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ときには、気心知れた親友と
⑨ 『食事処にて』
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その店の名前は、<水辺の明かり亭>という。
海に面したナイムの街では、新鮮な魚介料理を出す店が多いが、この店はその中でも指折りだとジェノは思っている。
ただ、店が決して大きくはないので、たまに満席で座れないこともあるのがネックだが、今日は幸運にも空きがあった。
「へぇ~。随分と独創的なお店ね」
奥の席に通されたジェノ達は、席に座り、注文を取りに来るのを待っているのだが、その間、ルーシアは興味深そうに店内を見渡している。
漁に使う道具――浮きや網などを壁に飾ってある店というのは、たしかにこの大きなナイムの街でも、この店くらいだとジェノも思う。
「この店は、漁師の方が奥さんと店をやっているんです。ですから、その時の漁の成果で出てくるものが変わりますが、味は間違いありません」
「なるほどね。うん、いいわね。こういう穴場的なお店でその土地の食べ物を食べるのが、旅の醍醐味。観光ガイドとかで紹介されているお店って、ハズレも少ないけれど、当たりも少ないのよ。やっぱり現地で生活している人に聞くのが一番だわ」
ルーシアは嬉しそうに笑い、席に備え付けられているメニューを確認している。
やがて、四十代半ばくらいの女性が、注文を取りに来た。
「はい、お待たせいました。ご注文はいかが……って、ジェノ君じゃない」
「ご無沙汰しています、カイリアさん」
ジェノは顔なじみの、この店の主人の奥さんに頭を下げる。
「あらっ? こちらの美人さんは初めて見るわね。でも、今日はバルネアやメルちゃんとは一緒じゃないの?」
怪訝そうな顔をするカイリアに、しかし説明すると長くなるので、ジェノはそれを諦める。
「……いろいろ事情がありまして。こちらは、バルネアさんの友……」
「バルネアの元同僚のルーシアと言います。よろしくお願い致します」
ジェノの言葉を遮り、ルーシアは突然自己紹介を始める。
「あら、これはご丁寧に。って、お腹が空いているわよね。注文をどうぞ」
カイリアは仕事を思い出して、注文を促してくる。
ジェノはルーシアが食べたいものをと思ったのだが、あれだけメニューを見ていたにもかかわらず、「ジェノ。貴方が私の分も注文して。あっ、お酒も忘れないでよ」とジェノに注文を放り投げてきた。
「……分かりました。酒精は弱いものでいいですか?」
「ええ。せっかくの料理の味が分からなくなってしまっては嫌だもの。それでお願いするわ」
ジェノは忙しいカイリアを待たせるのは悪いと思い、即座に頭で注文する組み合わせを考える。
「カイリアさん、今日のおすすめ品の他に、あれも……」
「ええ、あるわよ。分かったわ。ジェノ君はいつものお茶でいいわね?」
「はい。お願いします」
ジェノは注文している間、ずっとルーシアが自分の方に視線を向けて、観察していることに気づく。きっと、この注文で何かを見抜こうとしているのだろう。
「はい。それじゃあ、少し待っていてね」
カイリアはそう言って軽く会釈をして厨房の方に注文を伝えに向かっていったが、不意に足を止めて振り返った。
「あっ、ジェノ君。いくら綺麗な女性が一緒でも、メルちゃんを泣かせるようなことをしたら、おばさん怒るからね」
言葉とは裏腹に、にやにやとした笑みを浮かべるカイリアに、ジェノは「あちらのお客さんが、呼んでいますよ」と指摘し、嘆息する。
してやったりといった笑顔を浮かべ、カイリアは他の客の注文を取りに向かった。
年若い男女が同じ家に住んでいるというのは、からかうには絶好なのだろうが、こうも頻繁にからかわれては、流石に辟易してくる。
メルエーナと自分などでは、どう考えても釣り合わないことは分かりそうだと思うのだが。
「このお店には、バルネア達とたまに来るの?」
「ええ。よその店の味を覚えるのも勉強だと言って、連れてきてくれます」
ジェノの答えに、ルーシアはやはり嬉しそうに微笑む。
だが、ジェノには、彼女がどうしてこんなに嬉しそうなのかわからない。
「よーし、今日は楽しむわよ。ただし、ジェノ。私がいくつか料理について質問するから、貴方はきちんとそれに答えないと駄目よ」
「分かりました」
ジェノが動じずに答えると、何故かルーシアは不服そうな顔をする。
「もう。そこは、『食事を楽しませてくださいよ!』とか言うところじゃあないの?」
「バルネアさんが素晴らしい料理人の名前を口にする際に、貴女の名前が挙がらなかったことはありません。そんな方にご指導して頂けるのであれば、こちらからお願いしたいところです」
ジェノが素直な気持ちを伝えると、ルーシアは黙って、恥ずかしそうにこちらを睨んでくる。
「ねぇ、ジェノ。貴方って、女ったらしだとか言われていない?」
「いいえ、そのようなことは。無愛想だとはよく言われますが」
ジェノの答えに、ルーシアは「ああ、これは、あのメルって娘が可愛そうだわ」と言って肩をすくめる。
だが、どうしてここでメルエーナの名前が出てくるのかが、ジェノには分からない。
「ぬぅ。顔もいいし、私が今より十年若くて、あの人と結婚していなかったらやばかったかもしれないわね」
ルーシアはそう独り言ちると、
「いいわ。そんなに私の指導が受けたいのならば、やってあげようじゃあないの。ではまず、先程の注文からよ」
早速、ジェノを質問攻めにしてくる。
ジェノはその質問に正直に答え、ルーシアの指摘を頭に叩き込む。
料理が届いてからもそれは続いたが、ジェノには、心から楽しく、非常に勉強になる有意義な時間となったのだった。
海に面したナイムの街では、新鮮な魚介料理を出す店が多いが、この店はその中でも指折りだとジェノは思っている。
ただ、店が決して大きくはないので、たまに満席で座れないこともあるのがネックだが、今日は幸運にも空きがあった。
「へぇ~。随分と独創的なお店ね」
奥の席に通されたジェノ達は、席に座り、注文を取りに来るのを待っているのだが、その間、ルーシアは興味深そうに店内を見渡している。
漁に使う道具――浮きや網などを壁に飾ってある店というのは、たしかにこの大きなナイムの街でも、この店くらいだとジェノも思う。
「この店は、漁師の方が奥さんと店をやっているんです。ですから、その時の漁の成果で出てくるものが変わりますが、味は間違いありません」
「なるほどね。うん、いいわね。こういう穴場的なお店でその土地の食べ物を食べるのが、旅の醍醐味。観光ガイドとかで紹介されているお店って、ハズレも少ないけれど、当たりも少ないのよ。やっぱり現地で生活している人に聞くのが一番だわ」
ルーシアは嬉しそうに笑い、席に備え付けられているメニューを確認している。
やがて、四十代半ばくらいの女性が、注文を取りに来た。
「はい、お待たせいました。ご注文はいかが……って、ジェノ君じゃない」
「ご無沙汰しています、カイリアさん」
ジェノは顔なじみの、この店の主人の奥さんに頭を下げる。
「あらっ? こちらの美人さんは初めて見るわね。でも、今日はバルネアやメルちゃんとは一緒じゃないの?」
怪訝そうな顔をするカイリアに、しかし説明すると長くなるので、ジェノはそれを諦める。
「……いろいろ事情がありまして。こちらは、バルネアさんの友……」
「バルネアの元同僚のルーシアと言います。よろしくお願い致します」
ジェノの言葉を遮り、ルーシアは突然自己紹介を始める。
「あら、これはご丁寧に。って、お腹が空いているわよね。注文をどうぞ」
カイリアは仕事を思い出して、注文を促してくる。
ジェノはルーシアが食べたいものをと思ったのだが、あれだけメニューを見ていたにもかかわらず、「ジェノ。貴方が私の分も注文して。あっ、お酒も忘れないでよ」とジェノに注文を放り投げてきた。
「……分かりました。酒精は弱いものでいいですか?」
「ええ。せっかくの料理の味が分からなくなってしまっては嫌だもの。それでお願いするわ」
ジェノは忙しいカイリアを待たせるのは悪いと思い、即座に頭で注文する組み合わせを考える。
「カイリアさん、今日のおすすめ品の他に、あれも……」
「ええ、あるわよ。分かったわ。ジェノ君はいつものお茶でいいわね?」
「はい。お願いします」
ジェノは注文している間、ずっとルーシアが自分の方に視線を向けて、観察していることに気づく。きっと、この注文で何かを見抜こうとしているのだろう。
「はい。それじゃあ、少し待っていてね」
カイリアはそう言って軽く会釈をして厨房の方に注文を伝えに向かっていったが、不意に足を止めて振り返った。
「あっ、ジェノ君。いくら綺麗な女性が一緒でも、メルちゃんを泣かせるようなことをしたら、おばさん怒るからね」
言葉とは裏腹に、にやにやとした笑みを浮かべるカイリアに、ジェノは「あちらのお客さんが、呼んでいますよ」と指摘し、嘆息する。
してやったりといった笑顔を浮かべ、カイリアは他の客の注文を取りに向かった。
年若い男女が同じ家に住んでいるというのは、からかうには絶好なのだろうが、こうも頻繁にからかわれては、流石に辟易してくる。
メルエーナと自分などでは、どう考えても釣り合わないことは分かりそうだと思うのだが。
「このお店には、バルネア達とたまに来るの?」
「ええ。よその店の味を覚えるのも勉強だと言って、連れてきてくれます」
ジェノの答えに、ルーシアはやはり嬉しそうに微笑む。
だが、ジェノには、彼女がどうしてこんなに嬉しそうなのかわからない。
「よーし、今日は楽しむわよ。ただし、ジェノ。私がいくつか料理について質問するから、貴方はきちんとそれに答えないと駄目よ」
「分かりました」
ジェノが動じずに答えると、何故かルーシアは不服そうな顔をする。
「もう。そこは、『食事を楽しませてくださいよ!』とか言うところじゃあないの?」
「バルネアさんが素晴らしい料理人の名前を口にする際に、貴女の名前が挙がらなかったことはありません。そんな方にご指導して頂けるのであれば、こちらからお願いしたいところです」
ジェノが素直な気持ちを伝えると、ルーシアは黙って、恥ずかしそうにこちらを睨んでくる。
「ねぇ、ジェノ。貴方って、女ったらしだとか言われていない?」
「いいえ、そのようなことは。無愛想だとはよく言われますが」
ジェノの答えに、ルーシアは「ああ、これは、あのメルって娘が可愛そうだわ」と言って肩をすくめる。
だが、どうしてここでメルエーナの名前が出てくるのかが、ジェノには分からない。
「ぬぅ。顔もいいし、私が今より十年若くて、あの人と結婚していなかったらやばかったかもしれないわね」
ルーシアはそう独り言ちると、
「いいわ。そんなに私の指導が受けたいのならば、やってあげようじゃあないの。ではまず、先程の注文からよ」
早速、ジェノを質問攻めにしてくる。
ジェノはその質問に正直に答え、ルーシアの指摘を頭に叩き込む。
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