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第10話
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「左腕かしてね・・・」
気づいた私に甘えるような声で香が言った。
ほのかな明かりでやっと顔を確認すると、少し泣いているようである。
「どうしたの?何か悲しい事あった?」
腕の上で首を振りながら香が言った。
「夜の街をぼんやり眺めていたらなんだか寂しくなっただけ・・・・
暫らくこうしていてもいい?」
その言葉を聞いて急に愛おしくなり、香を抱きしめた。
髪の毛からはコンディショナーの甘い匂いがした。
このまま時間が止まってもいい、そう思えるくらい満ち足りた気持ちになっていた。
部屋のカーテンは開けられていて、夜景が切ないほど綺麗である。
好きになってしまったのか?
自問しながら香の髪をなでていた。
どれくらいそうしていただろうか。香が顔をあげ唇を求めてきた。
まるで昔から恋人だったのように自然に唇を合わせた。
二人はそのまま見つめあい、そして何度もキスをした。
もう周囲のことや、これからの事などどうでもよくなっていた。
香とずっと一緒に居たい、そう思える瞬間だった。
香を求めずにはいられなかった。
部屋の明るさに目が覚めたのは、もう8時を廻ったころであった。
香はまだ眠っている。
うつむせで枕を抱くように眠っていた。
少しめくれたシーツから見える白い肩が美しい。
そっと唇をあてると香が気づいて恥ずかしそうに微笑んだ。
「おはよう。よく眠ったね」
「おはよう。もう朝なの?」
そう言うと香は唇を求めてきた。
「お腹空いちゃった」
顔を離した香が笑いながら言った。
顔にかかる髪がくすぐったい。
白い胸元を引き寄せ力いっぱい抱きしめた。
軽い朝食を摂った二人は、阪神高速で港大橋を渡り堺に向かった。
「堺には何か思い出の場所があるの?」
「前方後円墳って知ってる?アレの一番大きいのが仁徳天皇陵って言うんだけど
それがある場所なんだよ。今は公園になっているけど、子供の頃の遊び場さ」
昼前に大仙公園に到着した二人は、初夏の木々の中を散歩した。
「この小さい塚が子供の頃の遊び場だったなぁ」
今は立ち入り禁止になっているがここに秘密基地を作ったり、柿を取ったりして
遊んでいた。
「神田さんの子供の頃ってどんな感じだったのかな?写真とか見てみたい」
「じゃあ帰ったら見せてあげるよ。香ちゃんのも見せてくれる」
「いいけどー・・・小さい頃ブスだったもん」
「整形でもした?」
という質問に「やだー」っと言いながらげらげら笑った。
楽しい時間はあっという間に過ぎ帰りの車の中で香が言った。
「帰ったらまた一人ぼっちになっちゃうんだ・・・」
寂しげな顔を見ることはしなかったが雰囲気で判る。
私自身もそうであった。
何年も一人暮らしで、その生活に慣れていたがやはりどこか
不自然さがあった。
料理を作るのが好きだから、テレビでどこかの名店などを紹介する
番組を観ると同じようなものを自分で作ったりした。
それを酒の肴に、音楽を聴いたり読書を楽しんだり・・・
自分では最高の時間をすごしている気がしていた。
しかし、昨夜美味しいものを共に味わい、美しい夜景を一緒に感じた事で
忘れていた何かを目覚めさせたのかもしれない。
「うちに泊まっていく?」
口から出た言葉はそれだった。
香のマンションに寄り、明日の出勤のための用意を持って
私のマンションに戻ったのは8時を少し廻った頃だった。
「香ちゃん明日は何時からなの?車で送ってあげるよ」
「ホント!うれしい。出社は9時半だけど9時には着きたいから・・・」
「じゃあここを8時に出れば大丈夫だね。朝ごはん今度は僕が作るよ」
「だめですよ。私が作ります。だって昨日凄く楽しかったんだもん。
いつも朝ごはん作るのって、全然無意識の作業みたいなものなんだけど
なんだか幸せで・・・誰かの為に何かをするのって楽しい事なのよ」
そう言い終わると私に抱きついてきた。
こんな愛の言葉を聞くのは何年ぶりだろう?
抱き合ったまま静かな時間は優しく過ぎていった。
翌朝香の作った朝食を食べ、少し混んでいる国道を香の職場に向かって
走っていた。
車からはFM放送が爽やかな朝の音楽を流している。
少し早めに会社に着いてしまい、離れたところに車を停め、缶コーヒーを
飲みながら待っていた。
「帰り迎えに来ようか?」
もちろん今夜も一緒に居ようという意味である。
「7時に仕事が終わるから・・・7時半位かな?いいの?待ってても」
「もちろんだよ。じゃあ夕食の用意してから迎えにいくよ。鍋でもいい?」
「うれしい。一人じゃ作らないもの。あっ、時間だわ。行って来ます」
そう言うと慌ただしい金曜日のオフィス街へ香は吸い込まれていった。
私は暫らくその後姿を見守っていた。
気づいた私に甘えるような声で香が言った。
ほのかな明かりでやっと顔を確認すると、少し泣いているようである。
「どうしたの?何か悲しい事あった?」
腕の上で首を振りながら香が言った。
「夜の街をぼんやり眺めていたらなんだか寂しくなっただけ・・・・
暫らくこうしていてもいい?」
その言葉を聞いて急に愛おしくなり、香を抱きしめた。
髪の毛からはコンディショナーの甘い匂いがした。
このまま時間が止まってもいい、そう思えるくらい満ち足りた気持ちになっていた。
部屋のカーテンは開けられていて、夜景が切ないほど綺麗である。
好きになってしまったのか?
自問しながら香の髪をなでていた。
どれくらいそうしていただろうか。香が顔をあげ唇を求めてきた。
まるで昔から恋人だったのように自然に唇を合わせた。
二人はそのまま見つめあい、そして何度もキスをした。
もう周囲のことや、これからの事などどうでもよくなっていた。
香とずっと一緒に居たい、そう思える瞬間だった。
香を求めずにはいられなかった。
部屋の明るさに目が覚めたのは、もう8時を廻ったころであった。
香はまだ眠っている。
うつむせで枕を抱くように眠っていた。
少しめくれたシーツから見える白い肩が美しい。
そっと唇をあてると香が気づいて恥ずかしそうに微笑んだ。
「おはよう。よく眠ったね」
「おはよう。もう朝なの?」
そう言うと香は唇を求めてきた。
「お腹空いちゃった」
顔を離した香が笑いながら言った。
顔にかかる髪がくすぐったい。
白い胸元を引き寄せ力いっぱい抱きしめた。
軽い朝食を摂った二人は、阪神高速で港大橋を渡り堺に向かった。
「堺には何か思い出の場所があるの?」
「前方後円墳って知ってる?アレの一番大きいのが仁徳天皇陵って言うんだけど
それがある場所なんだよ。今は公園になっているけど、子供の頃の遊び場さ」
昼前に大仙公園に到着した二人は、初夏の木々の中を散歩した。
「この小さい塚が子供の頃の遊び場だったなぁ」
今は立ち入り禁止になっているがここに秘密基地を作ったり、柿を取ったりして
遊んでいた。
「神田さんの子供の頃ってどんな感じだったのかな?写真とか見てみたい」
「じゃあ帰ったら見せてあげるよ。香ちゃんのも見せてくれる」
「いいけどー・・・小さい頃ブスだったもん」
「整形でもした?」
という質問に「やだー」っと言いながらげらげら笑った。
楽しい時間はあっという間に過ぎ帰りの車の中で香が言った。
「帰ったらまた一人ぼっちになっちゃうんだ・・・」
寂しげな顔を見ることはしなかったが雰囲気で判る。
私自身もそうであった。
何年も一人暮らしで、その生活に慣れていたがやはりどこか
不自然さがあった。
料理を作るのが好きだから、テレビでどこかの名店などを紹介する
番組を観ると同じようなものを自分で作ったりした。
それを酒の肴に、音楽を聴いたり読書を楽しんだり・・・
自分では最高の時間をすごしている気がしていた。
しかし、昨夜美味しいものを共に味わい、美しい夜景を一緒に感じた事で
忘れていた何かを目覚めさせたのかもしれない。
「うちに泊まっていく?」
口から出た言葉はそれだった。
香のマンションに寄り、明日の出勤のための用意を持って
私のマンションに戻ったのは8時を少し廻った頃だった。
「香ちゃん明日は何時からなの?車で送ってあげるよ」
「ホント!うれしい。出社は9時半だけど9時には着きたいから・・・」
「じゃあここを8時に出れば大丈夫だね。朝ごはん今度は僕が作るよ」
「だめですよ。私が作ります。だって昨日凄く楽しかったんだもん。
いつも朝ごはん作るのって、全然無意識の作業みたいなものなんだけど
なんだか幸せで・・・誰かの為に何かをするのって楽しい事なのよ」
そう言い終わると私に抱きついてきた。
こんな愛の言葉を聞くのは何年ぶりだろう?
抱き合ったまま静かな時間は優しく過ぎていった。
翌朝香の作った朝食を食べ、少し混んでいる国道を香の職場に向かって
走っていた。
車からはFM放送が爽やかな朝の音楽を流している。
少し早めに会社に着いてしまい、離れたところに車を停め、缶コーヒーを
飲みながら待っていた。
「帰り迎えに来ようか?」
もちろん今夜も一緒に居ようという意味である。
「7時に仕事が終わるから・・・7時半位かな?いいの?待ってても」
「もちろんだよ。じゃあ夕食の用意してから迎えにいくよ。鍋でもいい?」
「うれしい。一人じゃ作らないもの。あっ、時間だわ。行って来ます」
そう言うと慌ただしい金曜日のオフィス街へ香は吸い込まれていった。
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