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断章
第13話
しおりを挟むSide――天邪鬼
出会ってすぐ心を打ち抜かれた。
初めて彼女を見た時の衝撃は忘れられない。
――美しい。
同時に、抗いがたい猛烈な欲求に襲われたのを今でも鮮明に覚えている。
“だからこそ、壊したい”
「ふぅ、気まぐれな君には困ったもの。ふふ、惚れた弱みかな? そこも魅力的に感じてしまうのだから、恋とは何と恐ろしい」
自分の作り上げた瓜生島の中心でひたすら彼女を想う。
あまのじゃく。私は世間でそう呼ばれる神秘の具現である。
「あぁ……愛おしいぃ……」
私たち妖怪は人の認知度と恐怖を力に変える。逆に興味を持たれず忘れられると、力を失い存在が希薄になる。科学が進み、娯楽にあふれた現代と妖怪の相性は最悪と言えるだろう。
「それでも私は勝ったよ。君への思いが、愛が、私に力を与えた」
誇らしさが胸を満たし自然と唇がつり上がる。
無限に湧き上がる高揚感にたまらなくなった私は、両腕を大きく広げながら空を見上げた。
牛頭の大鬼も、巨大な蜘蛛女も、瓢箪頭の老人も……数多の強大な力を持っていた妖怪たちが世界から姿を消して久しい。
「私の愛が彼らを凌駕したんだ!」
胸を焦がすほどの愛から生まれた発想の勝利。概念として、人間の意識に自分の存在を刻みつける。
“あまのじゃくな態度”
今はもう、これだけで意味が通じる。
私自体の存在を知らなくとも、私の本質は認知され、嫌悪されている。
人間の無意識に、世界に根ざした存在に昇華されたことで、私は膨大な力を得た。
「誰もがこの時代まで生き延びている私に気づかない。今の私は世界をも欺ける」
この地球でさえ私の嘘に騙されている。現に、数百年前に一夜で沈んだ伝説の“瓜生島”が存続していることに、誰も違和感をもっていない。
「……ずっと気がかりだった。瓜から生まれた君もまた神秘の端くれ……たしかに可能性はあったが、本当に見つかった時は……心が震えたよ」
“瓜”が“生”きる“島”。勢いで殺めてしまった――実体を失い、消滅寸前だった思い人を囲うのに、これ以上の場所はない。
「ずっと――ずっと、後悔していたんだ! 私も未熟だったとはいえ、愛でる前に殺してしまうなんて、好きな人に対してあまりに礼を欠いた行いだった」
あれから多くの恋を経験した。でも、初恋はやはり特別ということだろう。
「もっと壊してあげるべきだった。本当に、君には申し訳ないと思っていたんだ!」
だからこそ、今回はベストを尽くした。
消えかけの君を維持する瓜生島を用意して、君がずっと苦しめるように、訳ありの人間だって作った。
そのせいで力の大半を失いはしたがまったく後悔はない。
完璧だった。
ここは私の理想郷。
二人にとって永遠の楽園となる……はずだった。
「でも、ぜーんぶ、水の泡……」
指先からチリチリと感覚が消えていく現状に思わず苦笑する。
まさか、このタイミングで君に裏切られるとは思わなかった。よもや、あの半人前を庇おうとするなんて……君はなんて慈悲深いのだろう。
「そんなツレない君も愛しているよ。なに、消える時は一緒だ。こんな結末も意外と悪くないさ」
君も私も、もう時間はない。
だから私も君に倣い、最後は自分の欲求を満たすために行動に出ることにしよう。
“愛する人の最高の曇り顔がみたい”
――私こそ反逆の鬼、あまのじゃく。
この命を失うのは少し惜しい気もするが、この欲求を満たせるなら、すべてがささいな問題だ。
「……愛してる……」
初めて会った瞬間、衝動的に腹を割いてしまった時の顔を今でも覚えている。
「愛してる」
君を食べさせて、気が狂ってしまった老夫婦の顔を、君にも見せてあげたかった。
「愛してるっ!」
二十年前、この島の真実を知った君の泣き叫ぶ声は、一生忘れられない。
「――大好きだよ、愛しの君! 私たちはずっと一緒だ……ぷっ。くくっ、ふふ、ふはははっ、あははははははっ、ひははははははははっ――」
心の底から、愛してる。
だからこそ、君を徹底的に壊してやろう。
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