ヒルガエル

駄犬

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変化

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「嘘な訳ないじゃないか」

 声が幾ばくか大きくなっているのが自分でも分かった。

「人ってね、嘘をつく時、利き腕の肩がほんのちょっとだけ上がるんだよ」

 ベッドの上に寝転がりながら、なんとなしにネットの海に漕ぎ出すと、人に教えたくなるような豆知識が蓄積されていく。出し抜けに役立つ場面が時折訪れるものの、ほとんどは忘失し、彼方へ消えていくものだ。こんな風に俺の経験則を彼に当て嵌めてみれば、「嘘」を見分ける小技もいくらでも転がっているはずだ。

「……」

「マジに取るなよ。嘘だよ」

 背中を陽気に叩かれて、冷や水さながらの冷感が俺の身体を二つに割った。対人関係を得意としない相手から、カマをかけられるとは思わなんだ。疑心暗鬼の体現者として、目尻が厳しく吊り上がり、歩幅も小さく慎重さを帯びる。

「まぁ、アレとはもう顔も合わせたくないよ」

 ひいては、彼に気を遣われてしまう始末の悪さは、俺からすれば屈辱的に感じ、軽々に言葉を返す気にはなれなかった。

「あの人の耳に届くほど警戒されているとは思わなかった」

 彼の言う通り、俺達はこれからもっと気を引き締めて情報の売り買いに臨まなければならない。軽佻浮薄に一挙手一投足を演じ、その小賢しさを看破された日には、身体がいくつあっても足りない。担任教師とカジノで鉢合わせる寓合さは勿論、カジノでの立ち回りが周囲に認知されつつあることを知れたのは、一番の収穫なのかもしれない。

「今までだって緊張感がなかった訳じゃなかったけど、こう目の敵にされていると、より一層他人の目が気になるな」

 彼はそう言って、自身が身に付けている服を見やった。

「また買うのか?」

「違うさ……只、もっと地味な服を選ぶべきなのかなって」

 彼は既に、「地味」を体現している。はっきり言って、杞憂だと断言してもいい。それでも、そのことを口に出した途端、先刻のようなバツの悪さを覚えるのではないか? 一抹の不安がよぎり、口喧しく話し出すような一長広舌とは手を切った。以前なら、なし崩しの会話を楽しむ程度に気心が知れた間柄にあると自負し、身にならない話題にも頷くだけの余裕があった。だが今は、踏み込む足の置き場を気にして、容易な接近がままならない。

「どうだろうなぁ……」

 曖昧に言葉を濁すなどし、彼となるべく同調しようとする。

「これから、どうしていく?」

 目の前の事物のみに頓着し、幸不幸の機運を見定めようとする彼が、未来の指針について話し出す奇異な出来事を、鵜呑みにして答えるほど俺は彼に対して心を開いていない。持ちつ持たれつを常に意識しながらも、互いの長所を活かすことしか考えていない俺は、彼の短所に対して真剣に向き合ってこなかった。つまり、打算で機能する関係にとって、“変化”は面倒この上ないのだ。
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