吸血鬼は唇に紅を差す

駄犬

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愛だ恋だの語りたい

相対す

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 新学期を迎えたかのように身体が軽い。月にタッチするくらい簡単にできそうだ。久しく味わっていないワックス掛けされた廊下の滑らかさを再現しながら教室に入る。

「おいおい、どうした? ずいぶん元気じゃないか」

 開口一番、友人たちが僕の姿をそう形容し、いつ嘲笑に変わってもおかしくない歪んだ唇が向けられる。僕は稚気な好奇心に構うつもりは毛頭なかった。

「?」

 奇異な眼差しは鯔背に任せて、あの女子生徒の眼前に立ち塞がった。喧嘩別れに近い形で袂を分かったはずだと生呑み込みした女子生徒は、歯の根が合わない様子で僕を見る。悪戯に女子生徒を困らせる嗜虐的な遊びを思い付いた訳ではない。明確な趣旨のもとに動いている。そしてそれは、更に女子生徒の顔を引き攣らせる原因にもなった。

「瀬戸海斗と連絡をとってくれないか?」

 一度は失敗した女子生徒を使った稚拙な囮作戦も、再利用するのは吝かではなかった。普段は要領がいい瀬戸海斗も、切迫した状況に陥ると頭の回転が鈍くなり、色仕掛けめいたことを持ち出す拙さに親近感を覚えたのだ。瀬戸海斗はこの浅薄な作戦を嬉々として受け入れてくれるだろう。僕を排斥するために。

 来年、開業予定の大型商業施設には悲喜交交の意見が集まる。県内初を謳って出店の足掛かりにする洋服屋や、娯楽に乏しい郊外ならではの悩みを解決する映画館の存在はひとえに喜ばしい。ただ、開業後に予想される周辺道路の渋滞を見越して頭を抱える町民もいるはずだ。しかし、青いネットに覆われて全貌が明らかになっていない建物はひとえに子供心を刺激する。そんな建設途中にある大型商業施設を僕は瀬戸海斗と決着をつける舞台に選んだ。

 夜は元来、人間にとって未知の恐怖にあたり、火の存在は文明が発展していく上で欠かせない。暗闇を怖いと思えるからこそ、ヒトという種の進化を味わえる。作業員が残していった空き缶の種類やブランドを仔細に読み取り判別する尋常ならざる力を身につけた僕は、これより文明から乖離し、無節操に相槌を打つ悪癖とは縁を切ろう。

 こんこんと湧いて止まらない興奮の傍で物音を聞いた。なるべく出さないように努める忍び足だ。額に汗して息を潜める姿が想像に難くない。「アッ」と、驚く顔のためなら僕も示しを合わせる気概は見せよう。耳をそばだてながら、針の上を歩くかのような足取りで僕たちは鉢合わせる瞬間を待ちに待った。

 灰色のコンクリートの打ちっぱなしと建物を支える柱が等間隔に配置されている。この殺風景な光景に巡視を怠らずにいれば、呼吸さえ雑音に感じた。そんな折、階段を上がってくる足音が耳に飛び込んでくる。跳ね上がる心臓をどうにか抑えつつ、僕は瀬戸海斗が目の前に現れるのを待った。
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