追放王子は香草師にかまわれたい

琉希

文字の大きさ
3 / 89

第3話『接触』

しおりを挟む
 凶器を突きつけられたレヴィンは、乾いた唇を湿らせて言った。

「……友人だと思ったんだ」

 自分でも思いがけないほど、弱々しい声が出た。脅されているという恐怖ではなく、哀しみが滲んだのだ。
 レヴィンの答えにしばし間が空いた後、背にあたっていたものが離れた。近くに感じていた人の気配が遠ざかる。

「顔を見せろ」

 冷たい声に、レヴィンは言われた通りフードをとって、振り返った。

 生い茂った樹木の葉から零れるように、午後の陽射しが二人の間に割って入る。

 彼らの視線が合ったとき、黒髪の青年が息を呑んだのがわかった。

 レヴィンがフードで隠していたものは、己の髪の色だった。

 黒い髪も珍しくはあるが、自分の髪はもっと珍しい朱色だった。強い視線を感じた。
 
 レヴィンもじっくりと彼を見た。
 
 黒い髪と同じ黒い瞳。東国の民は切れ長の目が多いときくが、彼の目はくっきりとしていた。細面で鼻筋の通った顔。やはり、リウによく似ている。
 
 レヴィンが目線を下にずらすと、彼が右手に持っていたものを知り、空を仰ぎそうになった。ナイフで脅されていると思っていたが、先の尖った長い枝だった。

 彼はレヴィンに危害を加える気はなかったのだ。もし、自分がナイフを抜いていたら、どうするつもりだったんだと、逆に心配になった。呆れ半分で、もう一度、彼の顔を見直した。
 
 この朱色の髪を見て、子どもの頃のように愛称を呼んでくれるかと期待したが、彼は何も言わなかった。レヴィンは静かに話しかけた。

「……きみは、リウではないのか?」

 食い入るようにレヴィンを見ていた彼は、ハッとしたようだった。

「人違いだって言ったろ」
「だったら、きみの名を教えてほしい」

 沈黙が流れる。

 森に近いせいか、鳥の鳴き声がやけに響いて聴こえた。
 緊張を破ったのは黒髪の青年だった。右手に持っていた枝を道端に投げると、おもむろにズボンのポケットに手を入れた。レヴィンが目を離さずにいると、ポケットから手を出し、何かをレヴィンに向かって投げた。

 反射的に右腕で顔をかばう。
 投げられた物が後ろの木に当たり、コツンと音がした。音のした方を振り返ると、真後ろの木の根元には、彼が投げたと思われる木の実が転がっていた。訝しげに半身を戻すと、黒髪の青年は林道を外れ、森の中に駆け込んでいた。

「待ってくれ!」

 慌てて追いかけて森に入ったが、すでに遅かった。

 目を離したわずかな隙に、もう彼の姿は見えなくなっていた。レヴィンはそれ以上、踏み込むのをやめた。昼間であっても鬱蒼として暗い。土地勘のない森に入るのは危険だった。
 
 レヴィンは林道に戻り、ため息をついた。
 
 逃げられてしまった。
 
 木の枝で脅され、投げた物に気を取られた。どちらも子ども騙しだ。それに引っ掛かった自分が情けなく、レヴィンはフードをかぶって顔を隠した。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。 しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。 迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。 手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。 これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。 ──運命なんて、信じていなかった。 けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。 全8話。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

聖者の愛はお前だけのもの

いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。 <あらすじ> ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。 ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。 意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。 全年齢対象。

処理中です...