ガルテナ ~私の一番の音楽~

茂庭

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新曲とマリのギター

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 八月下旬、自室で新しい曲が出来た。

 ゆったりとしたテンポの16ビートのポップ。
最初はいつも通りのピアノロックを作っていたけど、七月に皆に励まして貰ってから方針を転換した。
転換というよりも勝手に変わっていってしまった。
皆のことを考えながら作っていると、皆で口ずさめるような優しい曲になった。

 リコルリエのために作った初めての曲。
皆に聞いてもらうのは恥ずかしいし、少し怖い。
でも冬テナに向けてチンタラもしていられないので一刻も早く皆に送るべき。
時間は二十二時を回っていたけど、すぐに送信することにした。

 出来上がったばかりの曲をメッセージに添付する。
一つ深呼吸をして、送信ボタンを押した。

『冬テナの予選用の曲が出来たよ』
『ありがとう。すぐ聞くね』

 すぐに返してくれたのはいつも返信が早いシオリだった。
反応してもらえるとホッとする。
五分後、皆からも返信が来た。

『すっっっごいいい曲!! 明日から練習しよう!』
『うん。本当にいい曲』
『うむ、私にふさわしいと言えるな』

 サナエは相変わらずよく分からない評価基準だ。

『ユカ史上最高の曲だよ!!』

 マリはいつもこう言ってくれるので参考にはならないけど、皆の反応は良くて安心した。




 翌日、部室でのお昼の時も皆が曲を褒めてくれた。
実際に顔を合わせて言われると照れ臭い。
スコアを配り、予選の曲は決定した。




 そして放課後、練習のため部室に集まるとマリが言った。

「あの曲さ、皆で歌ってみない?」
「ヤダ」

 即答するとシオリも強く頷いた。

「なんでよー! ちょっとくらい考えたっていいじゃん!」
「ちょっと恥ずかしいかな」

 チハルも苦笑しながら反対派に加わってくれた。よし、これで無かったことに出来る。
と思ったらサナエがいつも通りのニヤけ顔で裏切った。

「私はいいぞ」
「ホント!?」

 マリがサナエに笑みを向ける。

「っていうかいいのか? 私の美声でボーカルの座、奪い取っちまうけど」
「お! 言うねー。歌上手いの?」
「まぁな! カラオケも好きだし!」
「じゃあ、歌って!」
「よし。ユカリ伴奏しろよ」

 サナエは私に視線を向けながら顎でキーボードを示した。

「えぇ……マジ?」
「マジに決まってんだろ。夏予選の曲、ワンコーラスな」
「凄い度胸だな……」

 そう言いながらもサナエの歌には興味が湧いてしまった。
キーボードとアンプに電源を入れ、鍵盤に指を置き、サナエに視線を向ける。

「いい?」
「はよしろ」

 気遣ったのに急かされてしまった。
前奏から演奏する。

 サナエが歌い出す。

 とても上手い。いつもの様子からは想像出来ないほど瑞々しい大人の女性らしい歌声。
声量、声質、音程どれも申し分なく、怯みも照れも無い。
それどころか楽しんでいるようだった。

 サビまで終えるとサナエがアイコンタクトをしてきたので伴奏を止める。
するとサナエはドヤ顔になった。

「どうだ!」
「うまーい!」
「すごーい!」

 マリとチハルが拍手付きで賞賛する。

 マリ以外に私の曲を歌って貰ったのは初めてだった。
え、ヤバ、こんなん感動するじゃん。歌って貰えるの嬉しいー。
と、私は別の感情で盛り上がっていた。
歌が上手かったのもあるけど、胸がいっぱいになっていた。

「おら作曲者も感想言えよ」
「あっ、うん、凄く上手かった」
「だろー!」

 サナエから褒められることを前提にニヤついて感想を求められたので素直に返した。
感動していることがバレると鬱陶しいことになりそうなので、平静に振舞った。

 サナエが満面の笑みでドヤりながら、チハルに視線を向けた。

「じゃあ次はチハルな」
「え!? 私!?」
「リーダーの歌声聞いたこと無いなんてバンドにあるまじき状態だろ?」
「……分かりました。歌いましょう」

 チハルは意味不明な挑発にアッサリ乗った。チョロい。
でもチハルの歌にも興味があったのでそうは言わないでおいた。
チハルは少し不安げに私に視線を向けた。

「じゃ、ユカリ、お願い」
「うん」

 また前奏から演奏する。

 チハルが歌い出す。

 とても上手い。チハルのギターのように煌びやかに響く少女らしい歌声。
少し照れは入ってはいたが、音程は完璧でギターボーカルが出来るほど声量もあった。

 またサビまで終えてから伴奏を止める。

「うまーい!」
「やるな!」
「ホント、上手いね」

 今度はマリとサナエが拍手付きで賞賛する。
それに遅れないように私も拍手付きで賞賛した。シオリも拍手をしていた。

「いやー! 照れちゃうなぁ!」

 チハルは頭を掻いて嬉しそうに顔をほころばせた。
歌が上手かったのは本当だけど、扱いやすい。

「じゃあ次はシオリちゃんだね」
「だな」

 マリとサナエが言うと全員分の視線がシオリに向く。
シオリは小さく首を横に振った。歌うのが嫌らしい。

 チハルが手を合わせてお願いした。

「お願い! ちょっとだけ!」
「シオリの歌も聞いてみたいな」

 チハルに乗ってみる。皆の歌を聞くのが楽しくなってきていた。
 シオリは小さく溜め息をついて頷いてくれた。

 アイコンタクトをされたのでまた前奏から演奏する。

 シオリが歌い出す。

 とても上手い。照れのせいで少し声量は足りないけど、音程は完璧でとても可愛らしい歌声。
アニメ声とでも言うのだろうか。声や顔は才能だと思うけど、才能に恵まれている声のように感じた。

「かわいいー!」
「だな!」
「しかも上手いね」
「うんうん!」

 皆で拍手付きで賞賛すると、シオリは俯いて頬を赤らめた。うわっ、かわいー。

「じゃあ最後はユカだね」
「なにが?」
「歌うの」

 マリから想定外の攻撃を受けた。これはマズイ。対処を誤れば歌うハメになる。冷静かつ迅速に対処しなければ。

「拒否します」
「なんで?」

 恥ずかしいから、と言うと話がこじれる気がしたので誤魔化す。
四月に私が歌った音源を送っている。それを盾にしよう。

「私が歌った音源送ったじゃん」
「久しぶりに生で聞きたい。最近カラオケ行ってないし」
「じゃあ今度カラオケで」

 早く話を終わらせるべく早口でマリに応戦していると、外野からチハルが微笑みながら攻撃してきた。

「あの、私も聞きたいんだけど」
「私も恥ずかしいけど歌ったよ」

 チハルに乗ってシオリまで攻撃してきた。しかも若干のジト目で。
しまった。恥ずかしくて歌いたくないのがバレていた。そりゃバレるか。
なんにせよ、さっきシオリにお願いした手前、断り辛くなってしまった。
いや、関係無い。私は歌わない。心を決めた。

 するとサナエが手をワキワキさせながらニヤついて近寄って来た。

「まぁお前だけ歌わないなんておかしーよなぁ」
「よなぁ」

 サナエの語尾を真似たマリまで同じような手つきになり、二人でにじり寄ってくる

「え、なに、ちょ、止まって、近寄らないで、いや、いやあああああああ!」

 制止を聞かずに近寄ってくるマリとサナエにめちゃめちゃくすぐられた。

 そして歌わされた。
さっさと歌えばよかった。完全にくすぐられ損だ。

 私が歌い終えるとチハルとサナエが盛り上がった。

「うまーい!! これ皆ボーカルいけるね!」
「だな!」

 シオリも頷いていた。
そこでマリがすかさず言った。

「じゃあ新曲は皆で歌おう!!」
「「「ヤダ」」」

 最初から嫌がっていた三人でハモった。恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
部長も多数派に入ったことで、この論議は終わった。
マリは不服そうに頬を膨らませたが、今日の練習に引きずられていった。




 しばらく経って下校時刻が近づくと、マリ、チハル、シオリの三人が部室に戻ってくる。
部室で練習するサナエと私は出迎えることが多い。

「ただいまー!」

マリはニコニコしてご機嫌だった。練習に行った時膨らませていた頬は緩んでいた。

「どうしたの?」
「ふっふっふー。鬼軍曹からギターの演奏に入っていいと許可が出たのだよ!!」
「おぉ!! おめでとー!」
「ありがとー!」

 マリとハイタッチをする。一生懸命練習していたことは知っていたので嬉しい。
サナエもニコニコして喜ぶ。

「鬼軍曹から許可を取るとはやるな!」
「だからその呼び方止めて下さいって」

 チハルだけは苦笑していた。

「よーし、早速鬼軍曹公認のギターを披露しちゃおうかな~」

 マリはニヤけながらギターとアンプをセッティングする。
そしてエレキギターで弾き語りをした。曲は昨日送ったばかりのリコルリエの新曲。
 マリは本当に楽しそうに歌っていた。こっちまで楽しくなってくる。
 皆微笑みながらマリの歌を聴いていた。

 私が音楽を好きな理由、心をいい方向に動かしてくれるから。
楽しいときはより楽しくしてくれる。悲しいときは慰めてくれる。苦しいときは励ましてくれる。

 今歌っているマリは私よりも音楽を分かっているような気がした。
四月の段階では音楽は勝てると思っていたけど、それも怪しくなってきた。
もちろん悪い気はしない。むしろ嬉しい。
 マリの歌を聴くと、私の心はいい方向に動くから。

 こうしてリコルリエのボーカルは、ギターボーカルへと進化した。
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