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小話:仏間
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本編に影響のない小話です。
+++
昔からどうも仏間は苦手だった。
線香の匂いとか、いつもひっそり置かれる花とか果物とか。
静かな部屋だからというのもあるんだろうけど、居間と比べて仏間は、暗くて重く。どこかこの部屋だけ、寂しく時間が止まっているみたいで。
じいちゃんの家に初めて訪れたときも、白黒写真のひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんの遺影写真にびくついてしまったのを覚えている。
じいちゃんの好意で、父さんと母さんの写真を置かせてもらってからは、少しマシになったけれど。
「仏間ってやっぱり、こう、怖い気がする。なんでかな」
壱夏にとりとめもない話をしたのは、中学校からの帰り。まなさんの運転する車の中で。
家庭科の授業で家の間取りについて習った日だった。
「拒絶するからだろ。死ぬことを」
壱夏はあっさりと言う。
…………ああ、そうか。
あそこに流れる空気はどうしようもない『死』の匂い。生きていた人間がガイコツになる、なった、証だから。
「あとは食化、とかいる」
「じっけ?」
ぽつりと、隣に座る彼が呟いたのは、しばらくして。
聞き慣れない言葉に首を傾げると、壱夏が答えた。
「自分だけご馳走を食べて、奥さんとか子どもには食べさせなかった奴がなる鬼。こいつらが食べられるのは、供物の匂いだけ。食べ物を粗末にした人が落ちる地獄、餓鬼道の一つだけど……餓鬼道は?」
僕は曖昧に頷いた。ぽっこりお腹の膨れた鬼の姿だけ想像して。
壱夏は職業柄だろうか、こういう話に詳しい。
いつも飢えている食化たちは、供えられた供物に群がり匂いを嗅ぐ。
飢えた腹を抱えて供物にへばりついて。
「どこの仏壇にもいる。……鬼がいるんだから、空気くらいよどむだろ」
暗い、仏間を思い出す。
自分と遺影と仏壇だけだと思っていた。
死にたくなるほどの空腹を抱えた、小さな鬼があそこにいたのだ。
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昔からどうも仏間は苦手だった。
線香の匂いとか、いつもひっそり置かれる花とか果物とか。
静かな部屋だからというのもあるんだろうけど、居間と比べて仏間は、暗くて重く。どこかこの部屋だけ、寂しく時間が止まっているみたいで。
じいちゃんの家に初めて訪れたときも、白黒写真のひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんの遺影写真にびくついてしまったのを覚えている。
じいちゃんの好意で、父さんと母さんの写真を置かせてもらってからは、少しマシになったけれど。
「仏間ってやっぱり、こう、怖い気がする。なんでかな」
壱夏にとりとめもない話をしたのは、中学校からの帰り。まなさんの運転する車の中で。
家庭科の授業で家の間取りについて習った日だった。
「拒絶するからだろ。死ぬことを」
壱夏はあっさりと言う。
…………ああ、そうか。
あそこに流れる空気はどうしようもない『死』の匂い。生きていた人間がガイコツになる、なった、証だから。
「あとは食化、とかいる」
「じっけ?」
ぽつりと、隣に座る彼が呟いたのは、しばらくして。
聞き慣れない言葉に首を傾げると、壱夏が答えた。
「自分だけご馳走を食べて、奥さんとか子どもには食べさせなかった奴がなる鬼。こいつらが食べられるのは、供物の匂いだけ。食べ物を粗末にした人が落ちる地獄、餓鬼道の一つだけど……餓鬼道は?」
僕は曖昧に頷いた。ぽっこりお腹の膨れた鬼の姿だけ想像して。
壱夏は職業柄だろうか、こういう話に詳しい。
いつも飢えている食化たちは、供えられた供物に群がり匂いを嗅ぐ。
飢えた腹を抱えて供物にへばりついて。
「どこの仏壇にもいる。……鬼がいるんだから、空気くらいよどむだろ」
暗い、仏間を思い出す。
自分と遺影と仏壇だけだと思っていた。
死にたくなるほどの空腹を抱えた、小さな鬼があそこにいたのだ。
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