ヒルガエル

駄犬

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嘘と本当

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 俺は彼の脇に腕を通すと、半ば無理やり立ち上がらせた。

「また? 今度も、だろう?」

 担任教師は人の気を引く口吻の使い手のようだ。しかし、思惑通りに足を止めてしまえば、ほくそ笑む顔がぶら下げられるのは想像に難くなく、俺は退店に向かう足を堅固に保つ。

「チリンチリン」

 西日が差し込み、白く眩んだ。直下に撫で付けるように寒風が吹き込み、黒いジャケットに備え付けられた襟を立てる。そうすれば、二輪車を颯爽と乗り回す為の外套へ変化し、風防らしい姿形を手に入れた。

「寒いな」

 俺は独り言のように呟いたが、その実彼の反応を窺っていた。だが、彼はうんともすんとも発さず、慎みやかに俺の背中を追っている。もし仮に、一言でも返して欲しいと振り返ってしまえば、赤っ恥をかく恐れがある。彼は、人の気配や動作について目敏くあるものの、機微に対しては疎い。恐らく、俺が顔を向けたとて、事も無げに疑問符を浮かべ、こう言うはずだ。

「どうしたの?」

 際して、彼に心の有り様を悟ってもらうことは来し方の時点で諦めている。俺は彼との付き合い方を弁えているつもりだった。しかし、これまで見たことも感じたこともない、彼の不自然な態度が背中越しにもありありと伝わってきて、気の置けない関係から一転、ピンと張った糸のような緊張が俺と彼の間を繋ぐ。

「……」

 いつもなら、他愛もない話題で言葉をとりとめもなく交わし、道中の暇つぶしを行なっていた。だがしかし、今は森閑とした雰囲気が横たわり、人気の少ない田舎道を歩いていると、さもしさに心が悴む。俺はふと、

「まさか常盤さんがいるとはねー」

 担任教師の名前だ。

「そうだね」

 思いもよらず、彼の返答があったせいか。妙に浮き足立ち、心にもないことを言ってしまう。

「次も会えたらいいな」

 勿論、担任教師の顔を再び見るような状況を望むことなど、事を好むのと変わらず、全くもって良きことではない。但し、このような心情を彼と共有する気はさらさらなく、一人で抱え込むつもりだった。だがしかし、彼はポツリと発するのである。

「嘘だね」

 舌鋒鋭く指摘されると、背中から刺されたかのようなヒヤリとした感覚が全身を駆け巡り、俺は固まった。彼が人の嘘を見抜く目敏さを有している訳がない。そんな前提があったせいで、俺は会話を蔑ろにしてきた。常に本懐とは少しズレた曖昧な受け答えに終始し、ほんの十秒前の話題すら、記憶の中から削除されていく。こんな関係を長年、維持してきた経験が、砂上の楼閣のように脆く崩れ去る。
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