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第20話『頼まれごと』

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 香草茶を蒸らしていると、ちょうどよくクオンが出てきた。ロッドを見て顔を綻ばせた。

「来てたのか」

 クオンは背伸びをした。ロッドは持ってきた麻の袋を探り、取り出したものをテーブルに置いた。

「チーズ。あと燻製肉」
「助かる。何がいる?」
「腹イタ止めと熱さまし。頭痛止めもあれば。あとなんでもいいから香草茶」

 ロッドが小袋を渡すと、クオンは調合の部屋に行った。さほど時間もかからず、戻ってきて中身の説明をした。
 慣れたやりとりをレヴィンは黙って見ていた。ロッドはもらった薬草茶を麻袋にしまいながら言った。

「そういえば、トレイの村の奴が、クオンが来ないって心配してたぞ」

 トレイの村とは街から一番近い水車のある村のことだ。二又の道を右に行った先にある。レヴィンが一度行って、怪しまれたところだ。

 クオンは「あー」と言いながら、首を触った。

「あそこに行くには薬草が足りなかったんだよな。わかった、近いうちに行くよ」

 クオンが言うと、ロッドが首を傾げた。

「足りないって、薬草が? 今の時期に?」

 クオンはレヴィンの顔をちらっと見た。レヴィンは、あ、と思った。そこでクオンはレヴィンが拾ってきた兎が駆けまわったことを話した。それを聞いたロッドは大笑いした。

「笑いごとじゃない。こいつが悪いわけでもないから、怒りのぶつけどころがない」

 兎配合茶を飲まされたことで、怒りはしっかりぶつけられているとレヴィンは思ったが、口にはしなかった。

「けど不思議だな。兎はなんで気を失ってたんだ? その様子だと死にかけてたわけじゃなさそうだけど」

 ロッドの疑問にクオンが答えた。

「たぶん、昏睡草を食べてしまったんだろ。あれは一時的に気を失うからな」
「まぬけな兎だな」

 クオンとロッドは笑ったが、レヴィンはそんな草があるのかと思った。
 香草茶を飲み終わったところで、ロッドは帰っていった。雲で陽が少し翳っている。玄関先で友人の後ろ姿を見送るクオンを見て、レヴィンもそろそろ帰ろうと思った。茶器を片付けようとしたとき、クオンが振り返った。

「あのさ、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
「なんだ?」

 クオンは遠慮がちに言った。

「レイトンの街でお菓子を買ってきてくれないか」
「菓子? どれくらいだ?」
「五、六人がひとくち食べるくらいでいいんだ。あまり高いものは無理なんだけど」
「明日でもいいか?」

 クオンはうなずいて、「金は払う」と言った。レヴィンには大した額ではないので適当に理由をつけて自分が払ってもよかった。しかし、それだと断られそうな気がした。
ふと、レヴィンに妙案が浮かんだ。クオンに負担をかけない方法だ。「だったら、」と返す。

「屋敷で焼いた菓子があるから、それを持って来よう。それなら金はいらない」

 レヴィンの提案に、クオンは迷うように目を動かしたあと、小さく笑った。

「……悪いな。ありがとう」

 そう言ったクオンは心なしか寂しそうに見えた。それがなぜなのかは、レヴィンにはわからなかった。
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