ガルテナ ~私の一番の音楽~

茂庭

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予選結果

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 七月一日、ガルテナ予選結果発表の日。結果発表に備えて部室に皆が集まっていた。
今日は朝からずっと憂鬱だった。それはマリとチハルも同じだったようで、顔がすっかり青ざめていた。

 パソコンデスクに置いたノートパソコンの前にはチハルが座り、その周りを左からサナエさん、マリ、私、シオリと皆で立って囲んでいる。
発表にはまだ少し時間があったけど、発表のページを表示しながら待っていた。
チハルがしわがれた声を捻り出す。

「発表そろそろですね……」
「辛気くせーな! シャンとしろよ!」

 サナエさんはいつもと変わらない様子だった。ツッコミもいつも通りキレキレだ。

「いやなんか今日はもう朝から緊張しちゃって…」
「私も…」
「受験なんかよりずっと気が重い…」

 チハルにマリと私が続いた。私も青ざめているだろう。自覚はある。

「マリコまで元気ないのは珍しいな」
「それだけ緊張しているのでしょう」
「シオリは大丈夫そうだな」
「取り繕うことには自信があるので」
「じゃあ緊張してんの?」
「ほら足を見て下さい」
「ガクブルじゃねーか」

 シオリと会話していたサナエさんは最終的に目を丸くしたが、シオリはなぜかドヤ顔だった。
だからそのドヤ顔はホントにどうなの……
と言おうとしたらチハルがまたしわがれた声を捻り出した。

「今年のガルテナは過去最高の百一バンドが参加しました…」
「縁起よさそーじゃねーか」
「それだけ激戦ということですよ……」
「それがどうした。やること変わんねーだろ」
「それシオリにも言われました……」
「しっかりしろよ。動画撮るときとかなかなか部長らしかったじゃねーか」
「ギター以外は専門外っす……」
「しっかし、いつも誰かしらまともなのに今日は壊滅だなぁ」

 サナエさんは私達の顔を見渡していた。

「いつも全員まともです……」

 なにか反撃せねば、と声を出したけど、震え声だったかもしれない。

「全員吐きそうなツラしてんぞ。あ、十六位以内で予選突破だよな?」
「そうですよ。今更それですか?」
「やることやってんだから別にいいだろ」

 流石のサナエさんもムッとしていた。
 そんなやり取りしているとモニター右下の時計が四時を回った。
シオリもそれを確認したようでチハルに声を掛ける。

「部長、時間です」
「そうだね……頼む……」

 皆の雰囲気が変わった。緊張が走る。
シオリもサナエさんも目つきが変わる。
マリは手を組んで祈っている。見るのが怖いようで目をつむっていた。

 私も強く祈る。

 通って!!

「お願い!」

 マリが言うと、チハルは既に覚悟を決めていたようで、一気に言った。

「更新いきます……せーのっ!」

 強めのクリック音が鳴り結果発表のページに遷移する。結果発表はランキング順で上から順に表示されていた。
今モニターに映されているのは三位までで、リコルリエの名前は無かった。
下にスクロールする必要がある。

 チハルは言われなくても分かっていて、ゆっくりとスクロールしていった。
スクロールする度に、順位が下がっていく度に、鼓動が速くなっていった。

「どうだ!?」

 サナエさんが待ちきれないようで、チハルの左肩を右手で掴みモニターを覗き込んだ。
その間もスクロールは続けられ、やっとリコルリエの名前が表示される。

「私達、リコルリエの順位は……」

 チハル越しにモニターは見えていたので、私にはもう順位が見えていた。
チハルが続けて言う。

「……十七位……」
「…………うそ……」

 目をつむって順位の確認を任せていたマリが目を開く。前のめりにモニターを確認した。チハルの言葉を信じないように。
 シオリはいつもと変わらない調子で確認する。

「予選突破ならず、ということですね」
「はぁー!? マジかよ! あと一つじゃねーか!」

 サナエさんは頭を抱えた。

 頭が真っ白になってしまった。なにも言えない。
ただ、視界に入っていたモニターに十六位、私達の一つ上で本選出場となったのバンドが表示されていて、それが見覚えのあるバンド名だった。
それを確認すると、速くなっていた鼓動が一気に下がった。

 少し沈黙が流れる。誰も喋らなかった。私も喋れなかった。

 ふと気付く。チハルが静かに泣いている。
唇を噛みしめて嗚咽を漏らさないようにしているように見えた。

 するとすぐ、シオリから嗚咽が漏れた。
両手で抑えようとしたが漏れ続け、ボロボロと泣き出してしまった。ついさっきまでいつもと同じ無表情だったのに。
シオリは消え入りそうな声を出した。

「……ごめんね……私、なんの役にも立ってない……」

 それを見たチハルはすぐに立ち上がって、シオリを抱きしめた。

「なに言ってんの。そんなことないよ」
「私だけ初心者で下手だったから……」
「もう十分なレベルだって言ったでしょ」
「でも……」
「それに軽音部作るときに一番に私のところに来てくれたでしょ。すっごく嬉しかったんだから。シオリがいなければ全部なかったかもしれないんだから」
「それは……」
「だから感謝しかないよ。責任感じないで。バンドとしての結果なんだから」
「うぅ……」

 チハルは気丈にシオリを励ましていたが、涙は止まっていなかった。
時折しゃくりあげそうになるのを必死に我慢していることが見て取れた。
すると、後ろからすすり泣きが聞こえたので振り返る。
マリが泣いていた。目からいっぱいに涙が流れていた。

「……なんで……世界最高の動画なのに……」
「そうだな……」

 サナエさんがマリの頭を優しく撫でていた。髪が乱れないようにゆっくりと。

 やってしまった。

 分かっていたはずだ。
楽しくて浮かれて考えないようにしていただけ。
ミックスが終わった翌日と、予選動画を投稿した翌日にはハッキリと思い出していたのに言えなかった。

 私の曲がダメだってことを。

 謝らなくちゃ。皆にちゃんと謝らなくちゃいけない。
皆を泣かせてしまったのは私だ。分かっていたのに。私の曲がダメってことなんて。

 本当にごめん。ごめんなさい。

 そう何度も何度も思っても声に出せなかった。
声に出そうとすると、喉の奥が痛むほどギュウっと締め付けられる。




 それからどれくらい経ったか分からない。
誰も喋らなかった。時計の秒針と、エアコンの音、マリとシオリの嗚咽だけが聞こえていた。

 そんな中、チハルが抱きしめていたシオリを放して全員を見渡した。まだ目には涙が溜まっていた。

「あの、今日は解散にしましょう」
「だな。この状態じゃ話も出来んし」

 サナエさんががすぐに賛成した。

「ではまた明日、部室に集合で」

 チハルがそう言うが、誰も動かなかった。動けなかった。

 また少し経って、サナエさんがパソコンの電源を落とし、畳からバッグを拾い上げて一人ずつ持たせてくれた。

「ほらほら、帰った帰った。今日はますっぐ帰れよ。寄り道なんかすんじゃねーぞ」

 いつになく優しい声。
そのあと優しく腕を引っ張られて、ようやく動けた。
皆が部室から出た後で、鍵を閉める。

 初めて鍵が重く、とても重く感じた。
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