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愛だ恋だの語りたい
なくなく
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きっかけを知らずして情感を顧みる気前のいい人間では些かなかった。つっけんどんに身体を仰け反らせ、野生動物の一挙手一投足に向ける注視でもって相対する。落ち着きの欠いた目線の飛ばし方と、骨張った握り拳から並々ならぬ決心が感じられ、あしらうには最もらしい理由が欲しかった。催してもいない尿意を装い立ち上がった僕は明らかに手持ち無沙汰で、空々しい断り方に寄り添うより女子生徒の勇気を買うしかなかった。
「いいよ」
僕は華澄由子に下校時の付き添いを断る一報を入れた。放課後、例の女子生徒を横に連れて、指差された方角に向かって歩き出す。今日は、天気予報士が注意喚起していた通りの真夏日になった。年々、温度が上昇傾向にある夏との付き合い方には、「我慢」の二文字を用いてきた僕だ。傍らにある足音にも程なくして慣れた。だがしかし、意味もなく町中をほっつき歩く出鱈目な遊びにまで身体を慣らすつもりはない。次の信号に捕まったら、言ってしまおう。そう誓った途端、女子生徒はのべつ幕なしに喋り出す。
「この前! ここからそう遠くない高校で生徒が電車に轢かれて亡くなったんだけど、知ってる? ニュースにもなったよ」
「広川奈緒、だよね。同学年だったし覚えてるよ」
手放しで称賛したのが記憶に新しい。
「その子と中学が一緒で、友達だったんだ。連絡先も交換してて、亡くなる二日前だってやり取りはしてた」
「そうなんだ」
「でも、何も言ってくれなかった。私には何もわからない」
沈痛を面持ちに一体何を言ったらいい。
しらを切って茶を濁せば、僕個人の人間性に関わる話になる。ならば、思っていることを少しだけ、切り崩そう。
「もし僕が自殺をしようと心の中で決めていて、その原因もハッキリしていたとしても、それを誰かに話そうとだなんて一縷も思わないよ。血を抜くようなものだ。一時的に軽くしたところで、また溜まってくる」
「でも、それでも言ってほしかった」
「誰かに話せる程度の思いなら、それはきっと本音じゃない。だから、自殺の原因を詳らかにするのは本来、不可能に近いんだ。死人に口なしだからね。でも、状況から推測することは出来る。広川奈緒がどういう状況にあったか。それを調べるのは大人の仕事だ」
「そうだね……」
「自分を恨まなくていい。自殺に追い込んだ原因を恨むんだ」
女子生徒の歯痒さに寄り添うと、その功罪として僕はあらぬ引き出しを開けてしまう。
「ごめんなさい! 私、言われて、連れ出せって言われて、藍原君を。海斗に」
飲食店から電気屋、薬局もあれば自動車ディーラーも店を構える道路には、しがない万屋も看板に名前を出すほどの交通量や土地の広さがあり、近隣住民のあらゆる悩みに答える度量があった。しかし、今僕たちに起こっている問題を解決するには、ここから約五キロメートル歩いた先にある国道沿いの交番に駆け込むしかなさそうだ。
「でも、出来なくて、私」
一切交流のなかった女子生徒の誘いに乗っかり、放課後を有意義に過ごす了見でいた僕の目論見はみごとに崩れ去った。直角に腰を折り曲げて地面のシミをいつまでも拝んでいそうな雰囲気を醸す女子生徒の差し出がましい謝意に僕はほとほと飽いた。
「…….いいよ。もういいから」
僕は女子生徒に別れの挨拶を交わすことなく立ち去る。全てが癪に触る。街路樹に張り付いてせっせと泣き喚く蝉の声や、明滅して足を急かす信号機にも舌を鳴らす。横たわるついでに僕の顔を覗き込もうとする太陽はもってのほかで、怒りを源泉にした歩行で盛大に風を切った。
「いいよ」
僕は華澄由子に下校時の付き添いを断る一報を入れた。放課後、例の女子生徒を横に連れて、指差された方角に向かって歩き出す。今日は、天気予報士が注意喚起していた通りの真夏日になった。年々、温度が上昇傾向にある夏との付き合い方には、「我慢」の二文字を用いてきた僕だ。傍らにある足音にも程なくして慣れた。だがしかし、意味もなく町中をほっつき歩く出鱈目な遊びにまで身体を慣らすつもりはない。次の信号に捕まったら、言ってしまおう。そう誓った途端、女子生徒はのべつ幕なしに喋り出す。
「この前! ここからそう遠くない高校で生徒が電車に轢かれて亡くなったんだけど、知ってる? ニュースにもなったよ」
「広川奈緒、だよね。同学年だったし覚えてるよ」
手放しで称賛したのが記憶に新しい。
「その子と中学が一緒で、友達だったんだ。連絡先も交換してて、亡くなる二日前だってやり取りはしてた」
「そうなんだ」
「でも、何も言ってくれなかった。私には何もわからない」
沈痛を面持ちに一体何を言ったらいい。
しらを切って茶を濁せば、僕個人の人間性に関わる話になる。ならば、思っていることを少しだけ、切り崩そう。
「もし僕が自殺をしようと心の中で決めていて、その原因もハッキリしていたとしても、それを誰かに話そうとだなんて一縷も思わないよ。血を抜くようなものだ。一時的に軽くしたところで、また溜まってくる」
「でも、それでも言ってほしかった」
「誰かに話せる程度の思いなら、それはきっと本音じゃない。だから、自殺の原因を詳らかにするのは本来、不可能に近いんだ。死人に口なしだからね。でも、状況から推測することは出来る。広川奈緒がどういう状況にあったか。それを調べるのは大人の仕事だ」
「そうだね……」
「自分を恨まなくていい。自殺に追い込んだ原因を恨むんだ」
女子生徒の歯痒さに寄り添うと、その功罪として僕はあらぬ引き出しを開けてしまう。
「ごめんなさい! 私、言われて、連れ出せって言われて、藍原君を。海斗に」
飲食店から電気屋、薬局もあれば自動車ディーラーも店を構える道路には、しがない万屋も看板に名前を出すほどの交通量や土地の広さがあり、近隣住民のあらゆる悩みに答える度量があった。しかし、今僕たちに起こっている問題を解決するには、ここから約五キロメートル歩いた先にある国道沿いの交番に駆け込むしかなさそうだ。
「でも、出来なくて、私」
一切交流のなかった女子生徒の誘いに乗っかり、放課後を有意義に過ごす了見でいた僕の目論見はみごとに崩れ去った。直角に腰を折り曲げて地面のシミをいつまでも拝んでいそうな雰囲気を醸す女子生徒の差し出がましい謝意に僕はほとほと飽いた。
「…….いいよ。もういいから」
僕は女子生徒に別れの挨拶を交わすことなく立ち去る。全てが癪に触る。街路樹に張り付いてせっせと泣き喚く蝉の声や、明滅して足を急かす信号機にも舌を鳴らす。横たわるついでに僕の顔を覗き込もうとする太陽はもってのほかで、怒りを源泉にした歩行で盛大に風を切った。
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