ガルテナ ~私の一番の音楽~

茂庭

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リコルリエ再始動

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 一方、学校の放課後、千晴は栞と部室に向かう廊下を進んでいた。



 部室前の廊下まで来ると、マリコさんとサナエさんが窓際を背に立ち尽くしていた。

「二人で何してるんです?」
「部室が開かねーんだよ」

 サナエさんが答えてくれる。

「そっか、いつもユカリさんが開けてくれてたんですもんね」
「あぁ、いつも大体一番に来てたからな。頑張ってたのかもな」
「あれ? 職員室に予備あるって知ってますよね?」
「あ、ごめん、忘れてた」

 マリコさんが謝った。
ボケモードに入ると手が付けられなくなる時があるけど、真面目で優しい先輩なので珍しい。

「私はメンドイから。職員室遠いじゃん」

 サナエさんはにこやかに言った。
 全く悪びれない正直な発言にシオリがジト目を向けツッコむ。

「ダメな人ですね」
「おいおい言ってくれんじゃないのチビッ子。身長縮めたろか」

 サナエさんはにこやかなままシオリの頭に右手を伸ばした。それを両手で掴んで必死に防衛するシオリ。
たまに見る二人の右手対両手が始まった。少し安心した。この二人はいつも通りだ。
マリコさんは元気がないように見えていた。ユカリさんがいないからか、昨日の結果を引きずっているのか。
 ともかく、部室を開けよう。

「鍵取ってきます」

 そう言って早足で職員室に向かった。




 職員室から鍵を取ってきて部室の扉を開ける。ユカリさんがいないことに違和感を覚えた。
いつも穏やかに迎え入れてくれていた。

 四人でコタツに座るとやっぱり違和感がある。いつも私の正面にいるユカリさんがいない。
マリコさんは隣の空いているスペース、いつもユカリさんが座るスペースを使おうとしなかった。

 いけないいけない。話を進めよう。

「じゃあ今日お休みのユカリさん以外集合したので、軽音部会議始めます」

 気持ちの整理は昨日の夜につけていた。皆が私に視線を向けるので続けて言った。

「えと、昨日は結果としてはとても残念でした。でも、来年があります。私は、来年の本選出場を目指して、また頑張りたい」

 隣に座るシオリが何回も強く頷いてくれた。心強い。
サナエさんは二ッと笑った。

「私はもう出られねーけど応援するぜ。衣装も当然作ってやる」

 私の言葉を気に入ってくれたようだった。
でもやっぱり知らない様子。

「それですが、ガルテナは大学の部もあるんです」
「へ?」
「社会人の部もあります」
「マジで!?」

 サナエさんは目を見開いて驚いていた。

「アマチュアガールズバンドの日本一を決める大会ですから、学生限定ではありません。なのでサナエさんには是非来年もリコルリエのメンバーとして活動して欲しいのですが……」
「それって大学の部に出るってことだろ?」
「はい」
「周りのレベルはもっと上がるんだろ? いいのかよ」
「勿論です。分かっていてサナエさんにいて欲しいと思ってます」
「おいおい嬉しいこと言ってくれんじゃねーの! やるに決まってんだろ! このまま終われるかよ!」
「本当ですか!? よかったー!」

 昨日からの懸念を晴れやかな笑顔で打ち消してくれたので心底安心する。
私はこの五人で、もう一度挑戦したかった。

 シオリがサナエさんにまたジト目を向けた。

「大学の部があることなんてホームページを見れば分かりますよね」
「オイこら昨日ピーピー泣いてたくせに言ってくれるじゃねーかよ」

 流石のサナエさんもカチンと来たらしく、また右手対両手が始まる気配がしたので、サナエさんに向けて話を続ける。

「でも、お願いしといてなんですけど、大丈夫ですか?」
「なにが?」

 サナエさんは三年だ。今年卒業して来年からは服飾系の専門学校に通うと聞いていた。

「専門学校とか……」
「知らね」

 あっけらかんと言われた。

「えぇー」
「ダメならダメでなんとかするに決まってんだろ」

 また二ッと笑ってくれた。

「カッコよすぎますよ! ありがとうございます! じゃあメンバーはこのまま! 来年目指して頑張りましょう!」
「「おー!」」

 サナエさんと私が右手の拳を突き挙げると、シオリも控えめに挙げてくれた。
 サナエさんは右手を降ろし、マリコさんに視線を向けた。

「よし、区切りはついたな。じゃあ次は、オイ、そこの二つ結び」
「……え? 私?」

 マリコさんは遅れて反応した。
右手を突き上げるのにも参加してくれなかった。いつもなら率先してくれるのに。元気がないのは明らかだった。

 サナエさんとマリコさんの会話は続いた。

「お前以外二つ結びいねーだろ」
「そんな呼び方したことないじゃないですか」
「別人みてーに辛気くせーんだよ。なんかあったろ」

 マリコさんはその言葉に唇をキュッと結んで俯き沈黙してしまった。
その沈黙を少しだけ待ってからサナエさんが続ける。

「話せオラ二つ結び片方抜き取るぞ」

 冗談めかしていたが、目は真剣だった。
マリコさんはまだ俯いて沈黙していた。間違いなくなにかあったことは分かった。

「……あの、言いづらいなら無理に言わなくてもいいですよ」

 そう言うと、マリコさんは悲しい顔をして絞り出すように話してくれた。

「……昨日、ユカと喧嘩しちゃって……ユカ凄く責任感じちゃってて、なんとかしたかったんだけど、私も動揺しちゃってたみたいで、怒らせるだけになっちゃった……」
「なるほどな、犬も食わねーやつだ」
「茶化さない」

 ふざけたシオリがサナエさんにジロリと視線を向ける。
私もふざける気にはなれなかった。というよりもショックだった。

「そんな、ユカリさんのせいじゃないのに」
「そうなの。そう言ったんだけど、『私の曲のせいだ』って聞いてくれなくて……」
「そんなことないのに……」
「うん……多分今日休んだのも……」
「今からお見舞い行きましょう」

 マリコさんと話していると急にシオリが提案した。それをサナエさんが止める。

「おい今の聴いてたか? 止めておけ。今は私等の顔見たくねーってことだろ」

 シオリとサナエさんの視線が交わる。睨み合いとは少し違った、お互い冷静で穏やかな目だった。

「違うかもしれませんし、そうでも話せばすぐに解決するかもしれません」

 シオリはこういうとき積極的になってくれるので頼もしい。シオリの案に乗る。

「あの、私も行きたいです。『ユカリさんの曲を使わせて下さい』って言ったの私ですから、責任は私にあります」
「その『責任』って言うのやめよ? チハルちゃん昨日『バンドとしての結果』って言ったよね? その通りだよ。責任って言うなら私達全員にあるはずだよ」

 マリコさんは『責任』という言葉に過剰に反応した。

「でも、やっぱり早く言いたいです。ユカリさんのせいじゃないって、ユカリさんに責任は押し付けないって言ったんです」
「止めておいた方がいいよ。言っても聞かないと思う。むしろ辛くするだけ」
「それでも行きたいです。顔見たいです」
「じゃあ二人で行きましょう」

 またシオリが提案してくれる。

「なかなか頑固だな、ガキンチョ共。ほっといてやれよ。あんまりうるさく言うんじゃねーよ」
「私はもう止めないけどさ、立ち上がれる速さは人それぞれってこと、忘れないで。私は失敗しちゃったから……」

 サナエさんは止めたけど、マリコさんはもう諦めたようだった。
俯いてしまったマリコさんが痛々しくて、少しでも早く仲直りして欲しいと思った。

「分かりました。心にとめて、行ってきます。」

 シオリはまっすぐマリコさんを見て言った。本当に頼もしい。
早速お見舞いに行くべく、切り上げることにした。

「じゃあ今日はこれで解散しましょう。再始動は明日からと言うことで」
「ちょっと待って下さい。私からも一ついいですか?」

 シオリからの言葉。珍しい。

「なに?」
「昨日、私達が予選を突破できなかった理由を分析してきました。内容を共有したいのですが」

 そう言って、シオリは私達に分析の内容を伝えた。
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