67 / 132
File.6
スキアの本性
しおりを挟む
─
「クックックッ……貴方が僕の相手ですか」
塔に設置してある転移陣に乗って送られた階には、当然の如く敵が待ち構えていました。
まぁ、想定内の事態ですが。
長いテーブルに乱雑に置かれた料理の脂っこい匂いに、露骨に顔を顰めた。茹で卵の一つでもあれば許したものを……不愉快な。
「おう、随分とナヨそうなのが来たな!ギルドってのは余程人手不足ってか?!ハハハッ!!」
この頭の悪そうな巨漢の魔族は、体長程の巨大な剣を肩に担いで笑う。汚らしい肌色と弛んだ巨躯、魔族の中でもオークと呼ばれる種類の、その上位個体だろう。
「ええ、そのようで。僕が出なければならないということは、そうなんでしょうね」
言いながら、魔装具【骸】を手に取った。鍔の頭蓋骨が、嗤うように口を開いて軋んだ音を立てる。
「そんな黒い棒っきれでやろうたぁ、随分ナメてくれるじゃねぇか」
「ククッ!これは、湾刀ですよ。極東島ではカタナ、というらしいですが。勉強不足ですね」
「んなことぁ、どうでも良いんだよッ!!」
噂に違わぬ知能の低さに思わず失笑してしまったのが気に障ったのか、いきなり巨大な剣を振り下ろしてきた。
──ドガァァアッ!!
周りのテーブルごと巻き込んだ一振りを軌道上から少し退いて難なく回避すると、当たり散らすように横薙ぎの一撃が迫っていた。
「ククク……食欲自慢のオークが食べ物を粗末にするなんて、感心しませんねぇ」
「黙れコラァ!!」
次の攻撃も、その次も、見切るまでもない。ただ、強烈な暴風を伴って奮われる攻撃の数々は回避したはずの僕の服を少し切っていく程度のものだ。脅威ではないが、鬱陶しい。
「やれやれ。まずはその面倒な攻撃を止めて頂くとしましょうか」
「はぁ?!止めるわけねぇだろ!!」
──ゴォオッ!!
天井に届くほど振り上げられた大剣が、凄まじい速度で頭を目掛けて急降下してくる。特に構える必要もない、力任せの一撃を骸で弾き飛ばした。
「やれやれ。貴方、足止めの役にも立てていませんねぇ?まぁ、ただのオークでは仕方ないですが。ククク……」
甲高い音を立ててあらぬ方向へ飛ばされた大剣が壁面へ突き刺さるのを、オークは間抜けな顔で呆然と僕を見つめている。
「なっ、なんだとぉ?!オレはオーク部隊の……ッ」
「まぁせっかくですし、冥土の土産に良いものを見せてあげましょうか。久しぶりに斬り甲斐のある肉が目の前にありますから……クックックッ!」
「な、何を言ってやがる……?!」
狼狽えるオークを無視し、普段は出すことの出来ない、僕の本当の姿を解放する。それを顕にしていくにつれ、相手は後退りを始めた。
「末端の使い捨てに見せるには少し勿体無い気もしますが、まぁいいでしょう……」
側頭部から捻れた角が生え、背中からは蝙蝠を思わせる黒い翼。全身に走る黒い魔法紋が僕の体に行き渡る。
「さぁ、まずは左手の指からですよ」
「お、お前まさか……?!ぎゃぁぁああああッ!!!!」
音もなく切り落とされたオークの指が、ボトボトと床に落ちる。次は手首、腕。
巨躯に見合う太い骨を刃が断つ時の感触が、たまらなく心地よい。
「クックックッ!貴方は魔王軍に必要ない。弱すぎる」
そう言って、もう片方の手に取り掛かろうとすると、出鱈目に殴りかかってきた。
「う、うぉぉおおお!!」
「活きが良いですねぇ。ですが……ッ」
その腕もさっきと同じように切り落とした。吹き出した血が降り掛かるのも、何だか懐かしい。ここ数年はずっと我慢していた影響だろうか。
「は、はぁっ!もう、勘弁してください!ゆ、許して……」
「ククッ!ええ、良いですよ。ちゃんと、死んで頂けるようにしますから」
自らの血で滑って尻餅をついて懇願する汚い肉の表情は、絶望に染まる。恍惚とした気分が僕を満たした。本当は人間にやりたかったけれど、今はこれで我慢するとしましょう。
「ぎゃぁぁぁぁああああああ痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!助け、た、助けてください!!!!」
「おやおや、別にこれは拷問などではありませんよ」
爪先、足首、脛、膝を、今度はゆっくりと鋸で断つように落とした。両足が終わる頃には、オークの悲鳴も枯れ果てて、無反応になってしまった。気絶してしまったのだろうか。
「ククク……さぁ、起きてください。やっと死ねます」
肋骨の間に刺し込んだ切っ先を捻ると、反応が戻る。
「あ゛……あが……あり、が……と」
「おやすみなさい」
今から命を取られるというのに、オークは虚ろな目で安堵のような、満足気な表情を浮かべたのだった。
ゾクリ、と肌が粟立つ。醜いコイツでも、そこそこの愉悦は味わえるんですね。
──スパァッ!!
僕の一閃で頭から両断されたオークは、そのまま物言わぬ肉塊へと成り果てた。
「よき終末を」
返り血を拭うと、再び力を封じ込めた。時が来るまで、今度は本当に封印しよう。
次に解放する時こそ、僕の悲願を叶える為に。それまでは、これっきりにしなければ。
「クックックッ……クッハッハッハッ!!」
ただ今は、この高揚した気分に身を任せよう。歪んだ口元から溢れる笑いは、暫く収まりそうもない。
僕は必ず【貴女】と再会する。
「クックックッ……貴方が僕の相手ですか」
塔に設置してある転移陣に乗って送られた階には、当然の如く敵が待ち構えていました。
まぁ、想定内の事態ですが。
長いテーブルに乱雑に置かれた料理の脂っこい匂いに、露骨に顔を顰めた。茹で卵の一つでもあれば許したものを……不愉快な。
「おう、随分とナヨそうなのが来たな!ギルドってのは余程人手不足ってか?!ハハハッ!!」
この頭の悪そうな巨漢の魔族は、体長程の巨大な剣を肩に担いで笑う。汚らしい肌色と弛んだ巨躯、魔族の中でもオークと呼ばれる種類の、その上位個体だろう。
「ええ、そのようで。僕が出なければならないということは、そうなんでしょうね」
言いながら、魔装具【骸】を手に取った。鍔の頭蓋骨が、嗤うように口を開いて軋んだ音を立てる。
「そんな黒い棒っきれでやろうたぁ、随分ナメてくれるじゃねぇか」
「ククッ!これは、湾刀ですよ。極東島ではカタナ、というらしいですが。勉強不足ですね」
「んなことぁ、どうでも良いんだよッ!!」
噂に違わぬ知能の低さに思わず失笑してしまったのが気に障ったのか、いきなり巨大な剣を振り下ろしてきた。
──ドガァァアッ!!
周りのテーブルごと巻き込んだ一振りを軌道上から少し退いて難なく回避すると、当たり散らすように横薙ぎの一撃が迫っていた。
「ククク……食欲自慢のオークが食べ物を粗末にするなんて、感心しませんねぇ」
「黙れコラァ!!」
次の攻撃も、その次も、見切るまでもない。ただ、強烈な暴風を伴って奮われる攻撃の数々は回避したはずの僕の服を少し切っていく程度のものだ。脅威ではないが、鬱陶しい。
「やれやれ。まずはその面倒な攻撃を止めて頂くとしましょうか」
「はぁ?!止めるわけねぇだろ!!」
──ゴォオッ!!
天井に届くほど振り上げられた大剣が、凄まじい速度で頭を目掛けて急降下してくる。特に構える必要もない、力任せの一撃を骸で弾き飛ばした。
「やれやれ。貴方、足止めの役にも立てていませんねぇ?まぁ、ただのオークでは仕方ないですが。ククク……」
甲高い音を立ててあらぬ方向へ飛ばされた大剣が壁面へ突き刺さるのを、オークは間抜けな顔で呆然と僕を見つめている。
「なっ、なんだとぉ?!オレはオーク部隊の……ッ」
「まぁせっかくですし、冥土の土産に良いものを見せてあげましょうか。久しぶりに斬り甲斐のある肉が目の前にありますから……クックックッ!」
「な、何を言ってやがる……?!」
狼狽えるオークを無視し、普段は出すことの出来ない、僕の本当の姿を解放する。それを顕にしていくにつれ、相手は後退りを始めた。
「末端の使い捨てに見せるには少し勿体無い気もしますが、まぁいいでしょう……」
側頭部から捻れた角が生え、背中からは蝙蝠を思わせる黒い翼。全身に走る黒い魔法紋が僕の体に行き渡る。
「さぁ、まずは左手の指からですよ」
「お、お前まさか……?!ぎゃぁぁああああッ!!!!」
音もなく切り落とされたオークの指が、ボトボトと床に落ちる。次は手首、腕。
巨躯に見合う太い骨を刃が断つ時の感触が、たまらなく心地よい。
「クックックッ!貴方は魔王軍に必要ない。弱すぎる」
そう言って、もう片方の手に取り掛かろうとすると、出鱈目に殴りかかってきた。
「う、うぉぉおおお!!」
「活きが良いですねぇ。ですが……ッ」
その腕もさっきと同じように切り落とした。吹き出した血が降り掛かるのも、何だか懐かしい。ここ数年はずっと我慢していた影響だろうか。
「は、はぁっ!もう、勘弁してください!ゆ、許して……」
「ククッ!ええ、良いですよ。ちゃんと、死んで頂けるようにしますから」
自らの血で滑って尻餅をついて懇願する汚い肉の表情は、絶望に染まる。恍惚とした気分が僕を満たした。本当は人間にやりたかったけれど、今はこれで我慢するとしましょう。
「ぎゃぁぁぁぁああああああ痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!助け、た、助けてください!!!!」
「おやおや、別にこれは拷問などではありませんよ」
爪先、足首、脛、膝を、今度はゆっくりと鋸で断つように落とした。両足が終わる頃には、オークの悲鳴も枯れ果てて、無反応になってしまった。気絶してしまったのだろうか。
「ククク……さぁ、起きてください。やっと死ねます」
肋骨の間に刺し込んだ切っ先を捻ると、反応が戻る。
「あ゛……あが……あり、が……と」
「おやすみなさい」
今から命を取られるというのに、オークは虚ろな目で安堵のような、満足気な表情を浮かべたのだった。
ゾクリ、と肌が粟立つ。醜いコイツでも、そこそこの愉悦は味わえるんですね。
──スパァッ!!
僕の一閃で頭から両断されたオークは、そのまま物言わぬ肉塊へと成り果てた。
「よき終末を」
返り血を拭うと、再び力を封じ込めた。時が来るまで、今度は本当に封印しよう。
次に解放する時こそ、僕の悲願を叶える為に。それまでは、これっきりにしなければ。
「クックックッ……クッハッハッハッ!!」
ただ今は、この高揚した気分に身を任せよう。歪んだ口元から溢れる笑いは、暫く収まりそうもない。
僕は必ず【貴女】と再会する。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる