ガルテナ ~私の一番の音楽~

茂庭

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予選登録

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 六月一日、今日はガルテナ予選登録開始日。
登録のため、チハルがパソコンデスクに置いたノートパソコンの前に座っている。
その周りを皆で立って囲み、モニターを一緒に眺めていた。

「では、登録しますね!」

 チハルはマウスの操作する。途中キーボードをカタカタと叩く。あまり慣れていない手つきだった。
必要事項への記入が終わり、三十分後……

「さっさと押せっつってんだろ! いつまでビビってんだよ!」
「いやちょっと待って下さい! 私のタイミングで行かせてください!」

 キレ気味、というかキレたサナエさんが青ざめたチハルの左肩を右手で揺さぶりながら言い争っていた。
チハルは最後の登録ボタンが緊張で押せないでいた。

 凄く分かるよ。動画投稿は本当にドキドキする。
でもドキドキしたのがアホみたいに思えるほど再生されないから安心して。
いやこの動画は再生されなきゃダメなんだけど。

 などと思いながらも、流石に三十分はビビり過ぎなので背中を押すことにした。

「こういうのは勢いだよ」
「もう再確認も何度もしたじゃん」
「五回はしましたね」

私に続いてマリが苦笑気味で、シオリがいつもの無表情で言った。

「分かりました押します押しますよ!」

 チハルは「はいはいやればいいんでしょー!」 といったノリで決心した様子。
目を瞑り、呼吸を整える……その後目をクワっと見開いた。

「えい!!」

 同時に『登録』ボタンを押したが、ホームページ上は変わらなかった。
少し沈黙が流れ、ようやく次のページに遷移した。

「あれ!? なんか反応が遅い!?」

 声を大きくして狼狽するチハルだが、私には経験があった。
オリジナル曲を投稿した時もこんな感じだったから、動作が重い原因はすぐに分かった。

「落ち着いて。動画投稿だからエンコードに時間がかかるだけだよ」
「そうですか! ビビりました!」

 振り返って私に視線を向けたチハルは半泣きだった。すぐに視線をモニターに戻した。相当ビビったようだ。
そんな中、すぐ左にいるマリがニコリとして視線を向けてくる。

 経験者は語る、だね。

 アイコンタクトだったけど、ハッキリそう言っていた。

 アイコンタクトやめて。

 とアイコンタクトで返しておいた。するとサナエさんが腕を組んでチハルに話しかける。

「エンコード、時間がかかりそうだな。今後の予定ってどうなってんの?」

 シオリも頷いて今後の予定を聞きたいようだった。

「いやなんか今それどころじゃないっす……」
「ヘタレかよ!」
「もー」

 白目を向いたチハルは反応したが回答では無く、サナエさんとマリは拍子抜けしていた。
動画投稿が終わるまで待っていた方が良さそう。

「ちょっと待とうか」

 そう言って三分ほど待ったところで、モニターが動いた。

「あっ! 動画投稿終わりました!」
「一番に再生しようよ!」
「はい!」

 マリが言うとチハルは再生ボタンを押した。動画は綺麗に流れた。問題無く投稿できた。
そしてそのまま、皆で一緒に動画を見ていると、マリがうっとりと言った。

「ホント、世界最高の動画だね~……」
「はい、ここまで出来るとは思いませんでした。ハッキリと手応えを感じるほどです」

 マリがチハルに問いかける。

「手応えって?」
「もちろん予選突破の手応え」
「同感です」

 チハルが答えるとシオリもそれに乗った。サナエさんがシオリに問いかける。

「シオリも詳しいのか?」
「前年の本選出場者の予選動画十六本全て拝見しました」
「マジか」
「研究熱心だねー」
「客観的に見て劣っていないように感じられました」

 シオリの口数がいつもより少し多いように思えた。
もしかしたらシオリもこの動画で浮かれているのかもしれない。可愛い奴め。

「そう!そうです!私もそう思いました!」
「私も」

 チハルと私が乗ると、マリに視線を向けられる。

「ユカも全部見たの?」
「私は何本かだけど」
「偉いなー」

 いや、これくらい普通じゃない? とは思ったけど言わないでおいた。
 私は去年の予選をギリギリ通過したバンドの動画を見ておいたけど、そこまで劣っているようには思えなかった。
曲も劣ってないと思えるんだけどな……なんにせよもう覚悟を決めるしかない。
登録は完了したのだから。

 そんなことを考えていると、チハルが座ったまま自分の左後ろにいるサナエさんに視線を向けた。

「はぁ……少し落ち着いてきました。すみません、今後の予定ですよね?」
「あぁ」
「今後ですが、本選に向けて予選動画の曲の練習を続けます」
「予選と同じ曲でいいのか?」
「はい。ルール上も問題ありません。今から新しい曲を練習して時間が足りなくなっても困りますし」
「だな」
「なので本選でも同じ曲を使います。予選動画以上の演奏が一発で出来るよう、頑張りましょう!」
「「「「おー!」」」」

 皆で右手の拳を突き挙げて気合いを入れた。
予選動画では二時間も録り直してしまった。やることはまだまだある。




 その後いつも通りの練習をし、マリと二人の帰路。マリはホッとしたようだった。

「予選の結果が出るのは一ヵ月後かぁ。しばらく落ち着けるね」
「うん。でも曲作りたい」
「おっ! リコルの新曲?」
「うん、次はもっといい曲が出来る気がする」

 そもそも予選で使った曲はリコルのために作った曲じゃないし、ずっとリコルのための曲を作りたかった。
五月中にはいくつか種になるメロディは浮かんでいて、消えないようにパソコンに保存してある。
あとは膨らませて修正していくだけ。

「そうなんだ! 楽しみー! でもなんで皆に言わないの?」
「いや期待させちゃ悪いし」
「まーたそうやってネガる」

 マリはまだ私が自信無さげなことがお気に召さない様子だった。

「ネガるて。皆には内緒ね。形になったら私から言うから」
「はーい」

 こっちには素直に返事をしてくれた。




 マリと別れて帰宅後、自室で部屋着に着替えて椅子に座り、パソコンを起動した。
有力なバンドは既に予選動画を投稿しているはずなので、見てみるつもりだった。

 いくつかの動画を見てみる。
九人組でストリングスとブラスも入っているバンド、アコースティックギターとカホンの二人組バンド。
他にも侍バンドやゾンビバンドなんかもいた。皆個性的で面白かった。

 ……うん、やっぱり私達のレベルは低くない。
いくつかの動画を見ての素直な感想だった。
お友達補正を加味しても、劣っているとは思えない。

 たださすがに去年本選出場した上位のバンドと比べると劣っていた。やっぱり有力なバンドのレベルは高い。
でも出場ラインのボーダーのバンドとなら勝負できる。はず。大丈夫、きっと大丈夫。
そう自分に言い聞かせた。
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