わせをし、宿に足を進めることにしたのだった。
お昼に食べたバルネアさん特製のお弁当は絶品だったし、女慣れしているであろうリット君は言わずもがな、シーウェンさんも気さくな人柄で話していてとても面白いと皆にも好評であった。
むしろ好評すぎて、これから私達が何をしに行くのかを改めて皆に注意を促さなければいけなかったほどに。
パメラは、これから自分たちはラセード村にお見合いパーティーをしに行くということを忘れてはいけませんよと、先輩たちに釘を差した。そうしておかねば、たらし込まれてしまいそうな人もいたからだ。
それはリットとシーウェンが魅力的なのが原因なのか、男性とまともに交際をしたことがない自分たちがちょろいのかは分からない。いや、きっと両方だろう。
そういえば、女性信徒が多い宗教の信徒はこうなりがちだと他の宗教の友人も困り顔で話していたのを思い出し、パメラは苦笑する。
そういった現場を考えると、こういった交流は良い事柄なのかもしれない。まぁ、どちらもマイナーな宗教なので、どちらの宗教に改宗してもらうかなどの問題はあるが。
(今の時代は、どの神様を信じるかは個人の自由とされているけれど、やっぱり一つの家族が別々の宗教を信仰しているのはトラブルの元だしね)
大昔にあったという邪神の信仰などは今が全く聞いたことがないし、宗教の違いによる争いももう何百年と起きてはいない。だから信仰の自由が人々には認められている。それは素晴らしいことだとパメラは思う。
それに、どの神様であろうと、元は一つの<世界樹>から生まれたのだから、その教義の違いなどで人々が命を奪い合うなどあるべきではないと思うし、この平和が続いてほしいと思う。
ただ、そのためには神々の教えを正しく後世に伝えていく存在が不可欠だ。そう、自分たちのような神官たちがその役目をしっかりと担っていくことが大事なのだ。
「シーウェンさん。お水を飲みませんか?」
先輩神官たちとのお喋りに興じているリットとは対象的に、シーウェンは話に参加はするけれど、自分の一つ前の席に座って前の馬車を、ジェノ達の乗ったそれを常に気にかけているようなので、パメラは少し気を休めてほしいと思い声を掛ける。
「ああ、ありがたい」
笑顔でそう言うと、シーウェンは昼食の際に皆に渡したグラスを差し出してきたので、パメラはそこに水筒から水を注ぐ。
「そんなに、ジェノ君のことが気になりますか?」
水を美味しそうに口にするシーウェンに尋ねると、彼は「まぁな」と笑みを返してきた。
話の流れで他の先輩神官に年を尋ねられたので知ったのだが、シーウェンはパメラの一つ上で、二十歳だという。ただ、それよりももう少し年上に思っていたパメラは内心で驚いていた。
別段、シーウェンが老けて見えるということではない。精悍な顔立ちだが、その所作が年相応以上に落ち着いた様子に思えるのだ。そんなところが良いと、彼に好感を持つ女性も多いだろうなぁとパメラは思う。
「ジェノは真面目で一生懸命なんだが、それが過ぎるところがあるんでな。先輩としては気になってしまうんだ」
シーウェンはジェノと同じ師匠の元で武術の鍛錬をしているのだという。そして、後輩であるジェノを可愛がっているようだ。それが彼の表情からも読み取れる。
「その気持ちはわかります。ジェノ君は仕事の時以外も肩に力が入りすぎている気がしますから。少しずつでも、メルがそれを改善してくれれば良いと思います」
「ああ。メル嬢ちゃんはいい娘だからな。ぜひそうなって欲しいものだな」
嬉しそうに笑うその笑顔を見て、パメラはきっとシーウェンもジェノに似ている性格なのだろうと感じ取った。この人も、他人のことを大切に思える人なのだろうと。
「こらこら、パメラ君。私達に注意をしておきながら、シーウェン君を独り占めするのは頂けないなぁ」
「そうそう。こんないい男と話をする機会なんてめったにないんだから、独り占めは駄目よ」
先輩たちにそう言われ、パメラはおどけたように、「いやぁ、すみません」と謝罪する。
シーウェンは気を利かせてくれて、それから積極的に皆との会話に入ってきてくれる様になった。
ただ。それでも皆の目を盗んでは前の馬車を気にしているのが、席の近いパメラにはよく分かったのだった。
◇
馬車での移動は順調そのもので、予定通り、夕刻に本日の目的地である町までなんのトラブルもなく到着することができた。
だが、その町で予想外のことがあった。それは、自分たちが宿泊する宿について。
ナイムの街にならばもっと高級な宿屋はあるが、間違いなく、この町では最高品質の宿であろうことが分かる佇まいに、ジェノは驚き、そして訝しんだ。
「パメラさん。本当にこの宿に宿泊するんですか?」
「ふっふっふっ。驚いたかね、ジェノ君達」
ジェノとは対象的に、パメラはしてやったりといった顔で微笑んでいる。
「まぁ、詳しい話は宿にチェックインしてから、食事の時に話すね。みんなもお腹が空いているだろうからさ」
パメラ達神官の皆は目を輝かせながら、普段は泊まる機会がなさそうな高級な宿屋に入っていく。
「まぁ、宿屋が悪いよりは良いじゃあないの」
リットは気にした様子もなく宿に入って行き、それにマリアとイルリアが続く。
「ジェノ、先に入っているぞ」
わざわざそう断りを入れてから、シーウェンも宿に入っていく。
それが万が一のための配慮だとジェノは理解していた。
「随分と高そうな宿ですね」
ジェノの気持ちを代弁し、セレクトが話しかけてきた。
彼もこの状況に違和感を覚えているのだ。
「この宿に不審な点はありません。何かしらの魔法の痕跡も感じません」
「……そうか。考えすぎなら良いんだがな」
セレクトの確認の言葉を聞いても、不安な気持ちが拭えない。
「私も貴方と同じ考えです。貸し切りの馬車に、高品質の宿屋の手配。これをたかだか田舎の一つの宗教団体が負担しているというのは妙に思えます」
「……夜に一度話し合いたい」
「分かりました」
ジェノとセレクトは簡単な打ち合わせをし、宿に足を進めることにしたのだった。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(11件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。
リョウ
ファンタジー
何者かになりたかった。
だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。
そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。
導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。
冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。
目指すのは、ただ生き延びることではない。
一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。
渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ダークファンタジー成り上がり譚。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
みちづきシモン 様
熱い感想をありがとうございます!
あまりの勢いに驚くと同時に、すごく嬉しかったです。
さて、ようやく一歩前進した二人ですが、この後どうなるのか見守りくださいませ。
感謝感謝です。
m(_ _)m
退会済ユーザのコメントです
海烏 様
ご指摘頂きありがとうございます!
今、このお話の第一章を改定しておりまして、非常にためになるご意見でありがたかったです。
本当にありがとうございました。
改善点をしっかり意識して、今後の創作のち肉にさせて頂きます。
感謝感謝です。
m(_ _)m
みちづきシモン 様
いつも素敵な感想をありがとうございます!
前奏曲は今までと少し毛色の違う話ですが、高評価して頂けて嬉しい限りです。
ヾ(。>﹏<。)ノ゙✧*。
その評価に負けないように、今後も更新できるように頑張っていきます!
感謝感謝です。
m(_ _)m