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こんな愛し方、知らなかった。新婚生活は甘すぎて溺れそう!?
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王宮の朝は早い。
政務に追われる王太子レオンハルトは、いつも夜明けとともに動き出していた。
——けれど今朝は違う。
「おはようございます、レオンさま」
「……ああ。おはよう、アリシア」
王太子妃の私室からふたり並んで出てきた姿に、侍女たちはほのぼのとした空気に顔をほころばせる。
「珍しく、朝食をご一緒できるなんて……今日はお忙しくないのですか?」
「お前と食事をする時間くらい、いくらでも空けられる」
「……またそういうことを、さらりと言うんですから……」
アリシアの頬が少しだけ染まる。
ふたりが腰を下ろしたのは、王太子専用の食堂。
長く冷えた空間に、優しい空気が流れていた。
食事が運ばれる中、アリシアはふと思いついたように言う。
「ねぇ、今度の休みの日、わたしが朝食を作ってもいいですか?」
「……お前が?」
「はい。小さいころからお料理するの、好きだったんです。少しは役に立ちたいなって」
その瞬間、レオンハルトが箸を止めた。
「その必要はない」
「……え?」
「俺が作る」
「……はい?」
アリシアは一瞬、聞き間違えたかと思った。
「……レオンさま、お料理、なさるんですか?」
「当たり前だ。できないとでも思ったか?」
「い、いえ……そんなわけでは……!」
レオンハルトはごく当然のように言った。
「俺は完璧主義だ。調理もそのひとつだ。——見ていろ。次の休みに証明してやる」
(……まさか、対抗意識燃やされた!?)
⸻
そして休日の朝。
王太子専用の厨房にて、アリシアは目を見張っていた。
(す、すごい……)
見慣れた軍服ではなく、エプロン姿のレオンハルトが、黙々と野菜を刻む姿はまさに職人。
無駄のない手つき、正確な包丁さばき、シンプルだが美しい盛り付け。
アリシアが提案したメニューを見事に再現し、さらに味の調整まで完璧だった。
「……負けました」
「何にだ?」
「お嫁さん力です……」
アリシアが項垂れると、レオンハルトは首を傾げた。
「意味がわからん。——だが」
ふと、視線を上げ、まっすぐ見つめてくる。
「俺の妻が、俺に敵うわけがない。だが、お前が俺の傍にいてくれるからこそ、こうして作りたいと思える」
「レオンさま……」
「俺で良かっただろ、アリシア」
その言葉に、胸がじんわりと熱くなる。
「……はい。とても」
微笑むアリシアに、レオンハルトは満足そうにうなずいた。
(この人、本当に、どこまでも不器用で……優しい)
アリシアの心は、またひとつ深く、レオンハルトへと傾いていく。
⸻
「……くしゅんっ」
昼下がりの庭園。
アリシアが小さなくしゃみをしたのは、ほんの一瞬の風に当たった直後だった。
「……アリシア?」
すぐに異変に気づいたのは、レオンハルトだった。
「いえ、大丈夫です。少し風が冷たかっただけで——」
「顔、赤い。額を見せろ」
「えっ、あ、でも——」
「いいから」
強引に額に手を当てられ、アリシアは抵抗する間もなく体温を測られる。
「……微熱がある。寝室に戻る」
「そ、そんな大げさな……っ」
「お前が苦しむくらいなら、俺が代わってやりたい」
その一言に、アリシアは目を丸くした。
「……れ、レオンさま?」
「侍医は呼んだ。部屋は温めさせた。お前が使っている枕も、今すぐ新しいものに替える」
「ちょっ、待ってください!? それ、ただの風邪です!」
「だからこそ、俺が見ている。お前は何も心配するな」
その表情は、本気だった。
(レオンさまって、体調不良に対してものすごく……過保護……)
⸻
結局、ベッドに運ばれたアリシアは、湯たんぽと毛布に包まれ、至れり尽くせりの環境で安静を命じられていた。
その横には、座ったままアリシアの髪をそっと撫で続けるレオンハルト。
「……ずっと、ここにいてくれるんですか?」
「当然だ。お前が眠るまで、そして起きてからも」
「そんな……政務は?」
「お前の方が優先だ」
その断言に、アリシアはぽろりと涙をこぼしてしまった。
「……どうして、そんなに優しいんですか……?」
「お前だからだ」
「……わたし、こんなに大切にされたこと、ないです。苦しい時も、誰かがそばにいてくれるって……」
「俺がいる。これからずっと、そうだ」
「……ありがとう、ございます」
彼の手がそっと額に触れたかと思えば、そのまま唇が落ちた。
「眠れ。安心しろ。——お前のことは、俺が守る」
「……はい」
アリシアは目を閉じる。
その手はあたたかく、心地よい温もりに包まれていた。
⸻
翌朝。熱はすっかり下がっていた。
目を開けると、椅子の上で軽くうたた寝をしているレオンハルトの姿があった。
「……レオンさま」
声をかけると、すぐに目を開ける。
「アリシア。気分はどうだ」
「おかげさまで……もう、すっかり元気です」
アリシアは布団から手を伸ばし、そっと彼の手を握った。
「本当に、ありがとう。ずっとそばにいてくれて」
「当然だ」
「レオンさまは……わたしにとって、特別な人です。こんなに誰かを、大切に思ったのは初めてです」
レオンハルトの瞳がわずかに揺れた。
「……お前がいるだけで、俺には十分だ」
「わたしも、です」
ふたりは手を重ねたまま、朝の光を浴びて微笑み合う。
この静かで穏やかな時間。
それがどれほど尊く、かけがえのないものか、二人はもう知っていた。
政務に追われる王太子レオンハルトは、いつも夜明けとともに動き出していた。
——けれど今朝は違う。
「おはようございます、レオンさま」
「……ああ。おはよう、アリシア」
王太子妃の私室からふたり並んで出てきた姿に、侍女たちはほのぼのとした空気に顔をほころばせる。
「珍しく、朝食をご一緒できるなんて……今日はお忙しくないのですか?」
「お前と食事をする時間くらい、いくらでも空けられる」
「……またそういうことを、さらりと言うんですから……」
アリシアの頬が少しだけ染まる。
ふたりが腰を下ろしたのは、王太子専用の食堂。
長く冷えた空間に、優しい空気が流れていた。
食事が運ばれる中、アリシアはふと思いついたように言う。
「ねぇ、今度の休みの日、わたしが朝食を作ってもいいですか?」
「……お前が?」
「はい。小さいころからお料理するの、好きだったんです。少しは役に立ちたいなって」
その瞬間、レオンハルトが箸を止めた。
「その必要はない」
「……え?」
「俺が作る」
「……はい?」
アリシアは一瞬、聞き間違えたかと思った。
「……レオンさま、お料理、なさるんですか?」
「当たり前だ。できないとでも思ったか?」
「い、いえ……そんなわけでは……!」
レオンハルトはごく当然のように言った。
「俺は完璧主義だ。調理もそのひとつだ。——見ていろ。次の休みに証明してやる」
(……まさか、対抗意識燃やされた!?)
⸻
そして休日の朝。
王太子専用の厨房にて、アリシアは目を見張っていた。
(す、すごい……)
見慣れた軍服ではなく、エプロン姿のレオンハルトが、黙々と野菜を刻む姿はまさに職人。
無駄のない手つき、正確な包丁さばき、シンプルだが美しい盛り付け。
アリシアが提案したメニューを見事に再現し、さらに味の調整まで完璧だった。
「……負けました」
「何にだ?」
「お嫁さん力です……」
アリシアが項垂れると、レオンハルトは首を傾げた。
「意味がわからん。——だが」
ふと、視線を上げ、まっすぐ見つめてくる。
「俺の妻が、俺に敵うわけがない。だが、お前が俺の傍にいてくれるからこそ、こうして作りたいと思える」
「レオンさま……」
「俺で良かっただろ、アリシア」
その言葉に、胸がじんわりと熱くなる。
「……はい。とても」
微笑むアリシアに、レオンハルトは満足そうにうなずいた。
(この人、本当に、どこまでも不器用で……優しい)
アリシアの心は、またひとつ深く、レオンハルトへと傾いていく。
⸻
「……くしゅんっ」
昼下がりの庭園。
アリシアが小さなくしゃみをしたのは、ほんの一瞬の風に当たった直後だった。
「……アリシア?」
すぐに異変に気づいたのは、レオンハルトだった。
「いえ、大丈夫です。少し風が冷たかっただけで——」
「顔、赤い。額を見せろ」
「えっ、あ、でも——」
「いいから」
強引に額に手を当てられ、アリシアは抵抗する間もなく体温を測られる。
「……微熱がある。寝室に戻る」
「そ、そんな大げさな……っ」
「お前が苦しむくらいなら、俺が代わってやりたい」
その一言に、アリシアは目を丸くした。
「……れ、レオンさま?」
「侍医は呼んだ。部屋は温めさせた。お前が使っている枕も、今すぐ新しいものに替える」
「ちょっ、待ってください!? それ、ただの風邪です!」
「だからこそ、俺が見ている。お前は何も心配するな」
その表情は、本気だった。
(レオンさまって、体調不良に対してものすごく……過保護……)
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結局、ベッドに運ばれたアリシアは、湯たんぽと毛布に包まれ、至れり尽くせりの環境で安静を命じられていた。
その横には、座ったままアリシアの髪をそっと撫で続けるレオンハルト。
「……ずっと、ここにいてくれるんですか?」
「当然だ。お前が眠るまで、そして起きてからも」
「そんな……政務は?」
「お前の方が優先だ」
その断言に、アリシアはぽろりと涙をこぼしてしまった。
「……どうして、そんなに優しいんですか……?」
「お前だからだ」
「……わたし、こんなに大切にされたこと、ないです。苦しい時も、誰かがそばにいてくれるって……」
「俺がいる。これからずっと、そうだ」
「……ありがとう、ございます」
彼の手がそっと額に触れたかと思えば、そのまま唇が落ちた。
「眠れ。安心しろ。——お前のことは、俺が守る」
「……はい」
アリシアは目を閉じる。
その手はあたたかく、心地よい温もりに包まれていた。
⸻
翌朝。熱はすっかり下がっていた。
目を開けると、椅子の上で軽くうたた寝をしているレオンハルトの姿があった。
「……レオンさま」
声をかけると、すぐに目を開ける。
「アリシア。気分はどうだ」
「おかげさまで……もう、すっかり元気です」
アリシアは布団から手を伸ばし、そっと彼の手を握った。
「本当に、ありがとう。ずっとそばにいてくれて」
「当然だ」
「レオンさまは……わたしにとって、特別な人です。こんなに誰かを、大切に思ったのは初めてです」
レオンハルトの瞳がわずかに揺れた。
「……お前がいるだけで、俺には十分だ」
「わたしも、です」
ふたりは手を重ねたまま、朝の光を浴びて微笑み合う。
この静かで穏やかな時間。
それがどれほど尊く、かけがえのないものか、二人はもう知っていた。
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