ガルテナ ~私の一番の音楽~

茂庭

文字の大きさ
65 / 81

シオリの独白

しおりを挟む
 栞は校舎裏に来ていた。
文化祭中でも人気は無い。校舎裏にしては綺麗だけど、やっぱり校舎裏だった。
壁に背を預けて俯き、これまでの自分を振り返っていた。




 小学校の卒業アルバム、クラスの面白い人ランキング女子の部で一位だったことは私のささやかな自慢だ。
皆の思う私と、本当の私は違う。私はもっと面白い奴のはず。

 皆のお喋りはいつも面白い。
でも「こう言えばもっと面白いのに!」「私ならこう言うのに!」と思うことが沢山ある。
私はただ声に出ないだけ。

 喋ることが苦手になったのは中学入学のあたりから。
私が喋ると大きく盛り下がることが何度か続いた。たったそれだけ? と自分でも思うけど、進級、転校、進学と、環境が大きく変わる度、喋れる相手が減っていく度、それが重くのしかかって段々喋れなくなってしまった。

 特に致命的だったのは中三の春の転校。なぜこんな大事な時期に? と思ったけど、自分ではどうしようもなかった。転校してからは喋ることが余計に苦手になってしまったので、変わり者と思われていたと思う。いじめられていた訳ではないけど、転校先で友達は一人も出来なかった。

 しばらくは「別に必要なことだけ喋ることが出来ればいいじゃないか」と思っていた。でも中三の冬には流石にこのままではいけないと考えるようになった。

 変わりたい。そう思って、高校の入学式の翌日に図書室へ行くというささやかな抵抗をした。少しでも違うことをしようと思ったから。
けど読みたい本があったわけでは無いので無駄に時間が潰れただけだった。

 バカな自分に呆れながら廊下を歩いていると落ちているプリントを見つけた。
落とし物かもしれないと思って名前を確認しようとしたら、それは軽音部勧誘のチラシだった。
部活に入る気なんて全く無かった。喋ることが苦手な私にはストレスにしかならなそうだから。

 ゴミなら捨てなきゃ。
そう思った瞬間、すぐ側の扉が開き、チハルに声をかけられた。

 そして私は軽音部に入った。
ささやかな抵抗が生み出した偶然の出会いが、私を変えてくれることを信じて。

 軽音部の皆は私を邪魔者扱いもしなければ気を遣ったりもしない。
私が喋らなくても勝手に楽しそうで、それがとても助かった。
喋れば喋ったで会話の一部にしてくれる。
私は皆のお陰で少しずつ喋れるようになっていると思っていた。

 でも甘かった。

 文化祭、あんなに大勢の前でいきなり話をするんて想像もしていなかった。
あんなの誰だって緊張する。でもあそこまで喋れなくなってしまうのは異常。体が震えるなんて更に異常。

 このままではいけない。解決しなければいけない。
こんなことで皆に迷惑をかけてはいけない。

 大丈夫、頑張れる。

 私なんかより遥かに重い重圧を跳ね除けた友達を、この目で見たじゃないか。

 決意して部室に戻った。




 部室の扉を開けると、チハルがすぐに駆け寄ってきてくれた。

「シオリ、大丈夫?」
「うん」

 チハルの心配そうな顔はホッとした様子に変わった。
部室に入ると、皆はコタツの指定席から迎えてくれる。

「おかえり」
「丁度、文化祭の打ち上げ行こー! って話してたの」

 ユカリとマリコはいつも通りの調子だった。

「もちろん行くよな?」

 サナエがニヤリとする。これもいつもと変わらない。
とても助かる。変な気を使われる方がつらい。
もしかしたら皆はそれを分かっているのかもしれない。

「うん」

 頷きながら返すとサナエはやたらと張り切って立ち上がった。

「おっしゃどこ行くー!?」
「ハメ外し過ぎないでね」

 ユカリがジロリとサナエに視線を向けて釘を刺した。
確かにサナエは何をするか分からない危うさがある。

 少し頬が緩んだ。
こんなに優しくて明るくしてくれる皆に、報いたい。
さっきした決意を強めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密

まさき
青春
 俺は今、東大院生の実験対象になっている。  ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。  「家庭教師です。住まわせてください」  突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。  桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。  偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。  咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。  距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。  「データじゃなくて、私がそう思っています」  嘘をついているような顔じゃなかった。  偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。  不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。

処理中です...