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王子のいない日は寂しすぎる!? 二人の絆が試される日常回
しおりを挟む「……数日だけ?」
アリシアは思わず、手にしていたティーカップを止めた。
王宮の書斎。
日課となったティータイムの中、レオンハルトは落ち着いた声で言う。
「北部の視察が王命として下された。三日から五日ほど、不在となる」
「……王命、なんですよね?」
「ああ。断ることはできない」
レオンハルトは無表情を保っているが、その言葉の端々から、明らかに「行きたくない」オーラがにじみ出ていた。
それを見て、アリシアは思わずくすりと微笑む。
「そんなに嫌そうな顔して……」
「お前を置いていくことに、納得できないだけだ」
「……あの、それって仕事で行くんですよね?」
「関係ない。俺の中では最重要問題だ」
あまりに真剣な顔で言われて、アリシアは笑うしかない。
「……大丈夫です。レオンさま。ちゃんとお留守番できますから」
「……本当か?」
「本当です」
(でも……)
言葉にはしないけれど、アリシアの胸にはぽつんと小さな不安が灯っていた。
これまで、毎日一緒にいた。
朝も夜も、すぐ傍にレオンハルトがいた。
そのぬくもりも、声も、眼差しも。
(……ほんとは、ちょっと……すごく寂しいかも)
でも、それを顔に出すわけにはいかない。
レオンハルトが公務に集中できるように。
だからこそ——
「行ってらっしゃいませ、レオンさま」
アリシアは、いつもと変わらぬ笑顔で彼を送り出した。
⸻
視察に出た日から、三日目の夜。
王宮の寝室には、ひときわ静けさが漂っていた。
いつものように入浴を済ませ、アリシアはベッドに入る。
けれど、隣の空間がひどく冷たく感じられて、眠れなかった。
(レオンさま……今頃、どこにいるんだろう)
何度も寝返りを打ち、ふと気づく。
枕元の一部が、彼の髪の香りをわずかに残していた。
「……いないって、こんなに……寂しいんだ」
胸の奥がきゅっと締めつけられる。
ふいに涙がこぼれそうになるのを堪えながら、アリシアは机に向かった。
ペンを取り、そっと便箋に書き始める。
⸻
『レオンさまへ』
——今日の私は、少しだけ泣き虫です。
だって、朝も夜も、レオンさまが隣にいないのですから。
でも大丈夫。ちゃんとお仕事をされているって分かってます。
だから、私も笑って待っていられるように、努力してみますね。
どうか、お体に気をつけて。
私のことは、心配しすぎないでください。……ほんの少しだけ、でいいので。
アリシアより
⸻
読み返して、ほんのり赤くなりながら、封を閉じる。
(……恥ずかしいけど、届けたい)
そう思って机に置いたその時——
コン、と控えめなノック音が聞こえた。
「……アリシア様。王太子殿下から、お手紙をお預かりしております」
「……え?」
扉を開けると、侍女の手には、見覚えのある封蝋の手紙。
受け取った瞬間、胸が高鳴る。
(……レオンさま……)
それは、待ちわびた恋文のように、温かな重みを持っていた。
⸻
アリシアは胸の奥が震えるのを感じながら、封を開けた。
中には、丁寧な筆跡の手紙が一枚。
『アリシアへ』
夜、眠れているか。
夕食はちゃんと食べただろうか。
笑っているか。泣いていないか。
何度も問いかけたくなるのを堪えて、この手紙を書いている。
たった数日だと、そう思っていた。
だが、お前のいない朝は、息苦しいほど静かで、
お前のいない夜は、どこまでも寒い。
アリシア。
お前は俺の一部だ。
今、初めてそれを思い知っている。
どうか、少しだけ待っていてくれ。
この手紙を読んでいるお前に、すぐにでも触れたい。
次に会った時、まず最初に抱きしめる。
——レオンハルトより
アリシアは、両手で手紙をぎゅっと抱きしめた。
「……ずるいです、レオンさま。こんな手紙、泣いちゃいます……」
涙が静かにこぼれる。
それは寂しさからではなく、
想い合っていることを確かめ合えた嬉し涙だった。
⸻
翌日——予定よりも早く、レオンハルトは戻ってきた。
馬車が王宮に到着するなり、彼は迷うことなくアリシアの私室へと向かう。
扉を開けた瞬間——
「……っ!」
アリシアは驚きと喜びの入り混じった声を漏らし、すぐに走り寄る。
その小さな身体を、レオンハルトは何のためらいもなく抱きしめた。
「……帰った。遅くなった」
「……おかえりなさい、レオンさま……っ」
その声は震えていて、涙を含んでいた。
「もう、ひとりにしないでください……」
「……すまない。もう二度と、お前を置いていくような真似はしない」
「……本当に?」
「本当にだ」
彼はアリシアの頬を両手で包み、静かに目を覗き込んだ。
「……耐えられなかった。お前のいない日々は、何の意味もなかった」
「私も、です。……レオンさまがいないと、私は……こんなにも弱い」
「弱くていい。俺の前では、ずっと甘えていろ」
そう言って、唇がそっと重なる。
優しくて、深くて、全身を溶かすようなキスだった。
やがて、ベッドの上で再会を確かめ合うように、ただ静かに寄り添う。
「……アリシア」
「……はい」
「次に離れる時は、一緒に来い」
「えっ……?」
「どこにでも。視察でも戦でも、社交でも。……お前のいない場所など、行く意味がない」
その一言に、アリシアは胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。
「……はい。わたしも、ずっと一緒にいたいです」
ふたりの手が、強く、深く、絡み合う。
一度離れて、再び結ばれたその想いは——
以前よりも、ずっと強く、優しく、確かなものになっていた。
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