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エリシエル×ユリウス外伝
幕間~ユリウスside~白金の少年は、光の少女に恋をする。中幕
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「エリシエルお嬢様は、レグナガルド家の嫡子に想いを寄せられているようです」
当時手駒として使っていた使用人の一人がそう知らせてきたのは、僕が十八歳になった年だった。
聞いた瞬間、心の何かが焼き切れ、燻る炎のような怒りが燃え上がっていくのを感じた。
目の前の景色が赤く染まり、身体は勝手に動き出していて。
報告を持ってきた使用人の制止の声も聞かず、僕は部屋を飛び出し長い回廊を駆けていた。
自分の身体だというのに、なぜか止める事が出来なかったのだ。
身勝手な話だ。
僕はエリシエルの事を避けながらも、ずっと彼女を目で追い続けていた。
与えられた客室の窓から、カーテンの隙間から、彼女を見つめ、その度に心震わせていた。
時折僕の視線に気付いたエリシエルが顔を上げ、視線が交わることもあった。
そんな些細な事に歓喜を感じる自分を嫌悪したりもした。
不毛で、醜悪で、浅ましい執着心を彼女に抱いていた。
……僕は、自分の愚かさに辟易していた。
十三歳を迎え、花開く為の蕾となったエリシエルは、その輝かしいまでの美貌を周囲に褒め称えられ、華やかな社交界で注目の的になるであろうと人々に噂されていた。
濃い金髪はたわわに実る稲穂の海ごとく豊かになり、淡く色づいた唇をのせた肌は、滑らかな絹のように白く清らかで。
真紅の薔薇の蕾を連想させるのに、少女らしく無垢で明朗な彼女は、本人が知らぬ間に多くの者を魅了していた。
恐らく、王国筆頭貴族として一切の奢りが無い彼女の父、ダリアス=プロシュベール公爵からの厳しい教えも、彼女をより魅力的に見せていた原因だろう。
エリシエルは人を穿った目で見ない。
西王国イゼルマールで、王族に次ぐ貴い身分を持っていても、等の本人はどちらかと言えば容姿はともかく中身はお転婆な少女のままだった。
見た目は高貴な華のようでいて、けれど内面は川辺に咲く野花のごとく清らかで。
そんな彼女に、想う男が現れた。
事実を突き付けられた後、気が付いた時には僕は、彼女の唇を無理やり奪ってしまっていた。
◆◆◆
かつて、プロシュベール家に仕えていた庭師の息子と彼女が遊んでいた時も、同じような感情が僕を支配した。
エリシエルを避けるようになって、すぐの事だ。
庭園で笑い合う二人の姿に、僕は思わず割り入って彼女をソイツから引き剥がした。
正直驚いていた。
あの時はまだ、自分がどうしてそんな事をしたのか理解していなかったから。
『そんなに私が嫌いなの?私が何をしたの?こんな風に嫌がらせして、楽しいの?』
湖色の瞳に、溢れんばかりの雫を溜めたエリシエルからそう言われた瞬間、僕は衝撃で喉を詰まらせた。
確かに彼女を避けていた。自分以外と親密になって欲しくなくて、他の人間と関わるのを邪魔した。
幼い彼女が、その行為を「自分を嫌っているから」だと理解しても不思議では無かった。
むしろそう思わせなければいけなかったのだ。彼女を僕に近づけさせないために。
エリシエルを、僕の陳腐な復讐劇に巻き込まないために。
けれど、ヴォルク=レグナガルドの出現で僕の感情は抑える事が難しくなってしまった。
彼女が恋する男だと聞いた瞬間、裂けるような、切り刻まれるような痛みに襲われ、思考がエリシエルの事だけで埋め尽くされたのだ。
レンティエル伯へ抱く憎悪や怨毒とは違う、焦げ付くような感情。
僕は自分の心を見誤っていた。
近づかなければ、避けていれば、彼女へ抱いた僅かな想いはやがて、僕が歩むべき道の隅に追いやることが出来ると思い込んでいた。捨てることが出来る筈だと。ほんの少しの「僕」自身の想いなど、いつかは切り捨てられる筈だと。
けれど。
時折見る彼女の姿に、僕を見るときの哀し気な瞳に、僕は無意識の内に恐ろしい感情を深めていたらしい。
―――彼女を、僕の心から消し去りたい。
―――けれど、彼女が愛しくて仕方がない。
彼女の唇を無理矢理奪いながら、僕の心は二つの思いに蝕まれていた。
当時手駒として使っていた使用人の一人がそう知らせてきたのは、僕が十八歳になった年だった。
聞いた瞬間、心の何かが焼き切れ、燻る炎のような怒りが燃え上がっていくのを感じた。
目の前の景色が赤く染まり、身体は勝手に動き出していて。
報告を持ってきた使用人の制止の声も聞かず、僕は部屋を飛び出し長い回廊を駆けていた。
自分の身体だというのに、なぜか止める事が出来なかったのだ。
身勝手な話だ。
僕はエリシエルの事を避けながらも、ずっと彼女を目で追い続けていた。
与えられた客室の窓から、カーテンの隙間から、彼女を見つめ、その度に心震わせていた。
時折僕の視線に気付いたエリシエルが顔を上げ、視線が交わることもあった。
そんな些細な事に歓喜を感じる自分を嫌悪したりもした。
不毛で、醜悪で、浅ましい執着心を彼女に抱いていた。
……僕は、自分の愚かさに辟易していた。
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濃い金髪はたわわに実る稲穂の海ごとく豊かになり、淡く色づいた唇をのせた肌は、滑らかな絹のように白く清らかで。
真紅の薔薇の蕾を連想させるのに、少女らしく無垢で明朗な彼女は、本人が知らぬ間に多くの者を魅了していた。
恐らく、王国筆頭貴族として一切の奢りが無い彼女の父、ダリアス=プロシュベール公爵からの厳しい教えも、彼女をより魅力的に見せていた原因だろう。
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そんな彼女に、想う男が現れた。
事実を突き付けられた後、気が付いた時には僕は、彼女の唇を無理やり奪ってしまっていた。
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あの時はまだ、自分がどうしてそんな事をしたのか理解していなかったから。
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湖色の瞳に、溢れんばかりの雫を溜めたエリシエルからそう言われた瞬間、僕は衝撃で喉を詰まらせた。
確かに彼女を避けていた。自分以外と親密になって欲しくなくて、他の人間と関わるのを邪魔した。
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むしろそう思わせなければいけなかったのだ。彼女を僕に近づけさせないために。
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けれど。
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―――けれど、彼女が愛しくて仕方がない。
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