便秘でトイレに篭っていたら、第十四柱として異世界に召喚されました

駄犬

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第四部

屋敷の守護者

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 悪賢く儲けようとしている身体に気怠さが巻き付き、「窃盗」という甘い汁が苦々しく感じた。一番手前の部屋のドアノブに手を掛け、部屋に足を踏み入れる。目敏く室内を見回すが、家宝が物の影に隠れるような死角はなく、この部屋が日常的に使われている形跡が窺えない。それはつまり、公爵ですら屋敷を持て余していることが語るに落ち、篤実な心掛けで部屋を見て回る徒労とも言うべき時間がこれから待っていることを告げた。

「つぎつぎ」

 おれを急かすようにビーマンが背中を押す。「物」盗む為に屋敷へ侵入したはずが、不備がないかを調べる作業員めいた仔細な目の使い方をしている。足運びは徐々に粗野になっていき、踏み潰すように廊下を歩き、屋敷の中央と思しき辺りまでくると、階下に続く階段と鉢合わせた。木目調の階段に合わせて、壁に彫られた模様も自然物を意識したものになっている。細部まで手が行き届く屋敷の作りは、ひとえに位の高い人間が暮らすのに相応しい。一生縁のない光景である。それは数える間もない。ほんの一時の感傷だった。おれ達がこれから向かう廊下の奥から、出し抜けに声を掛けられたのは。

「罪深いよなぁ。公爵の家に勝手に上がり込むなんてさぁ」

 殊更に目を奪われていた訳ではない。五感を鋭く保ちながら、内省をしていたつもりだ。しかし、ローブを着た如何にも魔術師風の坊主頭が、呆れたように頭を掻いて目の前にいることから、おれ達はみごとに見落としたのだ。

「魔術師さんですか?」

 ビーマンは毅然とした態度でおれを差し置き、一歩前へ出る。その背中の翼下に、おれはすかさず隠れて、不穏な雲行きから身を守ろうとした。だが、直下に気付かされる。独り立ちできぬ人間が無謀にも盗みを働こうとする浅ましさに。

「これを見れば当然だろう?」

 魔術師はこれ見よがしにローブを翻し、人を見下す立場にあると鼻に掛けた顔と所作によって語った。

「……そうか。なら」

 階段の踊り場で浮遊していたランプ代わりの布を、ビーマンは魔術師の前に仔細顔をしながら晒す。

「?!」

 ビーマンの意図した通りに魔術師は顎を落とし、おれ達がどれだけ訝しい存在であるかを瞳の揺らぎから捉えた。

「これを見れば分かるよな?」

 売り言葉に買い言葉で返すビーマンは、魔術師の動転具合を滑稽な姿と貶めて、「魔術」が扱える事に胸を張る矮小な矜持へ舌を出す。“魔術師”という肩書きが如何に胡乱であるかを懇切丁寧に体現するおれ達は、衝突し合うことが宿命付けられた関係にあり、迸る怒りの矛先が此方に向いたのも無理からぬ話だ。

「背信者め」

 他人を誹る言葉としてはあまりに脆弱で寄る辺がない。仮に装飾が追いつかず、とっさに吐き出せたのが「背信者め」ならば、取るに足らない。

「はいはい」

 先に口火を切ったのはビーマンであった。一息で魔術師の懐に飛び込むには、瞬間移動めいた力の発露が求められ、いくら魔術といえど夢の中でしか実現できない事象になる。ビーマンと魔術師の間には、目に見える形で警戒心が間合いとなって現れており、ビーマンが走り出すのを見て行動を起こす余裕が介在した。
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