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ときには、気心知れた親友と
⑩ 『その日の朝』
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日が登るよりも早くに起き、ジェノは宿屋から<パニヨン>に向かう。
別段、そのことを億劫には思わない。だが、ジェノはこの数日をきっかけに、一つの考えが頭をよぎっていた。
それは、そろそろ<パニヨン>を、バルネアの家を出たほうがいいのではということ。
彼女の家に厄介になって、もう少しで三年になる。
居心地が良すぎて、あまりにも長居をしてしまった。当初は、この街での生活に慣れたら、半年としないうちに出ていこうと思っていたのに。
自分は、『冒険者』という仕事の見習いをしている。
三年近く経って見習いなのは、規定の人数である、自分を含め五人以上のメンバーを集めることができないためだ。
けれど、今年で自分も十八歳になる。さすがに、いつまでも見習いに甘んじているわけには行かない。
だが、『冒険者』なんてものはヤクザな仕事だ。今は子供の遊び程度に周りも思ってくれているようだが、流石に成人した後はそうは行かないだろう。
別段、自分がなんと言われようが構わないが、それにバルネアとメルエーナが巻き込まれるのは避けたい。
「普段から、バルネアさんには助けてもらっている。だが、いつまでも、それに甘えているわけには行かないな」
<パニヨン>の仕事はこれからも続けさせてもらえるのであれば続けたいが、もうそろそろ、あの家を出ていくべきだ。
幸い、今はメルエーナがいる。
メルエーナも後一年ほどしかこの街に居られないらしいが、自分と彼女の二人がいきなりいなくなるよりは、段階を踏んだほうがいいのではないだろうか?
それに、自分がいることで、メルエーナに良からぬ噂が流れてしまっては、彼女の今後に関わってくる。
自分が早々に居なくなれば、年頃の男女が同じ屋根の下で暮らしているという事実もなくなる。ゆえに、他人にからかわれることもなくなるはずだ。
「……今回の事が終わったら、真剣に考えよう」
ジェノはそんなことを思いながら、<パニヨン>にやって来た。
そして、裏口に回り、ドアをノックする。
するとすぐにドアが開かれた。
「おはようございます、ジェノさん」
満面の笑顔でジェノを迎えてくれたのは、メルエーナだった。
「ああ、おはよう。朝早くにすまない。掃除はやっておくから、少し休んでいてくれ」
ジェノはそう言い、家の中に入る。
だがそこで、彼は、もしもこの家を本格的に出るようになったら、鍵の問題があるなと思った。
仕事の関係上、朝早くに店に行かなければならないので、朝の掃除の当番でもないのに、メルエーナの睡眠時間を減らさせてしまっている。
「大丈夫ですよ。掃除は、もう終わっていますから」
その言葉に、ジェノは厨房や店を確認したが、彼女の言うとおり、掃除は綺麗にされた後だった。
「メルエーナ。お前が……」
「はい。朝の練習のついででしたから」
メルエーナは何事でもないように笑顔で応える。
「メルエーナ。気遣いは嬉しいが、お前もバルネアさんの手伝いをするために忙しいはずだ。掃除の当番はきちんと守ってくれ。そうでないと、お前にばかり負担が行ってしまう」
ジェノはそう注意したが、メルエーナは首を横に振った。
「いいえ。本当に練習のついでなんですよ」
メルエーナは嬉しそうに笑い、
「ここ数日、バルネアさんから新しい技術をいろいろ教えて貰っているんです。もう、それを早く身に着けたくて、練習がしたくて仕方がないんです。
ですから、目が覚めるとすぐに掃除をして、練習をしようと思って行動しただけなんです」
さらにそう続けた。
「だが、やはりそれでは不公平に……」
ジェノは食い下がろうとしたが、メルエーナが珍しくそこは譲らなかった。
「いいんです! 私が好きでやっていることなんですから。そっ、その、将来のために、どうしてもやらないと駄目なんです!」
メルエーナは何故か頬を朱に染めて、ジェノに譲歩するように迫ってくる。
熱でもあるのかとジェノは心配したが、体調が悪そうには思えない。
「というわけですから、私はこれからこっそり練習をしたいので、ジェノさんは朝食ができるまで、自分のお部屋か、お店の方で待っていて下さい!」
完全に押し切る形でメルエーナは言い、ジェノに反論の暇を与えずに、厨房の奥に行ってしまった。
もう一度、メルエーナと話し合いをするのも、彼女の練習時間を奪うことになると判断し、ジェノは仕方なく客席に向かう。
手近な席に座っていたジェノだったが、やがて店の方の入り口に新聞が配達されたことに気づき、それを取りに足を進める。
バルネアが購読している新聞なので、普段はバルネアが目を通すまでは、ジェノは読んだりしないのだが、あまりにも手持ち無沙汰だったので、最初のページの記事だけを読んだ。
いや、読もうとした、が正しい。
その見出しの内容を目にしただけで、ジェノは絶句してしまったのだから。
そこには、こう書かれていた。
『エルマイラム王国屈指の料理人バルネア氏と、シュレンダ王国の老舗料理店<銀の旋律>の料理長ルーシア氏の女性料理人対決が、この度実現! 注目の勝負は、なんと三日後!』
ジェノは自分がまだ寝ぼけているのではと思ったが、何度確認しても、新聞の内容は変わらない。
それから三十分と経たないうちに、顔を真っ赤にしたルーシアが乗り込んで来た。
そのことで、ジェノはここに書かれている内容が、この街中に喧伝されているという事実と向かい合わねばいけないことを理解し、嘆息するのであった。
別段、そのことを億劫には思わない。だが、ジェノはこの数日をきっかけに、一つの考えが頭をよぎっていた。
それは、そろそろ<パニヨン>を、バルネアの家を出たほうがいいのではということ。
彼女の家に厄介になって、もう少しで三年になる。
居心地が良すぎて、あまりにも長居をしてしまった。当初は、この街での生活に慣れたら、半年としないうちに出ていこうと思っていたのに。
自分は、『冒険者』という仕事の見習いをしている。
三年近く経って見習いなのは、規定の人数である、自分を含め五人以上のメンバーを集めることができないためだ。
けれど、今年で自分も十八歳になる。さすがに、いつまでも見習いに甘んじているわけには行かない。
だが、『冒険者』なんてものはヤクザな仕事だ。今は子供の遊び程度に周りも思ってくれているようだが、流石に成人した後はそうは行かないだろう。
別段、自分がなんと言われようが構わないが、それにバルネアとメルエーナが巻き込まれるのは避けたい。
「普段から、バルネアさんには助けてもらっている。だが、いつまでも、それに甘えているわけには行かないな」
<パニヨン>の仕事はこれからも続けさせてもらえるのであれば続けたいが、もうそろそろ、あの家を出ていくべきだ。
幸い、今はメルエーナがいる。
メルエーナも後一年ほどしかこの街に居られないらしいが、自分と彼女の二人がいきなりいなくなるよりは、段階を踏んだほうがいいのではないだろうか?
それに、自分がいることで、メルエーナに良からぬ噂が流れてしまっては、彼女の今後に関わってくる。
自分が早々に居なくなれば、年頃の男女が同じ屋根の下で暮らしているという事実もなくなる。ゆえに、他人にからかわれることもなくなるはずだ。
「……今回の事が終わったら、真剣に考えよう」
ジェノはそんなことを思いながら、<パニヨン>にやって来た。
そして、裏口に回り、ドアをノックする。
するとすぐにドアが開かれた。
「おはようございます、ジェノさん」
満面の笑顔でジェノを迎えてくれたのは、メルエーナだった。
「ああ、おはよう。朝早くにすまない。掃除はやっておくから、少し休んでいてくれ」
ジェノはそう言い、家の中に入る。
だがそこで、彼は、もしもこの家を本格的に出るようになったら、鍵の問題があるなと思った。
仕事の関係上、朝早くに店に行かなければならないので、朝の掃除の当番でもないのに、メルエーナの睡眠時間を減らさせてしまっている。
「大丈夫ですよ。掃除は、もう終わっていますから」
その言葉に、ジェノは厨房や店を確認したが、彼女の言うとおり、掃除は綺麗にされた後だった。
「メルエーナ。お前が……」
「はい。朝の練習のついででしたから」
メルエーナは何事でもないように笑顔で応える。
「メルエーナ。気遣いは嬉しいが、お前もバルネアさんの手伝いをするために忙しいはずだ。掃除の当番はきちんと守ってくれ。そうでないと、お前にばかり負担が行ってしまう」
ジェノはそう注意したが、メルエーナは首を横に振った。
「いいえ。本当に練習のついでなんですよ」
メルエーナは嬉しそうに笑い、
「ここ数日、バルネアさんから新しい技術をいろいろ教えて貰っているんです。もう、それを早く身に着けたくて、練習がしたくて仕方がないんです。
ですから、目が覚めるとすぐに掃除をして、練習をしようと思って行動しただけなんです」
さらにそう続けた。
「だが、やはりそれでは不公平に……」
ジェノは食い下がろうとしたが、メルエーナが珍しくそこは譲らなかった。
「いいんです! 私が好きでやっていることなんですから。そっ、その、将来のために、どうしてもやらないと駄目なんです!」
メルエーナは何故か頬を朱に染めて、ジェノに譲歩するように迫ってくる。
熱でもあるのかとジェノは心配したが、体調が悪そうには思えない。
「というわけですから、私はこれからこっそり練習をしたいので、ジェノさんは朝食ができるまで、自分のお部屋か、お店の方で待っていて下さい!」
完全に押し切る形でメルエーナは言い、ジェノに反論の暇を与えずに、厨房の奥に行ってしまった。
もう一度、メルエーナと話し合いをするのも、彼女の練習時間を奪うことになると判断し、ジェノは仕方なく客席に向かう。
手近な席に座っていたジェノだったが、やがて店の方の入り口に新聞が配達されたことに気づき、それを取りに足を進める。
バルネアが購読している新聞なので、普段はバルネアが目を通すまでは、ジェノは読んだりしないのだが、あまりにも手持ち無沙汰だったので、最初のページの記事だけを読んだ。
いや、読もうとした、が正しい。
その見出しの内容を目にしただけで、ジェノは絶句してしまったのだから。
そこには、こう書かれていた。
『エルマイラム王国屈指の料理人バルネア氏と、シュレンダ王国の老舗料理店<銀の旋律>の料理長ルーシア氏の女性料理人対決が、この度実現! 注目の勝負は、なんと三日後!』
ジェノは自分がまだ寝ぼけているのではと思ったが、何度確認しても、新聞の内容は変わらない。
それから三十分と経たないうちに、顔を真っ赤にしたルーシアが乗り込んで来た。
そのことで、ジェノはここに書かれている内容が、この街中に喧伝されているという事実と向かい合わねばいけないことを理解し、嘆息するのであった。
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