真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~

秋刀魚妹子

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第145話 癒しの族長の願い

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 「土魔法発動! 良い感じの穴ー! ……うし、こんなもんかな」

 城壁に城門を取り付ける様の出入り口を開け終え、御満悦なクウネルの所にキュウベイが戻ってきた。

 「戻りやした、姉御。 王達は城の出来映えを見て呆然としてただけみたいです。 直ぐに此方に来ます」

 「ん。 ありがとキュウベイ、こっちもとりあえずの穴は空けれたよ~。 ちなみに、キュウベイはこの城壁や城を見てどう?  格好いい?」

 クウネルはドキドキしながらキュウベイに感想を聞いてみる。

 「そうですね……あっしでは確実に破壊は出来ない硬さですし。 高い城壁の上に弓兵が布陣すれば、どんな魔物が来てもまず負けはしないと思いやす。 城も、前に来た山の様な大きさの地竜が出なければ壊されもしないと思いやすよ?」

 「うんうん、で? それで? 格好いい?」

 キュウベイの返答に満足していないクウネルは、キュウベイの顔を覗き込み欲しい言葉を待つ。 察したキュウベイは戸惑いながらも口を開いた。

 「か、格好いいです……よ?」

 「よっっっしゃ! 結構自信作だったのよーー!! 良かったぁ~、やっぱり身内に酷評受けるのは嫌だからね おや? キュウベイの顔、真っ赤だよ? どしたの?」

 「い、いえ……あ! 王達が来ましたよ」

 キュウベイが指差す方を見ると、ゴブリン王やギド将軍とゴブリン達が泣きながら走って来ていた。

 「ぎゃぁぁぁぁ! え?! どしたの?! 王様達どしたのさ。 え? あれか、城のデザインがダメだった? いやぁ、うちはクレームは受け付けて無いんだよね~」

 「ギガガ! ダメな筈が無かろう! 我は、我は嬉しいのだ! これ程の城が、城壁が有れば民を兵士を悪戯に死なせずに済む! かたじけない、かたじけないクウネル! うぉおぉぉぉぉ!!」

 大粒の涙が厳ついゴブリン王の頬を滝の様に流れ、隣でギド将軍も男泣きをしていた。

 ゴブリン兵士達も同じ様に涙を流し、クウネルは暑苦しさに苦笑いを浮かべる。

 「気に入ってくれたなら良かったよ。 それに、街が壊れた原因は私にも有るしね」

 «――? 疑問、街を崩壊させたのはクウネルが主な原因では?»

 「鑑定さん、今は黙ってて! 前も言ったでしょ? あれはモロのせいだから。 いいね?」

 小声で鑑定に反論していると、泣き終えたギド将軍が敬礼しながらクウネルを見上げた。

 「ギガ……私達には、何も恩返しする事が出来ませぬ。 もし、暴食の女神様に望みがあれば何なりと。 このギドが必ず叶えまする」

 真面目なギドの事だ。 クウネルがどんな要望を言っても必ず叶えてくれるだろう。

 「じゃあ、その女神様呼びを止めさせてくれる?」

 「ギヌ?! そ、それだけはお許しを! 兵士達のみならず、民達も暴食の女神様を崇めておりますので……」

 「いや、必ず叶えるんじゃないんかーい!!」

 ゴブリン王様キュウベイ達の笑い声が、新たな城に響き渡った。

 「響き渡った。 じゃ、無いよ! 何で止めてくれないの? あいつか、あの足が速い話を聞かないババアのせいか! 次会ったら、とっちめてやる!」

 クウネルは事の発端らしき老ゴブリンを思い出して憤慨する。 しかし、笑顔で城を見上げるゴブリン達の姿を見て肩をすくめたクウネルは怒りの矛を収めた。

 「はぁ……まぁ今はいいか。 それより二度と、この王国が危機に合わないように出来る限りの事をしたげなきゃ。 だって……私はずっとこの王国に居るわけじゃないんだからね」

 「姉御……」

 クウネルはゴブリン達を見ながら寂しそうに微笑んだ。

 ◆◇◆

 あれから残りの城門を作る用の穴を空けに走り回ったクウネルは、最後の仕事をすべく第3城壁内の街建設地に来ていた。   

 残りは家々の建築や大工達の工場を作るのみである。

 元々の街が有った土地ではゴブリン達が忙しなく動き回っており、瓦礫を1ヵ所に運んでいる。

 これらは、家を建てる時の材料にするのだ。

 「アウン? おや、クウネルもう城壁作りは終わったのかい? さすがは女神様だ、正に神業ってやつじゃないか」

 クウネルに気付いたモロがニヤニヤと笑いながらやって来た。 他のゴブリン達はクウネルに向かって拝んだり一礼したりと忙しい。

 「はぁ……モロ、拳と蹴りどっちがいい?」

 「キャウン!? クウネルに蹴られたら流石に死ぬよ?! ごめんごめん、冗談さ。 でも、本当にゴブリン達は君が女神様だと信じているよ?」

 「うん、知ってる。 まぁ……もうなに言っても聞いてくれないからいいよ。 ずっとこの王国に居るわけじゃないし」

 「クフクフ、そうだね。 一通りの復興が終われば、次の2足型種の国に行かないと」

 「あ、そういえば王様にあの御方に会う許可を貰うんだっけ? まだ話してないよね?」

 クウネルの言葉にモロが可愛く首を捻る。

 「可愛いなぁ私の友達は。 って、いやいや! え? 忘れてたの?!」

 「クゥ? ……あ! あー、それね。 大丈夫さ、もうキングには話してあるから。 もうクウネルから話す必要は無いからね? いいね?」

 クウネルは違和感を感じるが、友達であるモロがそんな事をする筈無いと気にしない事にした。

 「……う、うん、分かったよ。 あ、そうだ。 キュウベイの服ありがとうね! 凄く格好いいよ! 流石モロー!!」

 「クフクフ、ふふ、喜んでくれたなら良かったよ。 おや? そのキュウベイは何処に行ったんだい?」

 「あ~、なんでも弓の師匠に会ってくるとかなんとか。 この間の避難民の中に居るらしい」

 「クゥン? そうか、だからクウネルは寂しそうなんだね」

 「えぇ!? 急に何言ってるのモロは~! も~、このこのー! あっ……いっけね。 思わず殴っちゃった」

 振り下ろされた拳をモロは死ぬ気で避ける。 ギリギリの所で躱せたが、もし当たればただではすまないだろう。

 「キャウン!? 冗談さ! っていうか、当たったら死んでたよ?!」

 「当たって無いからセーフ! ノーカン! まぁ、ごめんごめん。 私、家を沢山建てなきゃいけないからまたねモロ」

 「ガウッ、分かったよ。 私は妻達と群れを連れて寝床にする予定の森に行ってくるから」   

 「ほいほーい! またね~」

 モロに別れを告げ、クウネルは打ち合わせを一緒にした大工のゴブリン達を探す。

 「さてと、大工長さんは何処かな?」

 クウネルからするとゴブリン達の見分けはつかないし、小さくて沢山居るせいで誰が誰やらさっぱり分からない。

 「ん~、仕方ない。 先に兵士の家を建てに第2城壁側の領土に行くか」

 「ギギ……あ、あのう!」

 踵を返して立ち去ろうとしていると、足下からなにやら声が聞こえた。

 「ん? 誰だ?」

 「ギ……癒しの、あ、えっと……暴食の女神様! お、お、おおおお願いが!」

 足下には小柄な老ゴブリンが、ガタガタと震えてながら何やら言っていた。

 「お、おおお落ち着いて! って、ごめんごめん冗談だよ。 で、どうしたの? ちなみに、私は女神様とやらでは無いからね」 

 話し掛けてきた年寄りゴブリンは、クウネルの細やかな抵抗に瞬きする。

 「ギガガ? あら? シャーマンの族長は上手くやれなかったのかしら。 あ、すみません、此方の話です。 お願いなのですが、前に持ってらっしゃった袋の中身を少し分けて頂けないでしょうか」

 「うん? 袋の中身? マンドラゴラと治癒の葉の事? それに、この声はお婆さんゴブリンなのか。 ん~……何で?」

 「ギ!? す、すみません、そうですよねダメですよね。 失礼な願いを言って申し訳ありませんでした」

 クウネルは何故必要なのか聞いたつもりなのだが、身体の大きさの違いから怒っていると思ったようだ。

 老ゴブリンは身体を震わせながら謝り始めた。

 「ごめん違うの、えっと……何に使うの? それに、貴女は?」

 「ギギ! も、申し遅れました! 私は癒しの族長と呼ばれております年寄りゴブリンでございます。 錬金術と薬術を少々嗜んでおりまして……先日の秘薬に感動しました! どうか、どうかこの年寄りにご慈悲を……」

 「んー、なるへそね。 まぁ、秘薬は流石に大げさじゃない? 癒しの族長って事は、ゴブリン達が怪我した時に治療する医者って事なのかな? オーケーオーケー、それなら協力するよ。 私のキャンプ地に置いてあるから運んで好きに使って。 あ、でもマンドラゴラと治癒の葉を混ぜて薬を作っちゃうと短時間しか効果ないから注意ね」

 クウネルの大きな顔に覗き込まれ、まだ癒しの族長は身体の震えが止まらない様子だが多少は誤解が解けたのか笑顔で感謝し始めた。

 「ギガガ……おぉぉ、何とお優しい。 本当にありがとうございます! それに、秘薬の注意点まで教えて下さり感謝に絶えません。 私にとっては、あなた様は癒しの女神様です」

 「はいはい、分かったから。 ゴブリン達は大げさ過ぎなんだよね」

 癒しの族長は見えなくなるまでお辞儀をしながら去っていった。

 「ギバ! 女神様ー! すまんすまん、待たせちまったな。 じゃあ、まずは民家をだな……」

  今さら大工長がやって来て話し始める。

  「いや、いいのよ? 来てくれないと復興進まないし。 でも、1個だけいいかな? だから、女神様って呼ぶなぁぁぁぁぁ!!」

 クウネルの咆哮は空高く響き渡り、そして虚しく消えるのであった。
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