何故に彼等はこうなったか

駄犬

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庭師の仕事

あんないにん

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「……わかった。いくよ」

 友人は手を打って喜び、懐中電灯を手引きする先へ向けた。おそらく、ここから目視できる距離にトンネルはあるはずだが、摩天楼の如き霧が阻んでおり、空気を飲み込む音だけが聞こえてくる。意図せず蹴った石が、水を切ったように遠くまで音が跳ねていった。

「冷えるな」

 粟立つ鳥肌からして、友人がそう口にしたのも当然の気温の低下が見られた。トンネルの口と思しき輪郭を霧越しではあるものの、漠然と見分けられた。私たちはトンネルの先にある目的地に向かって歩き出す。あらゆる環境音を反響させるトンネルの中で、懐中電灯を取り留めもなく振り回す友人の手癖が癪に障った。

「目の前を照らしなよ」

「ほら、顔があるかもしれないだろう?」

 肌を舐める湿気と腐った絵の具をぶち撒けたような臭いから分かる通り、人工物としての死は自然への回帰であった。出口に向かって歩いて進むうち、いつの間にか壁は手彫り特有の凸凹とした岩肌に変わり、雨蛙と遜色ない濡れ具合に懐中電灯を向けると白く光りを返した。

「すごいな」

 文化遺産でも見るかのような目つきは、先程までおどろおどろしいものを見る気構えでいた友人のものとは凡そ思えない。私は汗水ないし血が混じった真心こもる壁に不謹慎ながら崩落のきらいを危惧し、物見高い友人の軽さを一蹴する。

「天井が崩れることを心配したほうがいいんじゃない?」

「嫌なこと言うなぁ」

 頭巾を被る代わりに自分の肩を抱く。やがて、全長五百メートルはあろうかというトンネルを踏破する。

「こっからだぞ」

 言葉が持つ威勢とは裏腹に、疲労感を湛える語気の頼りなさは此処一番で発揮される予感がある。私は懐中電灯を取り上げた。

「私が先歩くから」

「どうぞ」

 その引き下がる早さに衒いはない。仮に自身の実力を鑑みた身の振り方だとしても、苦言の一つや二つ、落としてやりたい気分だが、何も言うべからず。皮肉屋でありながら省エネ思考も極まる友人の性質に、やる気の如何を問う不毛さは折り込み済みである。ひいては、霊樹の放つ匂いを嗅ぎ取る鼻を持つ私が先導しなければ、無駄に歩き回ることになってしまう。

「そっちで合ってるのか?」

 白く濁った景色のなかで、寄せては返す匂いのベールを追った。そのうち、ほかに香るものがなくなるくらい霊樹の匂いに肩まで浸かり、嗅覚を頼りにした歩行は困難になる。私はやむ終えず立ち止まる。だが、殊更に焦る必要はない。ここからは心を入れ替えて、しらみつぶしに泥臭く周囲を歩き回るだけだ。庭師としての指針を見失ったところに、図らずも前方から男の話し声が聞こえてくる。
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