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被服部部長の憂鬱
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被服部部長、高崎千奈美は憂鬱だった。
今日は朝から完璧な一日だった。
テレビでは乙女座が一位、快晴で風もなく、決めたサイドテールは微塵も崩れない。
学校に着けば友達が気になっていたファッション誌を見せてくれ、授業では大嫌いな体育は無く唯一好きな美術があった。
お昼は好物のだし巻き卵とハンバーグがお弁当に入っていた。
今も被服部室の窓際後方の定位置に座り、趣味の裁縫に取り組んでいる。
それでも憂鬱だった。
被服部は一年三人、二年二人、三年三人と悪くない人口ピラミッドが形成されている。
三年の一人が今日もサボってはいるが、その他の部員は今も楽しそうに活動している。
憂鬱の原因は分かっていた。そのサボりの一人だ。
アイツが来なくなってもう一ヶ月以上経つな……
またアイツのことを考えてしまった。心の中で舌打ちをする。
すると被服部の扉が勢いよく開いてアイツが爽やかに言った。
「うぃーっす」
「げ、佐伯」
そう、佐伯佐奈栄。コイツが私の憂鬱の原因だ。
「ちーっす」
「久しぶりでーす」
「もっとコッチ来て下さいよ!」
二、三年の部員は大歓迎の様子。
「今忙しーんだよ。あ、でも用があるならいつでも呼べよ」
佐伯も歓迎に応えるるようににこやかだった。
「誰ですか?」
「三年の佐伯さん、めっちゃ裁縫上手いんだよ!」
一年の三人は面識が無いので、二年の一人が紹介していた。
佐伯は一年を見るとニヤニヤして近づき、ちょっとした雑談を交え自己紹介をしていた。
その雑談の輪の中にニ、三年が何人か加わった。皆笑っていた。
ひとしきり雑談を済ませた後、こちらに近づいて来る。
そして私の正面の席にドッカリと座りながら言った。
「よう、高崎もなんか久しぶりだなぁ」
なんの詫びも無く屈託のない笑顔にカチンと来た。
部長としてキッチリ叱りつけねば。
「『久しぶりだなぁ』じゃないわよ! アンタなにしてんの!?」
「あ?」
まるで心あたらない様子。サボり魔と化しているのを忘れているのだろうか。
私はずっとイライラしていたのに。
「軽音部と掛け持ちしてそっちに入り浸ってるんでしょ!?」
「今更それかよ」
「今更じゃないわよ! 聞ーてないわよ!」
「なに怒ってんだ。いいじゃん別に」
「よくないわよ!」
暖簾に腕押し、ヌカに釘とはこのこと。まるで気にしていない様子に怒髪天を突きそうだ。
「それより今日は頼みがあって来たんだ」
「頼みぃ?」
真剣な顔だった。基本いつもヘラヘラしているので会話している最中はあまり見ない顔だ。裁縫中ならよく見る顔だが。
なんにせよ怒りの勢いが削がれてしまって「それより」の追求は出来なくなってしまった。
「軽音部の連中に衣装作ってやりたいんだ。協力してくれ」
「はぁぁぁ!?」
原因元凶の手伝いをしろということか。もうほぼ怒髪天を突いている。
「スケジュールが厳しいんだ。私一人だと間に合わない可能性がある」
目の奥まで真剣だった。ここまで真剣な表情は初めて見た。よほど大事なことなのだろう。
聞き耳を立てていたニ、三年の三人が近づきながら言う。
「手伝うよー」
「私も! 面白そう!」
「手伝いましょうよ部長!」
三人のうちの二年の一人が私の左肩を揺すりながら手伝うことを勧めた。とっても鬱陶しい。
「マジか! スゲー助かる! サンキュー!」
満面の笑みになった佐伯が三人にお礼を言った。
三人をギロリと睨みつける。すると三人は蜘蛛の子を散らすように速やかに離れた。
三メートルほど離れた後で振り返るとニヤニヤしていた。
私の睨みなど効かない。完全に遊んでいる。くそッ、覚えていなさい。
「おい、部員にあたんなよ」
様子を見ていた佐伯に半笑いでなだめられる。半笑いで怒りが更に加速する。
「うっさいわね! もう三人も確保したんだからいいでしょ!」
三人が手伝いたいと言うのであれば止めるつもりは無い。
被服部は自由な活動がモットーだ。
「いや、お前にも頼みてーんだよ」
「なんでよ」
「お前が部で二番目にうめーから」
「一番は?」
「私に決まってんだろ」
佐伯はニッと笑った。
「でしょうね」
想像通りの答えだった。試しに聞いてみただけ。
コイツが本気でデザイナーを目指していることは被服部のニ、三年なら皆知ってる。
ファッションデザイン画コンテストに応募しているのは部でコイツだけ。
入選したこともあるが、殆どが落選だからかそれを自慢することはない。
コイツは一年から放課後誰よりも遅くまで残っていた。
軋轢を生みそうな性格は少し問題になったこともあったが、コイツは気にも留めていなかった。
そして誰にでも隔てなく同じ態度で接していたことと、
部員に対してはとても協力的だったことでいずれ問題にならなくなった。
指導なんかもするからやたらと人望がある。
一年の時も軽音部と掛け持ちしてたけど、その時は被服部に来ない日はなかった。
席を外してもかならず一時間以内には戻ってくる。
二年になって軽音部が廃部になってからは当然毎日被服部に来ていた。
でも、それも二年まで。三年になってから急に部室に来なくなった。
友達からまた軽音部に入ったと聞いた。
私にはなにも言わずに。
これは嫉妬だ。軽音部にコイツを取られたことがとても気に入らない。
下らない嫉妬だと分かってる。
だからこれは軽音部への贖罪であって、
決してコイツの為ではない。
一つ溜息をついてから言った。
「貸しだから」
「あ?」
またカチンと来た。しっかり聞いてなさいよ、まったく。
「一つ貸しだって言ってんのよ! 詳しく話を聞かせなさい!」
人数やデザイン、スケジュールやコイツの要望によっては忙しくなりそうだ。
机に両方の手の平をバンと叩きつけ、勢いよく立ち上がり言ってやる。
「作るからには最高の衣装を作るわよ!」
憂鬱は晴れて、頬が緩んでいるのを感じた。
今日は朝から完璧な一日だった。
テレビでは乙女座が一位、快晴で風もなく、決めたサイドテールは微塵も崩れない。
学校に着けば友達が気になっていたファッション誌を見せてくれ、授業では大嫌いな体育は無く唯一好きな美術があった。
お昼は好物のだし巻き卵とハンバーグがお弁当に入っていた。
今も被服部室の窓際後方の定位置に座り、趣味の裁縫に取り組んでいる。
それでも憂鬱だった。
被服部は一年三人、二年二人、三年三人と悪くない人口ピラミッドが形成されている。
三年の一人が今日もサボってはいるが、その他の部員は今も楽しそうに活動している。
憂鬱の原因は分かっていた。そのサボりの一人だ。
アイツが来なくなってもう一ヶ月以上経つな……
またアイツのことを考えてしまった。心の中で舌打ちをする。
すると被服部の扉が勢いよく開いてアイツが爽やかに言った。
「うぃーっす」
「げ、佐伯」
そう、佐伯佐奈栄。コイツが私の憂鬱の原因だ。
「ちーっす」
「久しぶりでーす」
「もっとコッチ来て下さいよ!」
二、三年の部員は大歓迎の様子。
「今忙しーんだよ。あ、でも用があるならいつでも呼べよ」
佐伯も歓迎に応えるるようににこやかだった。
「誰ですか?」
「三年の佐伯さん、めっちゃ裁縫上手いんだよ!」
一年の三人は面識が無いので、二年の一人が紹介していた。
佐伯は一年を見るとニヤニヤして近づき、ちょっとした雑談を交え自己紹介をしていた。
その雑談の輪の中にニ、三年が何人か加わった。皆笑っていた。
ひとしきり雑談を済ませた後、こちらに近づいて来る。
そして私の正面の席にドッカリと座りながら言った。
「よう、高崎もなんか久しぶりだなぁ」
なんの詫びも無く屈託のない笑顔にカチンと来た。
部長としてキッチリ叱りつけねば。
「『久しぶりだなぁ』じゃないわよ! アンタなにしてんの!?」
「あ?」
まるで心あたらない様子。サボり魔と化しているのを忘れているのだろうか。
私はずっとイライラしていたのに。
「軽音部と掛け持ちしてそっちに入り浸ってるんでしょ!?」
「今更それかよ」
「今更じゃないわよ! 聞ーてないわよ!」
「なに怒ってんだ。いいじゃん別に」
「よくないわよ!」
暖簾に腕押し、ヌカに釘とはこのこと。まるで気にしていない様子に怒髪天を突きそうだ。
「それより今日は頼みがあって来たんだ」
「頼みぃ?」
真剣な顔だった。基本いつもヘラヘラしているので会話している最中はあまり見ない顔だ。裁縫中ならよく見る顔だが。
なんにせよ怒りの勢いが削がれてしまって「それより」の追求は出来なくなってしまった。
「軽音部の連中に衣装作ってやりたいんだ。協力してくれ」
「はぁぁぁ!?」
原因元凶の手伝いをしろということか。もうほぼ怒髪天を突いている。
「スケジュールが厳しいんだ。私一人だと間に合わない可能性がある」
目の奥まで真剣だった。ここまで真剣な表情は初めて見た。よほど大事なことなのだろう。
聞き耳を立てていたニ、三年の三人が近づきながら言う。
「手伝うよー」
「私も! 面白そう!」
「手伝いましょうよ部長!」
三人のうちの二年の一人が私の左肩を揺すりながら手伝うことを勧めた。とっても鬱陶しい。
「マジか! スゲー助かる! サンキュー!」
満面の笑みになった佐伯が三人にお礼を言った。
三人をギロリと睨みつける。すると三人は蜘蛛の子を散らすように速やかに離れた。
三メートルほど離れた後で振り返るとニヤニヤしていた。
私の睨みなど効かない。完全に遊んでいる。くそッ、覚えていなさい。
「おい、部員にあたんなよ」
様子を見ていた佐伯に半笑いでなだめられる。半笑いで怒りが更に加速する。
「うっさいわね! もう三人も確保したんだからいいでしょ!」
三人が手伝いたいと言うのであれば止めるつもりは無い。
被服部は自由な活動がモットーだ。
「いや、お前にも頼みてーんだよ」
「なんでよ」
「お前が部で二番目にうめーから」
「一番は?」
「私に決まってんだろ」
佐伯はニッと笑った。
「でしょうね」
想像通りの答えだった。試しに聞いてみただけ。
コイツが本気でデザイナーを目指していることは被服部のニ、三年なら皆知ってる。
ファッションデザイン画コンテストに応募しているのは部でコイツだけ。
入選したこともあるが、殆どが落選だからかそれを自慢することはない。
コイツは一年から放課後誰よりも遅くまで残っていた。
軋轢を生みそうな性格は少し問題になったこともあったが、コイツは気にも留めていなかった。
そして誰にでも隔てなく同じ態度で接していたことと、
部員に対してはとても協力的だったことでいずれ問題にならなくなった。
指導なんかもするからやたらと人望がある。
一年の時も軽音部と掛け持ちしてたけど、その時は被服部に来ない日はなかった。
席を外してもかならず一時間以内には戻ってくる。
二年になって軽音部が廃部になってからは当然毎日被服部に来ていた。
でも、それも二年まで。三年になってから急に部室に来なくなった。
友達からまた軽音部に入ったと聞いた。
私にはなにも言わずに。
これは嫉妬だ。軽音部にコイツを取られたことがとても気に入らない。
下らない嫉妬だと分かってる。
だからこれは軽音部への贖罪であって、
決してコイツの為ではない。
一つ溜息をついてから言った。
「貸しだから」
「あ?」
またカチンと来た。しっかり聞いてなさいよ、まったく。
「一つ貸しだって言ってんのよ! 詳しく話を聞かせなさい!」
人数やデザイン、スケジュールやコイツの要望によっては忙しくなりそうだ。
机に両方の手の平をバンと叩きつけ、勢いよく立ち上がり言ってやる。
「作るからには最高の衣装を作るわよ!」
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