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思い出
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帰宅してすぐ部屋着に着替えた。その後、パソコンを立ち上げDAWを起動する。
小学校六年生のクリスマスの時、貯めたお年玉とお誕生日とクリスマスの合わせ技で、かなりいいDAWを買って貰った。
それから約三年半、ほぼ毎日デスクトップ上の押しやすい場所に配置したDAWのショートカットをダブルクリックしていた。
そんな訳で自室でのDAWの起動はもう習慣化されていた。
いや待て、私は何をしている。
DAWを起動するということは作曲をするということ。
五月にいくつかメロディを捕まえておいたことと、皆を大好きになったことで作曲は六月中にサクサク進んでいた。
無意識にその作業の続きをする気だった。
危ない危ない、辞める人間がリコルリエの曲を作ってどうすんの。
パソコンを落としてベットに倒れ込む。
……いや別にいいのか。もともとの趣味だし。
一人なら誰も傷つけないんだから。
思い直してまたパソコンを立ち上げ、DAWを起動した。
それから五日後。部活サボりは板についてきた気がする。夕方、自室でDAWを起動していた。
皆はあれから来なくなった。メッセージも来なくなった。
先生が言ってくれたのかもしれない。正直ありがたい。
マリにはまだ謝れていなかった。まだ謝った先の想像が出来ないから。
クラスが別で助かった。始業式の日こそマリは別のクラスになったことを絶望していたけど。
本当は皆にも謝りたい。でもチハルのリアクションがあまりにも予想通りだった。
チハルが「ユカリさんのせいじゃないですよ!」と言って、シオリもそれを否定しない。
サナエさんは読めないけど、あの調子だと謝ったら怒られそうな気がした。
それで「曲のせいだ」とか「ダメだって分かってたことに巻き込んでしまった」とか言っても絶対分かってもらえない。
それで謝っても意味が無い。シオリも同じ気持ちなのだろうか。
ダメだ、集中が切れてしまった。DAWを落とし、椅子に座ったまま伸びをする。
退部届……書こうかな……
夏休み明けまで考えろ、と言われたけど、どうも気持ちがグラついていた。
喉の奥が締め付けられる感覚も引かない。書けばスッキリするかもしれない。
指定はないと言われたし、机の引き出しから適当に紙を見繕ってボールペンの先を近づける。
……ペン先が紙に乗らなかった。
磁石が反発するように、近づけられない。
なんで?
決まっている。辞めたくないからだ。
コレを提出してしまったら、退部を確定付ける。
マリと喧嘩してしまった時、「辞める」と言えなかったのは、マリが泣きそうになったからじゃない。
私が辞めたくなかっただけ。
顔が熱くなる。ペンをぎゅうっと握っていた。
なんなんだ私は。親友を言い訳にしていただけだったのか。
ヘタレで卑怯者、こんな奴いない方がいいに決まってる。
そう思うと急に退部届を書くことが出来た。
でも傷は深まったような気がする。喉の奥の締め付けがきつくなった。
退部届は机の引き出しにしまった。
あとはコレを夏休み明けに提出して、全てお終い。
その後、夕飯を食べ自室に戻る。
DAWを起動する気にもなれず、動画サイトを徘徊していた。けどイマイチ面白くない。
どんな動画もリコルリエの予選動画に劣るように思えてしまう。
マリが『世界最高の動画』と言ったあの動画。
ここ一週間、見ていなかった。見るのが怖くなってしまった。
撮影が終わった日から穴が開くほど見ていた。
夜寝る前には絶対見ていた。あの動画を見ると凄くいい気分で寝られるから。
寝る前二時間はモニターを見るな! なんてテレビで言ってたような気もするけど、そう言ったお医者さん? はあの動画の効力を知らない。
当社比で滋養強壮肩こり腰痛精神高揚に効果がある。
寝る前に高揚するのはどうかと思うけど、「リポビタンD飲んでブラックブラックガム噛んでスーッとして寝る」とかいう人もいるみたいだし、多分大丈夫。
とにかくあの動画からは凄い力が貰える。ノーベル賞とか貰えるかもしれない。
……久々に、見てみようかな……
ヘタレな卑怯者は結構傷ついてる自覚があった。
自分で自分を傷つけるようなことを言って、特になることはなかった。
ただ親友を悲しませただけ。
慰めて欲しいけど、曲に対する価値観の違う皆から慰められても癒されない。
でもあの動画なら、皆で作った世界なら、違う気がした。
お気に入りに登録してある動画サイトに遷移する。
怖いけど、一週間ぶりに皆で撮った予選動画を再生した。
『世界最高の動画』とはよくいった物。ホント、世界最高の動画だなぁ、コレ。
マリの優しくて透明感がある伸びやかな歌声。ずっと聞いていたい綺麗な歌声。
チハルのギターは煌びやかに曲を彩る。ギターの楽しさが音に込められている。
シオリのベースは堅実。派手さはないけど丁寧に熱を与えてくれる。
サナエさんのドラムでそれらが完全に調和する。普段の様子からは信じられない。
これ以上の動画なんてある訳がない。完全にお友達補正が入ってて苦笑する。
これまでのことを一気に思い出す。
四月に出会って、一生懸命練習して、バカみたいな話を沢山した。
六月に予選登録した翌日にはチハルとシオリがジュースを奢ってくれて、プチ打ち上げをしたっけ。
その時にこの動画のシオリと私が集中力ギリギリでちょっとヤケクソ入ってることをいじられた。
動画だと案外分からなくて面白かったんだよね。
この動画には、今までの全ての「楽しい」が詰め込まれていた。
『ずっと楽しかったじゃん!!』
部室でマリに怒鳴りつけられた言葉。
そうだね、ずっと楽しかった。
ここが私の人生の一番だと思えるほどに。
みんなホントに楽しそう。楽しかったな。こんなに笑ってたのにな。
私が泣かせちゃうなんてね。
モニターの中の笑顔満開で歌うマリに触れる。
涙がつうっと頬を伝った。
泣いてることを自覚すると、涙は止められなくなってしまった。
小学校六年生のクリスマスの時、貯めたお年玉とお誕生日とクリスマスの合わせ技で、かなりいいDAWを買って貰った。
それから約三年半、ほぼ毎日デスクトップ上の押しやすい場所に配置したDAWのショートカットをダブルクリックしていた。
そんな訳で自室でのDAWの起動はもう習慣化されていた。
いや待て、私は何をしている。
DAWを起動するということは作曲をするということ。
五月にいくつかメロディを捕まえておいたことと、皆を大好きになったことで作曲は六月中にサクサク進んでいた。
無意識にその作業の続きをする気だった。
危ない危ない、辞める人間がリコルリエの曲を作ってどうすんの。
パソコンを落としてベットに倒れ込む。
……いや別にいいのか。もともとの趣味だし。
一人なら誰も傷つけないんだから。
思い直してまたパソコンを立ち上げ、DAWを起動した。
それから五日後。部活サボりは板についてきた気がする。夕方、自室でDAWを起動していた。
皆はあれから来なくなった。メッセージも来なくなった。
先生が言ってくれたのかもしれない。正直ありがたい。
マリにはまだ謝れていなかった。まだ謝った先の想像が出来ないから。
クラスが別で助かった。始業式の日こそマリは別のクラスになったことを絶望していたけど。
本当は皆にも謝りたい。でもチハルのリアクションがあまりにも予想通りだった。
チハルが「ユカリさんのせいじゃないですよ!」と言って、シオリもそれを否定しない。
サナエさんは読めないけど、あの調子だと謝ったら怒られそうな気がした。
それで「曲のせいだ」とか「ダメだって分かってたことに巻き込んでしまった」とか言っても絶対分かってもらえない。
それで謝っても意味が無い。シオリも同じ気持ちなのだろうか。
ダメだ、集中が切れてしまった。DAWを落とし、椅子に座ったまま伸びをする。
退部届……書こうかな……
夏休み明けまで考えろ、と言われたけど、どうも気持ちがグラついていた。
喉の奥が締め付けられる感覚も引かない。書けばスッキリするかもしれない。
指定はないと言われたし、机の引き出しから適当に紙を見繕ってボールペンの先を近づける。
……ペン先が紙に乗らなかった。
磁石が反発するように、近づけられない。
なんで?
決まっている。辞めたくないからだ。
コレを提出してしまったら、退部を確定付ける。
マリと喧嘩してしまった時、「辞める」と言えなかったのは、マリが泣きそうになったからじゃない。
私が辞めたくなかっただけ。
顔が熱くなる。ペンをぎゅうっと握っていた。
なんなんだ私は。親友を言い訳にしていただけだったのか。
ヘタレで卑怯者、こんな奴いない方がいいに決まってる。
そう思うと急に退部届を書くことが出来た。
でも傷は深まったような気がする。喉の奥の締め付けがきつくなった。
退部届は机の引き出しにしまった。
あとはコレを夏休み明けに提出して、全てお終い。
その後、夕飯を食べ自室に戻る。
DAWを起動する気にもなれず、動画サイトを徘徊していた。けどイマイチ面白くない。
どんな動画もリコルリエの予選動画に劣るように思えてしまう。
マリが『世界最高の動画』と言ったあの動画。
ここ一週間、見ていなかった。見るのが怖くなってしまった。
撮影が終わった日から穴が開くほど見ていた。
夜寝る前には絶対見ていた。あの動画を見ると凄くいい気分で寝られるから。
寝る前二時間はモニターを見るな! なんてテレビで言ってたような気もするけど、そう言ったお医者さん? はあの動画の効力を知らない。
当社比で滋養強壮肩こり腰痛精神高揚に効果がある。
寝る前に高揚するのはどうかと思うけど、「リポビタンD飲んでブラックブラックガム噛んでスーッとして寝る」とかいう人もいるみたいだし、多分大丈夫。
とにかくあの動画からは凄い力が貰える。ノーベル賞とか貰えるかもしれない。
……久々に、見てみようかな……
ヘタレな卑怯者は結構傷ついてる自覚があった。
自分で自分を傷つけるようなことを言って、特になることはなかった。
ただ親友を悲しませただけ。
慰めて欲しいけど、曲に対する価値観の違う皆から慰められても癒されない。
でもあの動画なら、皆で作った世界なら、違う気がした。
お気に入りに登録してある動画サイトに遷移する。
怖いけど、一週間ぶりに皆で撮った予選動画を再生した。
『世界最高の動画』とはよくいった物。ホント、世界最高の動画だなぁ、コレ。
マリの優しくて透明感がある伸びやかな歌声。ずっと聞いていたい綺麗な歌声。
チハルのギターは煌びやかに曲を彩る。ギターの楽しさが音に込められている。
シオリのベースは堅実。派手さはないけど丁寧に熱を与えてくれる。
サナエさんのドラムでそれらが完全に調和する。普段の様子からは信じられない。
これ以上の動画なんてある訳がない。完全にお友達補正が入ってて苦笑する。
これまでのことを一気に思い出す。
四月に出会って、一生懸命練習して、バカみたいな話を沢山した。
六月に予選登録した翌日にはチハルとシオリがジュースを奢ってくれて、プチ打ち上げをしたっけ。
その時にこの動画のシオリと私が集中力ギリギリでちょっとヤケクソ入ってることをいじられた。
動画だと案外分からなくて面白かったんだよね。
この動画には、今までの全ての「楽しい」が詰め込まれていた。
『ずっと楽しかったじゃん!!』
部室でマリに怒鳴りつけられた言葉。
そうだね、ずっと楽しかった。
ここが私の人生の一番だと思えるほどに。
みんなホントに楽しそう。楽しかったな。こんなに笑ってたのにな。
私が泣かせちゃうなんてね。
モニターの中の笑顔満開で歌うマリに触れる。
涙がつうっと頬を伝った。
泣いてることを自覚すると、涙は止められなくなってしまった。
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