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ガルテナ視聴
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七月末、夏休みに入ったけど部室での練習は続いていた。
目標は明確。来年のガルテナ本選出場。
チハルが提案した九月からの毎月の動画投稿の準備も進めていた。
既に作ってあった十三曲の中から選曲は済ませ、九月投稿分の曲の練習に励んでいる。
さすがに暑いけど、とても充実していた。
そんな中、練習を終えて着替えている時にチハルが言った。
「明日はガルテナの本選! ということで、皆で本選を見よう!」
「えぇー?」
「え? 嫌?」
「ヤダろ」
サナエは嫌がっていた。
分かる気がする。自分達が負けた大会なので複雑だ。
「でも来年の参考になるかもよ?」
マリも見たい様子。チハルが更に後押しする。
「それに他のバンドを見るのも楽しいよ!」
「そんなもん?」
「そうだよ!」
「じゃあ見るか」
「サナエはすこぶる軽いな……」
二人に説得されたサナエはあっさり意見を裏返したのでツッコんでしまった。
「じゃあ決定! また明日部室で!」
チハルは嬉しそうだった。
マリと二人の帰路、歩いているだけで汗がにじむけど、不快では無かった。
話題は明日のガルテナ視聴だった。
「明日楽しみだね!」
「うーん……」
「あれ?そうでもない?」
「ちょっとビビって来た」
もともとあまり乗り気では無かったし、もしどうしようも無い差を見せつけられたらどうしよう、というヘタレが芽を出していた。
「まーたそうやってネガる」
「ネガるて」
「シオリちゃんも『二ヵ月で十七位は超凄い』って言ってたじゃん」
「いやそうは言ってない」
「同じような意味でしょ。ポジって!」
「なにそれ。でもまぁ、見習ってポジることにしますか」
「うん」
マリはニコニコして励ましてくれた。見習って、前向きに考えよう。
そして翌日、八月一日の十五時少し前、部室のコタツのノートパソコンを皆で見られるように横一列に座る。
雑談してネット放送の開始を待った。
十五時になり、予定通りにガルテナがネット放送される。
会場が映し出され、広いコンサートホールにお客さんがいっぱいに入っていた。
マリが驚いていた。
「わー、結構大きい会場でやるんだねー」
「年々大きくなってるよ」
「歴史長いの?」
「今年で九年目」
「へー、そんなに長くやってるんだ」
チハルが早速ガルテナオタクの知識を披露して若干のドヤ顔になっていた。
「お、さっそく始まるね」
「うん」
司会者が壇上に上がり、なにやら喋っていた。
それが退屈な様子のサナエがチハルに問いかける。
「なんだっけ? アマチュアガールズバンド日本一を決める大会だよな? アマチュアってどういう定義なんだ?」
「それ結構ファンの間でも争いになってるんだけど、メジャーデビューしていないことがガルテナのアマチュア定義になってる」
「じゃあインディーズ? よく分からんけどそういう感じの連中も出てんの?」
「出てるよ。そもそもガルテナはそういうインディーズで爆発寸前のバンドをメジャーデビューさせることを目的としてできた大会でね、メジャーデビューへの登竜門とも呼ばれてたんだよ。実際ガルテナに出場したバンドで今メジャーデビューしてるバンドもあるし、今ガルテナ三年連続出場してる前回優勝の――」
「いや、もういいよ豆知識は。ほら始まるぞ」
モニターを顎で指したサナエはチハルの話を途中で遮った。もう興味を失ったようだった。
チハルはまだ話したかったようで「あれー?」 と言うような表情をしてモニターに視線を向けた。
一組目が出てくる。私達の一つ上の二人組のバンド。予選の下位から順にパフォーマンスをすることが察せられた。
二人は緊張が見て取れてこちらまで緊張してくる。
演奏はそこまで緊張を感じさせなかったけど、客観的に見ても私達が負けているようには思えなかった。
その後もガルテナは続いたけど、やっぱりそこまで負けているとは思えない。
でも、上位四バンドから明らかに違った。
予選動画でも明らかにずば抜けていて、再生数も文字通り桁違いだった。
そして最後から二番目、予選二位のバンドが出てくる。
チハルは興奮していた。
「あ! 見て見て! クリスタルが出てきた!」
「知らねーよ。有名人なのか?」
無表情で返したサナエにチハルは目をひん剥いて驚いていた。
「えっ!? ガルテナ四天王のクリスタル知らないの!?」
「知らねーよ。何を『ご存じ』みたいに言ってんだよ」
「去年の優勝バンドだね」
私は知っていたので補足すると、チハルがドヤ顔になってクリスタルの説明をした。
「そう! スリーピースのバンドサウンドを奏でるロックは聞く者を一瞬で虜にさせる破壊力を持つよ! ボーカルも歌詞もその破壊力の一員なんだけど、やっぱり演奏が凄い! リズム隊が生み出すうねるようなグルーヴはスピーカー越しにでも圧巻の迫力で、聞いてて上がること間違いなし! 特にベースのアミさんは凄いよ! 指でもピックでもスラップでも弾いちゃうし超美人! スタイルも良くてもうホント憧れちゃう! CDだってインディーズながら売り上げが好調らしくて初期のCDにはプレミアも――」
「だからいいって豆知識は」
「だね。百聞は一見に如かずだよ」
また途中で遮ったサナエにマリが乗った。
チハルはまた「あれー?」 と言うような表情をしたが、クリスタルの演奏が始まるとモニターを食い入るように見つめた。
クリスタルのパフォーマンスはまさに圧巻だった。
もうプロじゃん、コレ。出場資格あるの? ズルくない?
とは思ったけど、不思議と落ち着いていた。手の届かない距離ではないように感じたから。
クリスタルのパフォーマンスが終わると、マリが口を開いた。
「なるほどー、思ったよりやりますなー」
「なんで上から目線なの……」
ハッキリ言って、今の段階では負けていると思う。
「コイツらに勝てれば優勝も狙えるんだろ? なら標的にしよう。感想言おうぜ。まず衣装は勝ってる」
「曲は分からない」
「あ、おいコラここは景気付けに強く行くところだろ」
正直に言ったらまたチョークスリーパーをかけられた。苦しい。
締め付けてくる右腕にタップを連打する。
「ぐぇぇぇ! やめてやめて!」
「やめなさい」
シオリがそう言ってサナエの袖を引っ張り助けてくれた。
「衣装が勝ってるって景気付けなの?」
「んな訳ねーだろ。ユカリがヘタレだからヘタレなりの気概を教えてやったんだよ」
チハルが挑発すると、サナエはニヤリとした。
それを見てマリはニコリとした。
「曲も勝ってるよ。私はユカの曲の方が好き」
「私もそうだな。クリスタルのCD持ってるけどユカリのCDが出ても買うよ」
「私も」
皆褒めてくれたけど、私には分からなかった。正直に言っておく。
「ありがと。でも私には分からない。負けてないって思いたいけど」
「まぁヘタレにしては言った方か。許してやろう」
サナエもこの回答で満足してくれたようだった。
チハルは神妙な面持ちに変わった。
「演奏は負けてるね」
「やっぱり?」
私もそう思っていた。
「うん、自信と経験が段違い。リズム感から出るグルーヴが致命的なほど違う」
「急に専門家みたいになった!」
「えへへー」
「褒められてないと思うよ」
マリの言葉に頭を掻いて照れたチハルにツッコんでおいた。でもチハルの言う通りだと思う。
マリがチハルに問いかける。
「グルーヴってなに?」
「ノリみたいないい感じの感じ」
「ならそう言えばいいのに。よく分からないけど」
「でもそっかー、リズムトレーニングもっとやるべきなのかな」
チハルが練習についてなにやら思案しているとシオリが言った。
「望むところ」
「練習三倍でも?」
「もちろん」
「えっ」
思わず声が出てしまう。さすがにそれは……
チハルに顔を覗き込まれる。
「一人ビビってるけど」
「三倍は流石に死んじゃうよ……」
三倍は恐怖しかない。しかもチハルはやりそうな雰囲気を持っている。
「まぁつまり一勝一敗一分けって感じか。十分勝てるな」
サナエは衣装、曲、演奏で判定して満足そうだった。
「結構いい分析なのかも」
「いや微妙でしょ。大事なところで勝てなきゃ意味が無い」
マリは嬉しそうだったけど、分析としては微妙。
バンドなら衣装で勝ってもそこまで意味が無いと思う。そうは言わないけど。
「大事なところって曲?」
「分からない。でも勝てる曲作れるように頑張るから」
「うん! ユカなら絶対大丈夫!」
「うん」
「って言うか今の曲でも勝ってるけどね」
「言い過ぎだって」
途中マリが腕を絡ませてきた。それを見たサナエにツッコまれる。
「めちゃめちゃイチャコラしますやんこの夫婦」
「いやぁ」
「夫婦じゃない。離れて」
マリは頭を掻いて照れていたが離れてもらった。
そして大会は進み、上位三バンドが表彰され、最後の優勝者発表中。
『優勝は……』
司会者が言うと、大仰なドラムロールが鳴り響き、溜めに入った。
長い。と思ったら司会者が言った。
『クリスタル!!』
すると、ステージ袖からクリスタルのメンバーが歩いてきてステージの中央に並んだ。
バンドのリーダーであろうベーシストさんが小さめのトロフィーを受け取る。
瞬間、金色の紙テープや紙吹雪がどこからか発射され、画面がキラキラした。
マリがつぶやく。
「クリスタルかぁ。他のバンドも良かったけどなぁ」
「私は納得かな」
「あ、泣いちゃってる」
ベーシストさんがインタビューをされている横で、他のメンバーは抱き合って泣いていた。
その様子を見ながらチハルが小さい声を絞り出した。
「そりゃ泣いちゃうよ。去年の優勝者だもん、二連覇がかかって……プレッシャーもあって……」
「うわ! お前泣いてんのか!」
サナエがチハルを見て驚く。チハルは静かに泣いていた。
「これで泣かないなんて涙腺つまってるんじゃないの」
「なんだとテメ」
軽くサナエを挑発した後、涙を拭わずニコリとしたチハルが言う。
「来年は私達がここで泣こうね」
「泣かなければいけないの?」
「いやそういう決まりは無いけど」
「ならよかった」
シオリはまるで「自分は絶対に泣かない」と言った風だ。
でも気付いていた。以前こそ泣くようなキャラではないと思ってたけど、実際はそうじゃない。
無口で無表情だけど凄く涙もろい。マリと仲直りした時に号泣していたことで確信した。
「シオリは泣くと思う」
「だね」
「この前ピーピー泣いてたしな」
「絶対泣くね」
皆同じように思っていて笑った。
シオリは不服そうに眼を細めて言った。
「なんでよ。他人の前で泣いたりしないよ」
「本選行って確認しないとね」
「うん」
マリが頷くと、モニターから少し大きな声が流れた。
『ここでガルテナから重大なお知らせがあります!』
「お! 重大なお知らせだって!」
マリが嬉しそうにモニターに視線を向ける。
チハルに問いかけてみる。
「これっていつものヤツだったりするの?」
「いや、初めてのパターン。今まで一度も無いよ」
「全部見てるの?」
「まぁ。DVDとかブルーレイも持ってるよ」
「生粋だね」
想像以上のオタク振りに驚いてしまった。
『今回ガルテナの参加者は百組を超えました! 皆さん沢山の参加と応援ありがとうございまーす!!』
「ちっ! さっさと言えよ! 早送りすんぞ!」
「分かる」
「生だから出来ないよ」
「分かってるけど気持ちね」
舌打ちのサナエに共感するとマリにツッコまれた。
でもテレビとかでも引っ張って引っ張ってCMとかに入られるとイラっとする性分なのだ。
『参加規模の拡大を受け、なんと、冬の大会開催が決定しましたー!!』
「えっ……」
チハルは反応したが、一瞬皆言葉を失った。
『詳しくは明日正午から公式ホームページをご確認下さーい! 半年後、またお会いしましょー!!』
「半年後」と言った。出るしかない。チハルに言おうと視線を向ける。
「部長」
「出たい」
食い気味に言われた。チハルは徐々に増す興奮と比例するように声も大きくして続ける。
「出よう! 皆いいよね!?」
「もちろん」
即答した。こんなにありがたい話はない。
「頑張るぞー!!」
「やるしかねーだろ!」
マリとサナエもやる気満々。シオリも強く何度も頷いている。
皆の目には闘志の炎が燃えていた。
「リベンジが半年も早まるなんて!」
「うん、ラッキーだね」
マリと目を合わせて笑うと、サナエもニシシっと笑った。
「お前らホント言うようになったな。それ私のセリフだろ」
「ねぇねぇ予選突破なんかより優勝を目指そうよ!」
「それいいね」
「だね! 十七位なんだから狙えない位置じゃない!」
マリの提案にシオリとチハルが乗った。勿論サナエも私も異論は無い。
チハルが立ち上がり、皆の顔を見回し、続けて言った。
「じゃあ目標を冬に! 優勝に変更! リコルリエ! 行くぞー!!」
「「「「おぉー!!」」」」
右の拳を突き上げたチハルに合わせて、皆で突き上げた。
私達、リコルリエは冬のガルテナ優勝を目指すことになった。
目標は明確。来年のガルテナ本選出場。
チハルが提案した九月からの毎月の動画投稿の準備も進めていた。
既に作ってあった十三曲の中から選曲は済ませ、九月投稿分の曲の練習に励んでいる。
さすがに暑いけど、とても充実していた。
そんな中、練習を終えて着替えている時にチハルが言った。
「明日はガルテナの本選! ということで、皆で本選を見よう!」
「えぇー?」
「え? 嫌?」
「ヤダろ」
サナエは嫌がっていた。
分かる気がする。自分達が負けた大会なので複雑だ。
「でも来年の参考になるかもよ?」
マリも見たい様子。チハルが更に後押しする。
「それに他のバンドを見るのも楽しいよ!」
「そんなもん?」
「そうだよ!」
「じゃあ見るか」
「サナエはすこぶる軽いな……」
二人に説得されたサナエはあっさり意見を裏返したのでツッコんでしまった。
「じゃあ決定! また明日部室で!」
チハルは嬉しそうだった。
マリと二人の帰路、歩いているだけで汗がにじむけど、不快では無かった。
話題は明日のガルテナ視聴だった。
「明日楽しみだね!」
「うーん……」
「あれ?そうでもない?」
「ちょっとビビって来た」
もともとあまり乗り気では無かったし、もしどうしようも無い差を見せつけられたらどうしよう、というヘタレが芽を出していた。
「まーたそうやってネガる」
「ネガるて」
「シオリちゃんも『二ヵ月で十七位は超凄い』って言ってたじゃん」
「いやそうは言ってない」
「同じような意味でしょ。ポジって!」
「なにそれ。でもまぁ、見習ってポジることにしますか」
「うん」
マリはニコニコして励ましてくれた。見習って、前向きに考えよう。
そして翌日、八月一日の十五時少し前、部室のコタツのノートパソコンを皆で見られるように横一列に座る。
雑談してネット放送の開始を待った。
十五時になり、予定通りにガルテナがネット放送される。
会場が映し出され、広いコンサートホールにお客さんがいっぱいに入っていた。
マリが驚いていた。
「わー、結構大きい会場でやるんだねー」
「年々大きくなってるよ」
「歴史長いの?」
「今年で九年目」
「へー、そんなに長くやってるんだ」
チハルが早速ガルテナオタクの知識を披露して若干のドヤ顔になっていた。
「お、さっそく始まるね」
「うん」
司会者が壇上に上がり、なにやら喋っていた。
それが退屈な様子のサナエがチハルに問いかける。
「なんだっけ? アマチュアガールズバンド日本一を決める大会だよな? アマチュアってどういう定義なんだ?」
「それ結構ファンの間でも争いになってるんだけど、メジャーデビューしていないことがガルテナのアマチュア定義になってる」
「じゃあインディーズ? よく分からんけどそういう感じの連中も出てんの?」
「出てるよ。そもそもガルテナはそういうインディーズで爆発寸前のバンドをメジャーデビューさせることを目的としてできた大会でね、メジャーデビューへの登竜門とも呼ばれてたんだよ。実際ガルテナに出場したバンドで今メジャーデビューしてるバンドもあるし、今ガルテナ三年連続出場してる前回優勝の――」
「いや、もういいよ豆知識は。ほら始まるぞ」
モニターを顎で指したサナエはチハルの話を途中で遮った。もう興味を失ったようだった。
チハルはまだ話したかったようで「あれー?」 と言うような表情をしてモニターに視線を向けた。
一組目が出てくる。私達の一つ上の二人組のバンド。予選の下位から順にパフォーマンスをすることが察せられた。
二人は緊張が見て取れてこちらまで緊張してくる。
演奏はそこまで緊張を感じさせなかったけど、客観的に見ても私達が負けているようには思えなかった。
その後もガルテナは続いたけど、やっぱりそこまで負けているとは思えない。
でも、上位四バンドから明らかに違った。
予選動画でも明らかにずば抜けていて、再生数も文字通り桁違いだった。
そして最後から二番目、予選二位のバンドが出てくる。
チハルは興奮していた。
「あ! 見て見て! クリスタルが出てきた!」
「知らねーよ。有名人なのか?」
無表情で返したサナエにチハルは目をひん剥いて驚いていた。
「えっ!? ガルテナ四天王のクリスタル知らないの!?」
「知らねーよ。何を『ご存じ』みたいに言ってんだよ」
「去年の優勝バンドだね」
私は知っていたので補足すると、チハルがドヤ顔になってクリスタルの説明をした。
「そう! スリーピースのバンドサウンドを奏でるロックは聞く者を一瞬で虜にさせる破壊力を持つよ! ボーカルも歌詞もその破壊力の一員なんだけど、やっぱり演奏が凄い! リズム隊が生み出すうねるようなグルーヴはスピーカー越しにでも圧巻の迫力で、聞いてて上がること間違いなし! 特にベースのアミさんは凄いよ! 指でもピックでもスラップでも弾いちゃうし超美人! スタイルも良くてもうホント憧れちゃう! CDだってインディーズながら売り上げが好調らしくて初期のCDにはプレミアも――」
「だからいいって豆知識は」
「だね。百聞は一見に如かずだよ」
また途中で遮ったサナエにマリが乗った。
チハルはまた「あれー?」 と言うような表情をしたが、クリスタルの演奏が始まるとモニターを食い入るように見つめた。
クリスタルのパフォーマンスはまさに圧巻だった。
もうプロじゃん、コレ。出場資格あるの? ズルくない?
とは思ったけど、不思議と落ち着いていた。手の届かない距離ではないように感じたから。
クリスタルのパフォーマンスが終わると、マリが口を開いた。
「なるほどー、思ったよりやりますなー」
「なんで上から目線なの……」
ハッキリ言って、今の段階では負けていると思う。
「コイツらに勝てれば優勝も狙えるんだろ? なら標的にしよう。感想言おうぜ。まず衣装は勝ってる」
「曲は分からない」
「あ、おいコラここは景気付けに強く行くところだろ」
正直に言ったらまたチョークスリーパーをかけられた。苦しい。
締め付けてくる右腕にタップを連打する。
「ぐぇぇぇ! やめてやめて!」
「やめなさい」
シオリがそう言ってサナエの袖を引っ張り助けてくれた。
「衣装が勝ってるって景気付けなの?」
「んな訳ねーだろ。ユカリがヘタレだからヘタレなりの気概を教えてやったんだよ」
チハルが挑発すると、サナエはニヤリとした。
それを見てマリはニコリとした。
「曲も勝ってるよ。私はユカの曲の方が好き」
「私もそうだな。クリスタルのCD持ってるけどユカリのCDが出ても買うよ」
「私も」
皆褒めてくれたけど、私には分からなかった。正直に言っておく。
「ありがと。でも私には分からない。負けてないって思いたいけど」
「まぁヘタレにしては言った方か。許してやろう」
サナエもこの回答で満足してくれたようだった。
チハルは神妙な面持ちに変わった。
「演奏は負けてるね」
「やっぱり?」
私もそう思っていた。
「うん、自信と経験が段違い。リズム感から出るグルーヴが致命的なほど違う」
「急に専門家みたいになった!」
「えへへー」
「褒められてないと思うよ」
マリの言葉に頭を掻いて照れたチハルにツッコんでおいた。でもチハルの言う通りだと思う。
マリがチハルに問いかける。
「グルーヴってなに?」
「ノリみたいないい感じの感じ」
「ならそう言えばいいのに。よく分からないけど」
「でもそっかー、リズムトレーニングもっとやるべきなのかな」
チハルが練習についてなにやら思案しているとシオリが言った。
「望むところ」
「練習三倍でも?」
「もちろん」
「えっ」
思わず声が出てしまう。さすがにそれは……
チハルに顔を覗き込まれる。
「一人ビビってるけど」
「三倍は流石に死んじゃうよ……」
三倍は恐怖しかない。しかもチハルはやりそうな雰囲気を持っている。
「まぁつまり一勝一敗一分けって感じか。十分勝てるな」
サナエは衣装、曲、演奏で判定して満足そうだった。
「結構いい分析なのかも」
「いや微妙でしょ。大事なところで勝てなきゃ意味が無い」
マリは嬉しそうだったけど、分析としては微妙。
バンドなら衣装で勝ってもそこまで意味が無いと思う。そうは言わないけど。
「大事なところって曲?」
「分からない。でも勝てる曲作れるように頑張るから」
「うん! ユカなら絶対大丈夫!」
「うん」
「って言うか今の曲でも勝ってるけどね」
「言い過ぎだって」
途中マリが腕を絡ませてきた。それを見たサナエにツッコまれる。
「めちゃめちゃイチャコラしますやんこの夫婦」
「いやぁ」
「夫婦じゃない。離れて」
マリは頭を掻いて照れていたが離れてもらった。
そして大会は進み、上位三バンドが表彰され、最後の優勝者発表中。
『優勝は……』
司会者が言うと、大仰なドラムロールが鳴り響き、溜めに入った。
長い。と思ったら司会者が言った。
『クリスタル!!』
すると、ステージ袖からクリスタルのメンバーが歩いてきてステージの中央に並んだ。
バンドのリーダーであろうベーシストさんが小さめのトロフィーを受け取る。
瞬間、金色の紙テープや紙吹雪がどこからか発射され、画面がキラキラした。
マリがつぶやく。
「クリスタルかぁ。他のバンドも良かったけどなぁ」
「私は納得かな」
「あ、泣いちゃってる」
ベーシストさんがインタビューをされている横で、他のメンバーは抱き合って泣いていた。
その様子を見ながらチハルが小さい声を絞り出した。
「そりゃ泣いちゃうよ。去年の優勝者だもん、二連覇がかかって……プレッシャーもあって……」
「うわ! お前泣いてんのか!」
サナエがチハルを見て驚く。チハルは静かに泣いていた。
「これで泣かないなんて涙腺つまってるんじゃないの」
「なんだとテメ」
軽くサナエを挑発した後、涙を拭わずニコリとしたチハルが言う。
「来年は私達がここで泣こうね」
「泣かなければいけないの?」
「いやそういう決まりは無いけど」
「ならよかった」
シオリはまるで「自分は絶対に泣かない」と言った風だ。
でも気付いていた。以前こそ泣くようなキャラではないと思ってたけど、実際はそうじゃない。
無口で無表情だけど凄く涙もろい。マリと仲直りした時に号泣していたことで確信した。
「シオリは泣くと思う」
「だね」
「この前ピーピー泣いてたしな」
「絶対泣くね」
皆同じように思っていて笑った。
シオリは不服そうに眼を細めて言った。
「なんでよ。他人の前で泣いたりしないよ」
「本選行って確認しないとね」
「うん」
マリが頷くと、モニターから少し大きな声が流れた。
『ここでガルテナから重大なお知らせがあります!』
「お! 重大なお知らせだって!」
マリが嬉しそうにモニターに視線を向ける。
チハルに問いかけてみる。
「これっていつものヤツだったりするの?」
「いや、初めてのパターン。今まで一度も無いよ」
「全部見てるの?」
「まぁ。DVDとかブルーレイも持ってるよ」
「生粋だね」
想像以上のオタク振りに驚いてしまった。
『今回ガルテナの参加者は百組を超えました! 皆さん沢山の参加と応援ありがとうございまーす!!』
「ちっ! さっさと言えよ! 早送りすんぞ!」
「分かる」
「生だから出来ないよ」
「分かってるけど気持ちね」
舌打ちのサナエに共感するとマリにツッコまれた。
でもテレビとかでも引っ張って引っ張ってCMとかに入られるとイラっとする性分なのだ。
『参加規模の拡大を受け、なんと、冬の大会開催が決定しましたー!!』
「えっ……」
チハルは反応したが、一瞬皆言葉を失った。
『詳しくは明日正午から公式ホームページをご確認下さーい! 半年後、またお会いしましょー!!』
「半年後」と言った。出るしかない。チハルに言おうと視線を向ける。
「部長」
「出たい」
食い気味に言われた。チハルは徐々に増す興奮と比例するように声も大きくして続ける。
「出よう! 皆いいよね!?」
「もちろん」
即答した。こんなにありがたい話はない。
「頑張るぞー!!」
「やるしかねーだろ!」
マリとサナエもやる気満々。シオリも強く何度も頷いている。
皆の目には闘志の炎が燃えていた。
「リベンジが半年も早まるなんて!」
「うん、ラッキーだね」
マリと目を合わせて笑うと、サナエもニシシっと笑った。
「お前らホント言うようになったな。それ私のセリフだろ」
「ねぇねぇ予選突破なんかより優勝を目指そうよ!」
「それいいね」
「だね! 十七位なんだから狙えない位置じゃない!」
マリの提案にシオリとチハルが乗った。勿論サナエも私も異論は無い。
チハルが立ち上がり、皆の顔を見回し、続けて言った。
「じゃあ目標を冬に! 優勝に変更! リコルリエ! 行くぞー!!」
「「「「おぉー!!」」」」
右の拳を突き上げたチハルに合わせて、皆で突き上げた。
私達、リコルリエは冬のガルテナ優勝を目指すことになった。
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しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
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