吸血鬼は唇に紅を差す

駄犬

文字の大きさ
19 / 48
死なば諸共

アルファ隊

しおりを挟む
 部活帰りの学生や、まだ手の付けられない子どもを連れた家族の怒気など、店員が思わず注文を聞き返す雑多なファミリーレストランは、夕食時もあってとりわけ喧しい。二人組の男、もとい金井と山岸が居酒屋でするような悪態のつき方と愚痴を垂れる。

「駅前のビジネスホテルに泊まるとか、マジで有り得ん」

「いいんじゃないか? どうせ短期の調査な訳だし」

 管を巻くように水を呷り、二人は料理が届くまでの時間を潰している。

「はぁ?! 最後に寝た寝具がビジネスホテルの硬いベッドなんて死んでも……」

 憤然に任せて口を滑らせたと頭を抱える金井を横目に、山岸は知らぬ存ぜぬと顔色一つ変えない。

「俺は余計なことを言い過ぎるきらいがある」

 金井は刈り上げた短髪を撫で付けながら、短慮な頭に反省を促した。

「私はいいと思うよ。その勢いに何度か助けられたことがあった、ように思う」

「思ってるだけかい」

 二人には仕事を共にこなす同僚の親近感があり、軽妙な掛け合いは普段から行われているのだろうと推測できた。

「今回、イロウも動いてるらしいぜ」

 突然、金井がしおらしく湿っぽい声で、注進したその事柄は、唐変木な山岸も同調するような薄暗いものだったらしい。

「なるべく、穏便にいきたんだけどねぇ」

 憐れむように眉を落として先々を案じる二人の情緒の振り幅は、沈黙をより重苦しくした。それから数分後、肩まで伸びる後ろ髪を束ねた山岸を合図に、金井はテーブルに置いていたスマートフォンを手元に引き寄せる。

「麻婆豆腐とライスのお客様は」

 山岸がこじんまりに手をあげて料理を案内すると、「炭火焼きハンバーグ」が金井の目の前に置かれた。

「ビジネスホテルに文句言ったけど、俺たちも随分と安上がりだな」

 そう苦笑する金井を無視して山岸は麻婆豆腐にありつく。特殊作戦執行部隊「アルファ」所属の隊員二名、金井と山岸は和洋中なんでもござれのファミリーレストランで夕食を食す。

 綿飴を千切って空に投げたような雲の少なさに、今夜は月明かりがよく映える。帰路につく金井と山岸は、食後の幸福感からか、僅かに笑みが浮かんで見えた。しかしそれは、不意に吹き付ける風によって、一変する。のっぴきならない緊張が二人の身体に立ち現れたのだ。顔付きはささくれ立ち、蟻の触覚を想起させる指先の自立具合に、「警戒」の何たるかを教示しているようである。

「なぁ」

「わかってる」

 皆まで言うなと山岸が金井の口を閉じさせると忽ち行動に移す。まるで何かの導きのもとに走っているような淀みない疾走で町中を駆ける。暫くすると、二人の足はほぼ同時に、とある古ぼけた一軒の空き家の前で止まった。

「金井、手帳は?」

「もってます、もってます」

 二人は顧みることなく空き家に踏み込み、家の中の様子など目もくれず、居間へと吸い込まれて行く。

「すれ違ったかぁ」

「何人だろう。二人ぐらいか?」

 もぬけの殻にも関わらず、先刻まで人が居たかのような口ぶりで二人は話す。そして、仔細ありげな面持ちで頷き合った。

「これはなかなか興味深い」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...