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死なば諸共
アルファ隊
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部活帰りの学生や、まだ手の付けられない子どもを連れた家族の怒気など、店員が思わず注文を聞き返す雑多なファミリーレストランは、夕食時もあってとりわけ喧しい。二人組の男、もとい金井と山岸が居酒屋でするような悪態のつき方と愚痴を垂れる。
「駅前のビジネスホテルに泊まるとか、マジで有り得ん」
「いいんじゃないか? どうせ短期の調査な訳だし」
管を巻くように水を呷り、二人は料理が届くまでの時間を潰している。
「はぁ?! 最後に寝た寝具がビジネスホテルの硬いベッドなんて死んでも……」
憤然に任せて口を滑らせたと頭を抱える金井を横目に、山岸は知らぬ存ぜぬと顔色一つ変えない。
「俺は余計なことを言い過ぎるきらいがある」
金井は刈り上げた短髪を撫で付けながら、短慮な頭に反省を促した。
「私はいいと思うよ。その勢いに何度か助けられたことがあった、ように思う」
「思ってるだけかい」
二人には仕事を共にこなす同僚の親近感があり、軽妙な掛け合いは普段から行われているのだろうと推測できた。
「今回、イロウも動いてるらしいぜ」
突然、金井がしおらしく湿っぽい声で、注進したその事柄は、唐変木な山岸も同調するような薄暗いものだったらしい。
「なるべく、穏便にいきたんだけどねぇ」
憐れむように眉を落として先々を案じる二人の情緒の振り幅は、沈黙をより重苦しくした。それから数分後、肩まで伸びる後ろ髪を束ねた山岸を合図に、金井はテーブルに置いていたスマートフォンを手元に引き寄せる。
「麻婆豆腐とライスのお客様は」
山岸がこじんまりに手をあげて料理を案内すると、「炭火焼きハンバーグ」が金井の目の前に置かれた。
「ビジネスホテルに文句言ったけど、俺たちも随分と安上がりだな」
そう苦笑する金井を無視して山岸は麻婆豆腐にありつく。特殊作戦執行部隊「アルファ」所属の隊員二名、金井と山岸は和洋中なんでもござれのファミリーレストランで夕食を食す。
綿飴を千切って空に投げたような雲の少なさに、今夜は月明かりがよく映える。帰路につく金井と山岸は、食後の幸福感からか、僅かに笑みが浮かんで見えた。しかしそれは、不意に吹き付ける風によって、一変する。のっぴきならない緊張が二人の身体に立ち現れたのだ。顔付きはささくれ立ち、蟻の触覚を想起させる指先の自立具合に、「警戒」の何たるかを教示しているようである。
「なぁ」
「わかってる」
皆まで言うなと山岸が金井の口を閉じさせると忽ち行動に移す。まるで何かの導きのもとに走っているような淀みない疾走で町中を駆ける。暫くすると、二人の足はほぼ同時に、とある古ぼけた一軒の空き家の前で止まった。
「金井、手帳は?」
「もってます、もってます」
二人は顧みることなく空き家に踏み込み、家の中の様子など目もくれず、居間へと吸い込まれて行く。
「すれ違ったかぁ」
「何人だろう。二人ぐらいか?」
もぬけの殻にも関わらず、先刻まで人が居たかのような口ぶりで二人は話す。そして、仔細ありげな面持ちで頷き合った。
「これはなかなか興味深い」
「駅前のビジネスホテルに泊まるとか、マジで有り得ん」
「いいんじゃないか? どうせ短期の調査な訳だし」
管を巻くように水を呷り、二人は料理が届くまでの時間を潰している。
「はぁ?! 最後に寝た寝具がビジネスホテルの硬いベッドなんて死んでも……」
憤然に任せて口を滑らせたと頭を抱える金井を横目に、山岸は知らぬ存ぜぬと顔色一つ変えない。
「俺は余計なことを言い過ぎるきらいがある」
金井は刈り上げた短髪を撫で付けながら、短慮な頭に反省を促した。
「私はいいと思うよ。その勢いに何度か助けられたことがあった、ように思う」
「思ってるだけかい」
二人には仕事を共にこなす同僚の親近感があり、軽妙な掛け合いは普段から行われているのだろうと推測できた。
「今回、イロウも動いてるらしいぜ」
突然、金井がしおらしく湿っぽい声で、注進したその事柄は、唐変木な山岸も同調するような薄暗いものだったらしい。
「なるべく、穏便にいきたんだけどねぇ」
憐れむように眉を落として先々を案じる二人の情緒の振り幅は、沈黙をより重苦しくした。それから数分後、肩まで伸びる後ろ髪を束ねた山岸を合図に、金井はテーブルに置いていたスマートフォンを手元に引き寄せる。
「麻婆豆腐とライスのお客様は」
山岸がこじんまりに手をあげて料理を案内すると、「炭火焼きハンバーグ」が金井の目の前に置かれた。
「ビジネスホテルに文句言ったけど、俺たちも随分と安上がりだな」
そう苦笑する金井を無視して山岸は麻婆豆腐にありつく。特殊作戦執行部隊「アルファ」所属の隊員二名、金井と山岸は和洋中なんでもござれのファミリーレストランで夕食を食す。
綿飴を千切って空に投げたような雲の少なさに、今夜は月明かりがよく映える。帰路につく金井と山岸は、食後の幸福感からか、僅かに笑みが浮かんで見えた。しかしそれは、不意に吹き付ける風によって、一変する。のっぴきならない緊張が二人の身体に立ち現れたのだ。顔付きはささくれ立ち、蟻の触覚を想起させる指先の自立具合に、「警戒」の何たるかを教示しているようである。
「なぁ」
「わかってる」
皆まで言うなと山岸が金井の口を閉じさせると忽ち行動に移す。まるで何かの導きのもとに走っているような淀みない疾走で町中を駆ける。暫くすると、二人の足はほぼ同時に、とある古ぼけた一軒の空き家の前で止まった。
「金井、手帳は?」
「もってます、もってます」
二人は顧みることなく空き家に踏み込み、家の中の様子など目もくれず、居間へと吸い込まれて行く。
「すれ違ったかぁ」
「何人だろう。二人ぐらいか?」
もぬけの殻にも関わらず、先刻まで人が居たかのような口ぶりで二人は話す。そして、仔細ありげな面持ちで頷き合った。
「これはなかなか興味深い」
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