ガルテナ ~私の一番の音楽~

茂庭

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楽器室へ

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 放課後、部室に全員集合すると早速楽器室に向かった。楽器室は音楽室のすぐ横。
念のため、昼休みに楽器室の楽器を使ってもいいか先生に確認を取っておいた。
これで吹奏楽部とかと鉢合わせても安心。

 速攻で来たためか音楽室にも楽器室にも人気は無かった。

 楽器室に入るとカーテンは閉め切られていて薄暗い。
古びた金属製のラックがいくつもあってそこに吹奏楽部が使うであろう楽器が隙間なく並べられていた。
 先導してくれた佐伯さんが新しめの金属製のラックを顎で示した。

「軽音部とジャズ研の楽器はこっちだ」
「わ! 結構ありますね!」
「上がギターで下がベースだったかな」

下段にはドラムケース、上段には五個のギターとベースのハードケースが収められていた。
その横のラックの下段にはアンプ、多分ギター用とベース用の持ち運び出来そうなもの。
上段のギターケースよりも一回り大きいあれは……

「あれは?」

 マリが私が気になっていた一回り大きいケースを指さす。

「キーボードだったかな」
「え!? キーボードもあるんですか!?」
「ユカ!」

 ぐるりと反転して視線を向けられる。「一緒にやろうよ!」 と目で言われた。
キーボードがどんな物か興味はあったけど、バンドに参加するつもりは無かった。

「やらんて」
「ユカリ、キーボード出来んの?」
「ピアノですけど」
「同じようなもんだろ。セッションしようぜ」
「いや、やりませんて」
「なんで」
「なんでもいいでしょ」

 恥ずかしいから、などと言ったら話がこじれそうな気がした。
既にジト目半分で睨まれた状態だし。
立花がフォローしてくれる。

「まぁまぁ、いいじゃないですか。楽器出してもいいですか?」
「いいんじゃね。私はいつも勝手に引っ張り出してるし」

 佐伯さんは言いながらいくつもあるドラムのケースを取り出した。

「手伝います」
「お、サンキュー」

 五人でやるとあっという間にドラム関連のケースは取り出せた。

「じゃあ次は西川さん! ベース選ぼう!」

 西川は頷いた。
ケースを慎重に降ろして開ける。

 西川は無表情だけど、ケースを開いた瞬間に少し目を大きくして、口を開けた。「わあ」と言いそうな表情。
とても分かる。私もピアノを初めた時はそうだった。楽器は見るだけでワクワクするピカピカな非日常の塊。

 ただ開けたケースはテレキャスター。エレキギターだった。長く使われないことを想定してか弦は外されていた。
サンバーストのボディの塗装が一部剥げていて、使い込まれていることが分かった。
お目当てのベースを探すべく、すぐに閉じて次を開ける。

 それを四回繰り返し、ようやくベースが出て来た。
白くペイントされたボディ。よく見かけるタイプのベース。これも塗装が一部剥げていた。

「あ! ベースだね! ジャズべ」
「ジャズべってなに?」
「ベースの種類です。ジャズベースとプレシジョンベースっていうのがあります」
「へー」
「全部見てみるよね?」

 マリの質問に答えた立花は西川に問いかける。西川は頷いた。
というかケースあと一つしかないけど。

 最後に開いたのは深い青色のジャズベース。これは新しいのかとても綺麗だった。

「これにします」

 指でボディを優しくなぞりながら西川が言った。一目惚れと言う奴かもしれない。
心なしかうっとりしているようにも見える。
昨日ボーカルが嫌でベースを選んだように思えたけど、勘違いだったのかもしれない。
 佐伯さんがニシシと笑った。

「よし、決まったな! じゃあ運ぶか!」

運ぶって一体。

「どこに運ぶんです?」
「部室に決まってんだろ」
「えっ!?」

 つい大声を出してしまった。全員分の視線が向けられる。

「なんだよ」
「なにかあるんですか?」

 立花の微塵の悪意の無い眼が心に突き刺さる。
この眼を前にして「静かな部室で優雅なDTMライフを謳歌したいから部室で練習しないで」なんてとても言えない。
というか私の主張が間違っている。筋が通っていない。軽音部だもんね。そりゃ部室で練習するよ。
しまった。マズイ、とてもマズイ。
大丈夫、まだ何か手はあるはず。考えろ考えろ考えろ!

「……いえ、特になにもありません」

 何も出なかった。とても後悔する。やっぱり合併は失敗だったか……
いや、私は諦めない。何らかの方法を必ず探す。静かに決意した。

 とりあえず今は楽器を運ぶことにする。
ドラムは数があるし重いので往復することになった。
佐伯さんが一番重そうな長方形の大きいケースを持ち、マリと私で二番目に大きいケース、多分バスドラを持った。
立花は一人で持てそうなケースを持ち、西川はベースを持った。と思ったらよろけた。

「どうしたの?」
「重いです……」

 西川は必至の形相だった。いや確かに重いだろうけどそんなに?
立花が「持とうか?」 と言うと首を横に振った。
自分で使う楽器を自分で運びたい気概は良いと思うけど、部室までもつのだろうか……

「じゃ、行きましょう!」

 立花の号令で部室に向かった。




 部室に着き、皆ドラムケースを降ろす。結構大変だった。
西川もベースを丁寧に降ろした。するとその場でへたり込んでしまう。

「え、ちょ、大丈夫?」

 西川はゼーゼー言いながらも頷いた。
いやこれは絶対に大丈夫ではない。体力無さすぎでは。

「なんだよ、シオリはクソ雑魚だな」
「ちょっと、そういう言い方よくないですよ!」

 ヘラヘラしながら西川をからかう佐伯さんをマリが叱る。

「残りは四人で大丈夫だから休んでて?」

 立花が顔を心配そうにのぞき込みながら言うと、西川は首を横に振り立ち上がった。
でも足が生まれたての子鹿のようにプルップルに震えていたので休んでてもらうことにする。

「いや、その足だと危ないから休んでて?」

 二人目に言われて渋々頷いてくれた。
またその場にヘタレ込むのを確認して、今度は四人で楽器室に向かった。
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