勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗

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番外編

勘違い妻と魔女の一計【勘違い魔女書籍化記念感謝SS】

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※注:本編完結後のお話です。ネタバレ等含みますので、出来ましたら本編をお読みになった後ご覧ください。また、レジーナブックスサイト様にて「甘い贈り物」という番外編も公開中です。

【書き下し作品「勘違い魔女は討伐騎士に愛される。」2018/08/28発売。書籍化記念。「勘違い魔女」は話中に登場するエレニーがヒロインです。もしよろしければお手に取って頂けると嬉しいです^^】

あらすじ:長男のレヴォルトが一歳になった頃、今日も今日とて帰りの遅いヴォルクに、レオノーラは寂しさを感じていた。そんな中、美麗メイドのエレニーから「一服盛ってやれば良いのです」と提案されて――?


◇◆◇


「っだあ―――っ!今日もこんな時間!」

 盛大な愚痴を吐き出しながら、寝台の上で硝子越しの空を見上げた。濃い紺色に闇を混ぜ合わせた夜空には、細い銀月が薄雲を纏い輝いている。
 時刻はとうに深夜を越え、一番鶏が鳴き声を上げるまでもう暫くといったところだ。

 なのに私はと言えば、今夜も一人じたばたもがきながら先程の叫びを上げていた始末で。無論、本来ならば隣に愛しい旦那様がいた筈である。

 ……いた筈……なんだけど……。

「独りなんですよねっ!今日も!大事なことだから二回言いますよっ!きょ・う・も!!」

 やたら広く感じる寝台の上でごろりと転がりながら、掛布を握りしめぶう垂れた。
 どうにもならないとわかっているからこその、せめてもの悪あがきである。

 まあ、答えは簡単なのだ。

 このところまた、ヴォルク様の帰りが遅いというだけのこと。
 しかし、それがある意味重大問題だったりする。

 ……私的にはね!

 いやね?三日や四日ならまだわかるのよ?
 でも連日……どころかもう二週間もこの有様ってどゆ事?
 
 正しくは二週間を過ぎて半分……はい正直に言えば半月ですよー……。特に事件が起こってるわけでも無し、以前のように脱走してる悪人がいるわけでも無し、というのにこれ如何に。

「全然……触れあえないー……」

 ――長男のレヴォルトも早一歳となり、以前ほど手はかからなくなった。
 他貴族のように乳母をつける事はせず、自分で子育てをしていたため、最初はかなり大変だったけれど、エレニーが殊更に息子を可愛がってくれたおかげで、現在進行形で正直とても助かっている。

 今日も今日とて「えーに、いっしょ!ねんね!」と片言の幼児語で自分の希望を述べたレヴォルトは、エレニーの紫紺の瞳をこれでもかと融解させて、まんまと彼女と一緒に眠りについた。

 近頃は大分表情を変えてくれるようになったとはいえ、あの鉄壁の女王を意のままにできるとは、我が子ながら末恐ろしい子である。

 まあ、母親的にはちょっとだけ寂しい気持ちもあるけれど、そのおかげで子がいる夫婦の割には夜はある程度ヴォルク様と過ごすための時間を持てているので、エレニーには感謝しかない。

 当の本人からは「今夜は旦那様のお帰りが早ければ良いですね」と、色々見透かした目で労られてしまった。

 の、だけど。

「……本人が帰ってこないんじゃ、一緒に過ごすも何もあったもんじゃないし……」

 溜め息を吐きつつ、うつぶせのまま手にした便箋へ視線を落とす。伝言用とされている紙には、西王国イゼルマール蒼の士隊のシンボル、鷹の紋章が印字されている。

『今夜も遅くなる すまない』

 丁寧に書かれた、簡潔な一文。

 どこかの誰かを彷彿とさせる短い文章には、謝罪以外の言葉が無いのだと、言外に伝えてくれていた。

 仕事なのは仕方ないし、連絡をくれるだけ有り難いと思ってはいる。
 思ってはいるのだけど……。

 「でも、こうやって謝られるとむしろ、愚痴の行き先が無くなってしまうんですよー……ヴォルク様。独り言で呟くのですら、罪悪感感じちゃうじゃないですかー……」

 寝台の横にある、鏡面のように磨かれた小さな卓上に便箋を置き、がっくりと肩を落とした。

 だって相手は騎士様だ。

 国を……民を、私達を命がけで守ってくれている。
 だから、文句を言ってはいけないと、わかっていはいる……いるが。

「どうにもこうにもできないモノっていうのが、あるんです……!」

 私は静まりかえった夜の部屋に、嘆きの叫びを漏らした。
 ついでに、罪もないふかふか枕をぼすぼす叩く。無論、そんな事をしたところで、この寂しさは消えようも無いのはわかっているが。
 
 それもこれも、ヴォルク様が格好良過ぎるからいけない。(責任転嫁も甚だしいが)

 だってあの見た目だよ?そりゃ人間中身が大事だけど、輝く銀髪に端正な顔立ちは、未だに直視するのが恥ずかしい位綺麗だし、あの蒼い瞳に見つめられれば、途端頭はお花畑だ。(ってこれ私馬鹿みたいじゃないか?)

 でもって!

「脱いだら凄いとかね……!しかも未だ二人の時は、だだ甘い台詞満載なのよこれが……!私母親よ?経産婦なんですよ?少しはこう、色んな意味で落ち着いたりとかするもんじゃない?いや嬉しいけどっ。嬉し過ぎて好き過ぎて、だから困ってるんだけど……!」

 そのせいで、最近は自分でも若干恐いと思う程だ。
 
 いやまあ……ヴォルク様の事だから、私が好き好き全開だろうが同じく全開で返してくれるとは思うけど。そこは安心なんだけど。

 単に私が阿呆になりそうで恐い。脳内お花畑でも許してくれそうなヴォルク様もちょっと恐い。冷静大事です。

 元々は私の勘違いから始まって、しかし有り難いことにヴォルク様と気持ちを通じ合わせる事が出来た。その上嫡子となる男子までもうけて……。

 幸せ以外の、何ものでも無い筈なのに。
 ヴォルク様が……足りない。

 私にとってヴォルク様は、初めて好きになって初めて愛した人だ。
 だから余計に、どうやって歯止めをかければ良いのかわからないのかもしれない。

「今なら……お父様が引き籠もっちゃった気持ちがよくわかるわー……」

 かつて、私の母が亡くなった際別人のようになってしまったお父様の事を思い出した。

 自室に閉じこもり、屋敷も領地の管理も全て放置し、世捨て人の状態になってしまったお父様の姿には、子供ながら中々衝撃を受けたものだった。勿論、私自身も母の死を悲しんでいたけれど、お父様の嘆きはまた別次元だったのだ。

「ヴォルク様はお母様と違ってちゃんと生きてるのに……傍にいられないだけで、こんなに寂しいなんて」

 十分幸せな筈なのに、足りないと思ってしまう我が儘な自分が嫌になる。欲張りになったものだなぁと、自嘲を含んだ溜め息をついた。

 ヴォルク様は一応帰宅してはいるが、それもほとんど明け方近くだ。起きて待っていたらこちらが凹むほど申し訳なさそうにされてしまうので、最近はある程度待って帰らなければ先に休ませて貰っている。
 昔にも一度似た状況になったが、当時は若さ故の失敗を犯してしまったので、あれ以降無理はしないようにしているのだ。

 本当は彼の腕に抱かれて眠り、そして供に目覚めたい。 
 未だこう思ってしまう私はどこかおかしいんだろうか。

 ああ駄目だ。頭が乙女になっている。
 いや待てよ。人妻で子供も産んでるけど乙女って言っていいもんだろうか。

 一応まだ二十代……いやいや、立派なミセスだわ。

 ほとんど触れあえていないこの二週間。
 ヴォルク様は一体どう思っているんだろう。寂しいと、恋しいと、思っていてくれてるだろうか。それとも、仕方ないと考えてるんだろうか。仕事は仕事でちゃんとしてる方だし。

 「……だったら寂しい」

 私は寝台に一人横たわりながら、悶々とした想いを振り切るように頭を振り、ぎゅっと掛布を抱き込んで眠りについた。愛しい旦那様が眠る筈であったぽっかりと空いた隣に、意識を強く引かれながら。

◇◆◇

「お寂しいのでしょう?」

「ふぇっ」

 燦々とした眩い太陽の光が降り注ぐ中庭で、エレニーはレヴォルトを膝上であやしつつ、紫紺の流し目で問いかけてきた。しかし私はと言えば、突然の声かけにティーカップを手にしたまま、ぽけっと口を開けて固まっている。どこかで小鳥がチュンチュン鳴く声がした。

 おさび?……わさび?

 エレニーの言葉を、陽光で呆けた脳内でゆっくり反芻したところで、ようやく意味を理解する。

「いや、あの、そそそそそそんな事はっ……」

 我ながら、嘘がつけない性格だと思う。
 (馬鹿正直って言わないで)

 その証拠に、にたーーーっと笑みを浮かべた美麗なメイドは、膝元のレヴォルトに銀色の獅子のぬいぐるみ(エレニー作。超絶上手い)をあてがいながら、察しているとばかりに頷いている。

「一度脅してみては如何ですか?『放っておくなら実家に帰る』とか」

「いやそれはちょっと」

「もしくは浮気するとでも言ってやれば良いのです。血相変えて飛んで帰ると思いますが」

 極上の笑顔でとんでもない提案をしてくるエレニーに、私は背筋に薄ら寒さを感じつつ、首を左右にぶんぶん振った。

 冗談でもまずい。ヴォルク様は、あれでいて結構やきもち焼きさんなのだ。
 昔、息の根止められかけたし。

「いやいやいや。そんな事すれば後が恐いし。それに、仕事なのだし……」

 そう、仕事。言葉にすれば簡単だが、彼が肩に背負う物は大きくそして重たいものだ。
騎士将軍という位についてからはそれが一層重みを増し、私の大事な旦那様ではあるが、正直私だけが独占して良い人でも無くなってしまった。

 理解はしているけれど、会えない……触れあえない辛さは、どうにも消すことができない。
 母親らしくない、まるで子供の様な我が儘だとつい溜息を漏らしていると、エレニーも珍しく小さく息を吐いていた。悩ましげな仕草に同性ながら目を奪われる。

「……あの子は自分で何でもかんでもやり過ぎるのですよ。上が役目を奪っていては、下の者が育ちません。それが理解出来ていないのです」

 エレニーがぴしゃりと言い放つ。彼女の声音には、年長者だけが持つ深く機微に通じた響きがあった。

 そして彼女の言葉に思い出したのは、ヴォルク様の伝言を私に届けてくれた、糸目の騎士様の事である。

 ハージェス様の後任として副隊長となったクライス様は、ヴォルク様が騎士将軍の位を戴くのと同時期に、現在の騎士隊長として昇格した。

 隊長自ら伝言を届けてくれるというのもどうかと思うが、一応私は騎士将軍の妻という肩書きもあるので、万一の事を考えてくれているのだろう。

 先日出会った時の、クライス様の言葉を思い出す。

『ヴォルク将軍は出来過ぎるんですよ。他の隊じゃ将軍職の人なんて内勤が主で、大事の時しか出てこないのに、未だ前線に出られるんですから』

 ヴォルク様ってなんだかんだ面倒見も良いし、あれでいて結構兄貴肌なところがあるから、他人が危険に晒されるくらいなら自分がって思っちゃうんだろうなー……。

 それに、常に同志達と供にあろうとするのは、今は遠く離れた友の事も関係しているんだろう。

 かといって、部下の成長を妨げる様な上司というわけでも無く、鍛錬や手合わせなどにも快く応じている事は私でも知っている。エレニーが指摘しているのは恐らく、クライス様や現副隊長が担うべき勤めの事を言っているんだろう。

 だってヴォルク様、未だに士隊の先陣を切っちゃうもんね。

 私としては正直、危ない目には極力あってほしくないし、出なくて良いなら出てほしくないと思う。だけど他の騎士様達のお相手の事を思えば、役職があるからといって、私達だけ安穏としているのもまた違うと思うのだ。

 わかっているからこそ止められないというのは、中々難儀である。

 答えの無い問いに、やはり待つしか無いのかと諦めモードに入りかけていると、今まで静かに佇んでいたエレニーが、髪と同じ紫紺の瞳を眇めながら口を開いた。

「そうですね……ではこうしましょう。一服盛ってやれば良いのです」

 ―――はっ?

 膝の上に長男レヴォルトを乗せたまま、エレニーはぽんっと軽く両手を合わせ、名案だと言わんばかりににっこりと、いつか見た極上の笑顔を浮かべた。

「ご安心下さいレオノーラ様。薬学に関しては心得が御座いますので。それに、軽い媚薬程度です」

 いや、あの。
 薬学と言いましても。
 貴女しかも今媚薬って言いました?

 媚薬に関する薬学って、それ一体どういった心得でしょうか……!?

「大丈夫ですよ。かなり調整しておきましたので、少し気持ちが昂ぶる程度です。将軍位に付く程の者なら、十分自制できるでしょう。血行促進の効果も御座いますので、疲労回復にも役立ちます」

 そう言われて、少々引っかかりつつも、なるほどそれならば……と納得した。
 いや、まあ既に準備済みなのは内心かーなーり驚き桃の木だったけれど。

 しかし、相手は何といってもヴォルク様だ。時々暴走することもあるが、基本は騎士の鏡とさえ言える忍耐力を持っている……筈。

 私の事を、三年も前から待っていてくれたのだから間違いない。

「何も反応が無ければ、普段と同じようにお過ごしになれば良いだけですわ。まあ……本当は一月程度、不能にしてやろうかと思っておりましたが」

 何やら語尾にやたら恐い台詞が付いていた気がしたが、とりあえず気のせいだと思うことにした。

 エレニーの言葉に背中を押され、私は心に抱いていた罪悪感を明後日の方向に押しやり、とりあえずやってみるか、と覚悟を決めた。

 が、そもそも私はここで重大な勘違いをしていたのだ。

 美麗な我が家のメイドが――ただの親切なメイドでは無かったのだということを。

◇◆◇

「っ……こ、これ、は……っ?」

 私は慌てていた。それはもう――かなり。

 ここまで慌てるのは、最近ではレヴォルトの出産以降無かったかもしれない。
 正直その位切羽詰まっている。むしろ、非常にまずい。

 ちょっと、待って。
 いや、ほんとに。本気と書いてマジで……! 
 だって……これはさすがに、効き過ぎじゃないですか!?エレニーさんっ!?

 内心でひいぃと悲鳴を上げながら、私は両手で自分の顔を覆った。ヴォルク様の表情を見て血相を変えるなんてことは、確かに今までにも何度かあったけれど――それは基本的に、自分が被害者であった時……いや言い方に語弊があるかもしれないが、とにかく今のように『加害者』として焦ることは、一度たりとも無かったのに。

 「っ……!」

 「ヴォルク様っ!」

 足下がふらついたヴォルク様の身体を咄嗟に受け止め、肩を貸し、なんとか寝台に腰掛けさせた。ついでに私も彼の隣に腰を下ろす。が、間近に見たヴォルク様の顔を前に、私の焦りが頂点へと達した。

 ええええ。ちょっとちょっとエレニーさんっ……!?
 気持ちが昂ぶる程度って言ってた割に、何かヴォルク様の顔真っ赤なんですけど……!? しかも、もの凄く息も上がってるんですけど……!?どゆ事ーーーっ!?

 「レオノーラ……っ?これは、一体……っ?」

 ヴォルク様が、荒い息をしながら夜着姿の自分の胸を片手でぐっと押さえ込むように掴む。その姿は、苦しいというより辛そうに見えて、私は自分のしでかしてしまった事を心の底から後悔した。

 「そ、その……っ」

 思い切り声を上擦らせながら、私は直前の出来事を脳内で反芻していた。
 それは、今日偶々いつもよりちょっとだけ早く帰宅してくれたヴォルク様と、夫婦の寝室で過ごしていた今し方の事である。
 
 エレニーの「寝酒と称してほんの少し仕込めば良いのです」という悪魔――もとい魔女の囁きに抗えず、私は彼女から貰った薬を二・三滴ヴォルク様の杯の中に落とし入れたのだ。

 ……そう、 二・三滴。
 ぽたぽたと、雫を入れた。

 って、これどんだけ効き目あるのっ!?

「ああああの、エレニーが、そのっ、夫婦仲が良くなるお薬、というのを作ってくれまして……っ!ほ、本当に、すみませんっ……!」

「夫婦仲……っ?と、いう、事は……」

 私の言い訳――もとい弁明に、ヴォルク様が何かを察したように一瞬蒼い瞳を見開き、その後短い呼吸を落ち着かせる様に深い息を吐いた。
 彼のいつもきりりとした銀色の眉は今や悩ましげに顰められ、頬は上気し赤みを帯びている。その上、お風呂上がりのために綺麗な銀髪は濡れて輝きを増し、荒い呼吸で揺れる肩の上できらきらと光っていた。

 うわーーっ!うわーっ!
 ヴォルク様色っぽいっ……!じゃなくて!

 この状態、どうしたらいいんでしょうかっ……!?

 お色気大爆発の夫に興奮しつつ(私は変態か)しかし内心後悔と罪悪感で大焦りでいると、ヴォルク様が潤んだ蒼い瞳でじっと私を見つめ、なぜか辛さよりとても困った表情で口を開いた。

「それ、でっ……レオノーラ」

「はははははいっ!」

 返事を返せば、ヴォルク様は胸に押し当てていた腕をすっとこちらに伸ばし、その手でとんっと私の身体を軽く押した。

「へっ?」

 案の定、私はぽすんと間抜けな音を立て、寝台に倒れてしまう。
 仰向けの状態で見たヴォルク様は――なぜか、私の上に覆い被さってきていた。

 ――あれ?

「君は……俺がこれを飲んだ後、自分が一体どうなるのか……わかって、いる……っのか?」

 ヴォルク様の熱に浮かされた綺麗なお顔が完全に私の真上に来た頃、そう問いかけられて。
 一瞬思考が停止し――そして、その言葉の意味に思い当たる。

 ――あ。
 ああああああああああっ!?

 こ、これは……!
 もしや……は、嵌められた―――っ!?

 切なげなヴォルク様の瞳を見返しながら、さあぁっと自分の血の気が引いていく気がした。
 それから、つい先日エレニーが口にしていた台詞を思い出す。

 確か……『レヴォルト様も健やかにお育ちですし、私も、もうお一人位は十分にお世話させて頂けるのですが』とかなんとか、言ってたような……!

 いや、言ってた!めっちゃ言ってた!
 そ、そういう事かーっ!

「ちょ、待っ……っ!!」

「すまんっ無理だっ……!」

 驚き慌てふためく私の言葉は、ヴォルク様の熱い吐息と共に口付けでもって封じ込まれた。

 その後は――まあ……推して知るべし、といったところである。

 一つだけ救いだったのは、まさかの「ヴォルク様、実は明日から休暇でした」という事実だろうか。なんというか、たぶん、いや恐らく彼女はその事を知っていたのだろうと思うと……とても、とても恐ろしい気持ちになるのは、私だけでは無いだろう。

「待っ……ってくださ……も、無理……っ」

「悪いが、それは聞けん……っ」

 ―――かくして、ヴォルク様の休暇も終わる最終日。

 私達は「二人目のお顔を拝見するのが楽しみですわ」と優雅に微笑む魔女……いやメイド、エレニーを前に二度と下手な事はすまいと互いの心に固く誓うのであった。

 ……もう二度と、魔女の一計には嵌まりません……!

<終>
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