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第11話
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家に戻って溜まっていた仕事の処理を済ませ、久しぶりに近くの大型スーパーへ
買い物に出かけることにした。
今夜の鍋材料と、香が泊まった時のための物を少し買うつもりだ。
枕やシーツ、バスローブ、パジャマなどかさばる物を先に買ってトランクに押し込んだ。
結構な量である。あとは夜の食材だけだ。
鍋料理は独りの時も手間がかからないので結構作るが、やはり会話があるほうが美味しい。
「久しぶりにしゃぶしゃぶでもするか」
いろいろと支度をしながらふと香の年齢の事を考えた。
26歳といえば結婚適齢期だ。一夜を共にしたとはいえお互いの事はまだほとんど
知らないし17歳の年の差はやはり気になる。
これから素敵な恋をして結婚し子供を生んで・・・
芸能人などを見れば、この年齢で再婚し子供を持つ人もいるようだが、自分では
どうしても先の事を考えてしまい、今はまったく考える事ができない。
それに香だって、ずっとこんな中年と一緒に居たいと思うかはわからないだろう。
偶然出会ってこうなったのだ。
時間にすべての舵取りを任すのも良いかもしれない。
金曜日の町は賑やかだ。
特に今夜は明日からのイベントのためセントラルパーク付近には屋台が
すでにオープンしていた。
カップルが仲良くソフトクリームを食べながら横断歩道を渡っている。
香は待ち合わせ時間丁度に現れた。
「待った?」
「今来たとこだよ。ぴったりだったね」
「この通り混んでるから、車長くは停めれないと思って・・・」
こういう心遣いが気持ち良い。香に引かれる理由はいくらでも出てきそうだ。
自分でも少し可笑しくなった。こういうのを欲目というのだろうか?
「神田さん、なんだか楽しそうね。そうだ、わたしのアルバムを持っていくわ」
「整形前の顔が見れるんだ、楽しみだなぁ」
「また言った。酷いんだから。」
「そうじゃ無いさ。今の香が可愛いって言ってるんだから」
照れるような言葉を言ったあと、何故か笑いがこみ上げてきた。
夕食を終えシャワーを浴びた二人はリビングでDVDを観る事にした。
今日買ってきたシルクのパジャマを着た香が窓の外を見ている。
「神田さんの部屋から見える夜景もきれいね。高速道路の明かりがずっと続いてる」
「こっちにおいで。そろそろ始まるよ。それに喉渇いたでしょ?ビールで乾杯しよう」
リラックスした時間がゆっくりと流れていた。肩に回した腕を香は優しく抱いている。
ディスプレイは今年上映されたハリウッド映画を再生していた。
「この映画観たかったの。封切られた頃はそうは思わなかったんだけど、雑誌などの
レビューを見ていて、何で観にいかなかったんだろう?って後悔してたの」
「映画館には誰かと行くの?」
「気になる?」そう言うと頬にキスをしてきた。
「・・・少しね」
本当はあまり気にはならなかったが、そう答えておいた。
それでも香は頬を僅かに膨らませながら、少し甘えた声で拗ねるように言った。
「なーんだ」
映画は中盤の盛り上がるシーンになっっていた。
翌日も香を会社に送り、夜の約束をして一日が始まった。
今日はライブ仲間の開く絵画の個展へ顔を出す約束をしている。
どんな絵を描くのか見たことが無いので分からないが、印象派の影響を
受けていると言っていた。
会場に着くと受付に彼が居た。
初日という事もあってか、ロビーには大勢の招待客が談笑していた。
「やあ、神田さん来てくれたんですね。お忙しいところすいませんでした」
高木隆一は少し照れたように握手を求めてきた。
「凄く盛況じゃないですか。おめでとうございます」
「ありがとうございます。良かったら後でコーヒーでも。ラウンジで用意しますので」
「じゃあ早速見させてもらいます」
高木の絵は迫力のあるものが多かった。
風景画も50号を超えるものばかりだ。
中でも目を引いたのは150号を超える抽象画だった。
これには皆ため息をもらせていた。
一通り見終わってロビーに戻ると、高木が近づいてきた。
「あの抽象画は凄かったですねえ。迫力もだが、何か欲望・・・まるで性欲のような
ものを感じ取れましたが・・・すいません表現が稚拙で」
「神田さんありがとう。まさにその通りなんです。アレは性をテーマに描きました
ラウンジへ行きましょう。コーヒーを用意させます」
高木というのは面白い男で、ジャズクラブで会った時もいつも違う女性を連れていた。
最初の頃は彼女ですか?などと聞いていたが、そのうち皆見て見ぬふりをしていた。
しかも美しい女性ばかりなのだ。
ひょっとすると絵のモデルだったのかもしれない。
それにしては今回の個展には一枚として人物画は無かったが・・・
「神田さんこちらへ」
高木は革張りのゴージャスなソファーを指して言った。
「印象はどうでしたか?神田さんの意見が一番気になるんですよ」
「僕の意見なんて・・・まったくの素人ですから」
確かに絵画は好きなほうで、よく地元の小さな個展にも足を運んでいる。
しかし絵心はまったく無く、褒めるといっても漠然と心が動いたとか
そんな表現しか出来ない。
「高木さんの風景画は素直に美しいと感じました。テクニックなどは分かりませんが
何かそこに無いものを描いているような・・・そう、過去の思い出とか」
そういい終えるなり高木は握手を求めてきた。顔は満面の笑みをうかべている。
「神田さんには何も隠せませんね。あの風景はすべて付き合っていた女性と
行った場所です。その頃の気持ちを表現しました。ディテールや色は思いつくままです」
「どの風景も寂しげなのは、別れた女性達への未練ですか?」
「未練・・・そうかも知れません。ただ感傷はあっても未来への希望の光も
描いているんですが・・・」
「抽象画の方は・・・何というか、失礼を覚悟で申し上げますと・・・」
高木が身を乗り出してきた。私のような素人の意見がそれほど面白いものなの
だろうか?
言葉を続けた。
「一つ一つの絵が何か強烈な個性を持っていて、エロティシズムのようなものを
感じるんです。まるで女性を描いてるんじゃないかって思うくらいに・・・」
そこまで言うと高木は深く深呼吸をした。
暫らく沈黙の後、ゆっくり話し出した。
「神田さん、神田さんとはあのジャズクラブでお話させてもらってるだけだが
何か私と共通するものをずっと感じていました。その理由が今日分かったような
気がします。あなたに見ていただけてよかった」
高木は自分の絵について話し出した。
抽象画の1枚1枚はやはり付き合ってきた女性達だという。
それを人物画にするのでは無く、色で表現しようと考えたのだそうだ。
しかし何度描いても、後で見ると何も感じなかったらしい。
そこで付き合っていた女性を他の男に抱かせ、嫉妬の中で描いた時、これまでに無い
手ごたえを感じたのだという。
しかしその嫉妬も、何人もの男に抱かせるうちに無くなってしまい、結局女性とは
別れる事になる。そうやって次から次へと女を渡り歩き、あの大作に
行き着いたのだという事だった。
話を聞いていて少し怖くなった。
作品に対するその執念、私には理解しがたいものがある。
高木はあの大作を描き上げてから。筆を握っていないという。
今一緒に居る女性を愛しており、別れたくないからだと言っていた。
夕方、香を迎えに行く頃には僅かな疲労感を憶えていた。
買い物に出かけることにした。
今夜の鍋材料と、香が泊まった時のための物を少し買うつもりだ。
枕やシーツ、バスローブ、パジャマなどかさばる物を先に買ってトランクに押し込んだ。
結構な量である。あとは夜の食材だけだ。
鍋料理は独りの時も手間がかからないので結構作るが、やはり会話があるほうが美味しい。
「久しぶりにしゃぶしゃぶでもするか」
いろいろと支度をしながらふと香の年齢の事を考えた。
26歳といえば結婚適齢期だ。一夜を共にしたとはいえお互いの事はまだほとんど
知らないし17歳の年の差はやはり気になる。
これから素敵な恋をして結婚し子供を生んで・・・
芸能人などを見れば、この年齢で再婚し子供を持つ人もいるようだが、自分では
どうしても先の事を考えてしまい、今はまったく考える事ができない。
それに香だって、ずっとこんな中年と一緒に居たいと思うかはわからないだろう。
偶然出会ってこうなったのだ。
時間にすべての舵取りを任すのも良いかもしれない。
金曜日の町は賑やかだ。
特に今夜は明日からのイベントのためセントラルパーク付近には屋台が
すでにオープンしていた。
カップルが仲良くソフトクリームを食べながら横断歩道を渡っている。
香は待ち合わせ時間丁度に現れた。
「待った?」
「今来たとこだよ。ぴったりだったね」
「この通り混んでるから、車長くは停めれないと思って・・・」
こういう心遣いが気持ち良い。香に引かれる理由はいくらでも出てきそうだ。
自分でも少し可笑しくなった。こういうのを欲目というのだろうか?
「神田さん、なんだか楽しそうね。そうだ、わたしのアルバムを持っていくわ」
「整形前の顔が見れるんだ、楽しみだなぁ」
「また言った。酷いんだから。」
「そうじゃ無いさ。今の香が可愛いって言ってるんだから」
照れるような言葉を言ったあと、何故か笑いがこみ上げてきた。
夕食を終えシャワーを浴びた二人はリビングでDVDを観る事にした。
今日買ってきたシルクのパジャマを着た香が窓の外を見ている。
「神田さんの部屋から見える夜景もきれいね。高速道路の明かりがずっと続いてる」
「こっちにおいで。そろそろ始まるよ。それに喉渇いたでしょ?ビールで乾杯しよう」
リラックスした時間がゆっくりと流れていた。肩に回した腕を香は優しく抱いている。
ディスプレイは今年上映されたハリウッド映画を再生していた。
「この映画観たかったの。封切られた頃はそうは思わなかったんだけど、雑誌などの
レビューを見ていて、何で観にいかなかったんだろう?って後悔してたの」
「映画館には誰かと行くの?」
「気になる?」そう言うと頬にキスをしてきた。
「・・・少しね」
本当はあまり気にはならなかったが、そう答えておいた。
それでも香は頬を僅かに膨らませながら、少し甘えた声で拗ねるように言った。
「なーんだ」
映画は中盤の盛り上がるシーンになっっていた。
翌日も香を会社に送り、夜の約束をして一日が始まった。
今日はライブ仲間の開く絵画の個展へ顔を出す約束をしている。
どんな絵を描くのか見たことが無いので分からないが、印象派の影響を
受けていると言っていた。
会場に着くと受付に彼が居た。
初日という事もあってか、ロビーには大勢の招待客が談笑していた。
「やあ、神田さん来てくれたんですね。お忙しいところすいませんでした」
高木隆一は少し照れたように握手を求めてきた。
「凄く盛況じゃないですか。おめでとうございます」
「ありがとうございます。良かったら後でコーヒーでも。ラウンジで用意しますので」
「じゃあ早速見させてもらいます」
高木の絵は迫力のあるものが多かった。
風景画も50号を超えるものばかりだ。
中でも目を引いたのは150号を超える抽象画だった。
これには皆ため息をもらせていた。
一通り見終わってロビーに戻ると、高木が近づいてきた。
「あの抽象画は凄かったですねえ。迫力もだが、何か欲望・・・まるで性欲のような
ものを感じ取れましたが・・・すいません表現が稚拙で」
「神田さんありがとう。まさにその通りなんです。アレは性をテーマに描きました
ラウンジへ行きましょう。コーヒーを用意させます」
高木というのは面白い男で、ジャズクラブで会った時もいつも違う女性を連れていた。
最初の頃は彼女ですか?などと聞いていたが、そのうち皆見て見ぬふりをしていた。
しかも美しい女性ばかりなのだ。
ひょっとすると絵のモデルだったのかもしれない。
それにしては今回の個展には一枚として人物画は無かったが・・・
「神田さんこちらへ」
高木は革張りのゴージャスなソファーを指して言った。
「印象はどうでしたか?神田さんの意見が一番気になるんですよ」
「僕の意見なんて・・・まったくの素人ですから」
確かに絵画は好きなほうで、よく地元の小さな個展にも足を運んでいる。
しかし絵心はまったく無く、褒めるといっても漠然と心が動いたとか
そんな表現しか出来ない。
「高木さんの風景画は素直に美しいと感じました。テクニックなどは分かりませんが
何かそこに無いものを描いているような・・・そう、過去の思い出とか」
そういい終えるなり高木は握手を求めてきた。顔は満面の笑みをうかべている。
「神田さんには何も隠せませんね。あの風景はすべて付き合っていた女性と
行った場所です。その頃の気持ちを表現しました。ディテールや色は思いつくままです」
「どの風景も寂しげなのは、別れた女性達への未練ですか?」
「未練・・・そうかも知れません。ただ感傷はあっても未来への希望の光も
描いているんですが・・・」
「抽象画の方は・・・何というか、失礼を覚悟で申し上げますと・・・」
高木が身を乗り出してきた。私のような素人の意見がそれほど面白いものなの
だろうか?
言葉を続けた。
「一つ一つの絵が何か強烈な個性を持っていて、エロティシズムのようなものを
感じるんです。まるで女性を描いてるんじゃないかって思うくらいに・・・」
そこまで言うと高木は深く深呼吸をした。
暫らく沈黙の後、ゆっくり話し出した。
「神田さん、神田さんとはあのジャズクラブでお話させてもらってるだけだが
何か私と共通するものをずっと感じていました。その理由が今日分かったような
気がします。あなたに見ていただけてよかった」
高木は自分の絵について話し出した。
抽象画の1枚1枚はやはり付き合ってきた女性達だという。
それを人物画にするのでは無く、色で表現しようと考えたのだそうだ。
しかし何度描いても、後で見ると何も感じなかったらしい。
そこで付き合っていた女性を他の男に抱かせ、嫉妬の中で描いた時、これまでに無い
手ごたえを感じたのだという。
しかしその嫉妬も、何人もの男に抱かせるうちに無くなってしまい、結局女性とは
別れる事になる。そうやって次から次へと女を渡り歩き、あの大作に
行き着いたのだという事だった。
話を聞いていて少し怖くなった。
作品に対するその執念、私には理解しがたいものがある。
高木はあの大作を描き上げてから。筆を握っていないという。
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