自殺したガール

駄犬

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「ニ〇〇〇年八月十八日 〇〇県」

 記載された文字を淀みなく読み上げていた俺は、記事の要衝である問題の文を先読みしたことによって、思わず閉口してしまった。

「どうしたの?」

 暗礁に乗り上げた記事の読み上げは、幼馴染みからすれば鼻先にぶら下げられた人参と相違ない。神妙な顔付きで俺の顔を覗き込み、やけに慎重な身持を露呈する。残酷描写を読みあぐねて黙読に移行したかのような突飛な閉口であった為、幼馴染みもまた、深く詮索して後悔する布石をなるべく避けようとしたのだろう。勿論、俺がどうして記事の内容を口に出さなくなったのか。それはひとえに、反人道的な犯行に手を染めた園長もとい小浦仁への気受けに起因した。

 俺は出会った当初から、小浦仁に対して良い印象を抱いていなかった。“臭い”という原初的な理由であるからに、教訓めいた思索の兆候とは相反し、路傍の石ころを蹴るかのような、軽々しく悪態をついて楽しむだけのものだった。だがしかし、記事に書かれた犯罪の内容は、吐き気を催すほど俗悪で、幼心に断固として敵対した俺の生物的本能に驚かされた。

「幼稚園勤務の男が、強制わいせつの疑いで逮捕された。吾妻市徒土町内の民家敷地内で、女子児童にわいせつな行為をしたとされている。男は「間違いありません」と供述、容疑を認めている」

「マジか」

 小浦仁とは異性の関係に位置する幼馴染みは、俺以上に眉間に深い溝を作り、その悪性を呪った。母親が俺の問いをはぐらかし、“捕まった”ことを強調して自戒を促したのも頷けた。右も左も区別が曖昧な子どもの耳に事件の概要を懇切丁寧に説明しようものなら、児童虐待の構図となり、教育上芳しくない。ならば、事件をまっとうに咀嚼できる年齢になるまで待てばいい。そして、昔話の一件として、いずれ話せるようになれば御の字だ。

「……」

 俺は上記の通り、“臭い”に敏感だった。良し悪しをまるで理解していない頃は、それはそれは両親を困らせたはずだ。しかし、自意識が芽生え、善悪の判断がつくようになってからは、空気を読むことが得意になっていった。俺にとって“臭い”とは、凶兆を知らせる前兆であり、茶の間に漂う不和を誰よりも早く勘付き、道化を演じたことも多々あった。週末に華やぐ駅のデパートや、家族連れが多く来店するファミリーレストラン。あらゆる場所で“臭い”を知覚してきたが、そのたびに知らぬ存ぜぬを自身に課し、振り向きかけた首を辛うじて制してきた。普段、学び舎として利用している教室でも同様である。親しい友人関係でなければ、殊更に首を突っ込むような真似は決してしない。部活動という特殊な空間では、藪から棒に折檻を受けることがままある。俺は気配をいち早く察知し、その場を脱する機敏さに同級生からこう評された。

「お前、気配消すの上手いよなぁ」
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