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第63話『夫人の厚意』
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クオンは唾を呑んだ。
金は出すから、もっとたくさん作って欲しいということだろうか。ヨーク夫人は続けて言った。
「殿下とクオンさんは御友人なのでしょう? お話をしてみてわかったのだけれど、あなたはお金に困っても、殿下を頼ったりする方ではないと思うわ。それなら、わたくしのようにクオンさんのお茶贔屓の者からなら、お金を受け取れるのではないかしら」
なるほど、と思った。自分が大量に作らない理由をそのように捉えていたのか。
クオンは得心がいき、口元を緩めた。
「ありがとうございます。俺のこと考えてくれて、うれしいです。ですがこれ以上作れない理由はお金じゃないんです」
ヨーク夫人は小首をかしげた。
クオンは薬草茶作りが本職と思ってやっていること、近隣の村で自分の薬草茶を待っている人がおり、そちらを疎かにしてまで紅茶作りをする気はないことを伝えた。
「紅茶を作る方が儲かることはわかっているんですけど……」
クオンが申し訳ありません、と頭を下げるとヨーク夫人は大きく首を振った。
「そうだったの。そんなことも知らずに、とても失礼なことを言ったわ。気を悪くされたかしら。ごめんなさいね」
おろおろする夫人は少女のように可愛らしかった。クオンは微笑んだ。
「いえ、かまいません。ですが、今のお話は本当に紅茶が欲しいというだけですか? 他にも何か理由があるんじゃありませんか」
ヨーク夫人は驚いたように、小さく口を開けた。クオンは真顔で言った。
「この紅茶はすべてヨーク夫人が買ってくれています。紅茶がなくなる頃には補充できるように作っているつもりです。これ以上多く作る必要がどこにあるのでしょうか」
隣に座っているレヴィンは指を組み、クオンを見ていた。口を出す気はないらしい。
すると、夫人は苦笑いした。
「そうね、少し不自然だったかしら。でもね、他意はないのよ。わたくしは主人を亡くしているし、子供もいないの。だけど財産だけはあるわ。それなら将来有望な方の支援をしたいと思っていてね。
クオンさんの作るものはとても素晴らしい。わたくし以外にも買う者は必ず出てくるし、多くの人に広めたいの。だからあなたに投資したいと思ったのよ。最初からそう言えばよかったわね」
ヨーク夫人は目元をやわらかくして言った。
クオンは胸が熱くなった。これほど自分の紅茶を高く評価してくれるとは思っていなかった。
「だからクオンさん。もしなにか困ることがあれば、なんでも言ってちょうだいね。お金以外のこともよ。殿下もご承知おき下さいましね」
にっこりと笑った夫人は、深い皺に慈しみの表情を滲ませていた。まさに人格者というべき人だ。
クオンが礼を言おうとしたそのとき、扉が叩かれ、若い家令が入ってきた。
「奥方様。皆様がお揃いです」
皆様というのは品評会の審査員である貴族のご婦人方のことだろう。
「あら、もうそんな時間」と言って、ヨーク夫人は胸に手をあて、お辞儀をした。
「では、わたくしは先に失礼させていただきます。どうぞごゆっくりなさっていってくださいましね」
立ち上がろうとした夫人は、ふと思い出したようにレヴィンを見た。
「殿下。大変恐縮ではありますが、お帰りになる前に少しだけ、会場に顔を出してくださいませんか」
レヴィンはうなずいた。
「ええ、そのつもりです。長居はしませんが」
「そうですね。その方がいいかと思われます。今日のお召し物は大変素敵ですけれど、女には目の毒ですわ」
ふふふ、と笑いながら「今日は若い子を呼んでいなくてよかったわ」と言って部屋を出て行った。
金は出すから、もっとたくさん作って欲しいということだろうか。ヨーク夫人は続けて言った。
「殿下とクオンさんは御友人なのでしょう? お話をしてみてわかったのだけれど、あなたはお金に困っても、殿下を頼ったりする方ではないと思うわ。それなら、わたくしのようにクオンさんのお茶贔屓の者からなら、お金を受け取れるのではないかしら」
なるほど、と思った。自分が大量に作らない理由をそのように捉えていたのか。
クオンは得心がいき、口元を緩めた。
「ありがとうございます。俺のこと考えてくれて、うれしいです。ですがこれ以上作れない理由はお金じゃないんです」
ヨーク夫人は小首をかしげた。
クオンは薬草茶作りが本職と思ってやっていること、近隣の村で自分の薬草茶を待っている人がおり、そちらを疎かにしてまで紅茶作りをする気はないことを伝えた。
「紅茶を作る方が儲かることはわかっているんですけど……」
クオンが申し訳ありません、と頭を下げるとヨーク夫人は大きく首を振った。
「そうだったの。そんなことも知らずに、とても失礼なことを言ったわ。気を悪くされたかしら。ごめんなさいね」
おろおろする夫人は少女のように可愛らしかった。クオンは微笑んだ。
「いえ、かまいません。ですが、今のお話は本当に紅茶が欲しいというだけですか? 他にも何か理由があるんじゃありませんか」
ヨーク夫人は驚いたように、小さく口を開けた。クオンは真顔で言った。
「この紅茶はすべてヨーク夫人が買ってくれています。紅茶がなくなる頃には補充できるように作っているつもりです。これ以上多く作る必要がどこにあるのでしょうか」
隣に座っているレヴィンは指を組み、クオンを見ていた。口を出す気はないらしい。
すると、夫人は苦笑いした。
「そうね、少し不自然だったかしら。でもね、他意はないのよ。わたくしは主人を亡くしているし、子供もいないの。だけど財産だけはあるわ。それなら将来有望な方の支援をしたいと思っていてね。
クオンさんの作るものはとても素晴らしい。わたくし以外にも買う者は必ず出てくるし、多くの人に広めたいの。だからあなたに投資したいと思ったのよ。最初からそう言えばよかったわね」
ヨーク夫人は目元をやわらかくして言った。
クオンは胸が熱くなった。これほど自分の紅茶を高く評価してくれるとは思っていなかった。
「だからクオンさん。もしなにか困ることがあれば、なんでも言ってちょうだいね。お金以外のこともよ。殿下もご承知おき下さいましね」
にっこりと笑った夫人は、深い皺に慈しみの表情を滲ませていた。まさに人格者というべき人だ。
クオンが礼を言おうとしたそのとき、扉が叩かれ、若い家令が入ってきた。
「奥方様。皆様がお揃いです」
皆様というのは品評会の審査員である貴族のご婦人方のことだろう。
「あら、もうそんな時間」と言って、ヨーク夫人は胸に手をあて、お辞儀をした。
「では、わたくしは先に失礼させていただきます。どうぞごゆっくりなさっていってくださいましね」
立ち上がろうとした夫人は、ふと思い出したようにレヴィンを見た。
「殿下。大変恐縮ではありますが、お帰りになる前に少しだけ、会場に顔を出してくださいませんか」
レヴィンはうなずいた。
「ええ、そのつもりです。長居はしませんが」
「そうですね。その方がいいかと思われます。今日のお召し物は大変素敵ですけれど、女には目の毒ですわ」
ふふふ、と笑いながら「今日は若い子を呼んでいなくてよかったわ」と言って部屋を出て行った。
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