追放王子は香草師にかまわれたい

琉希

文字の大きさ
66 / 89

第66話『クオンとロッド』

しおりを挟む
 玄関にいたヨーク家の使用人から旅装束のコートを受け取ったレヴィンは、羽織りながら尋ねた。

「黒い髪の人がここを通っただろう。どちらに行ったかわかるか」

 使用人は街の中心部を指さした。クオンは自分の服をレヴィンの屋敷に置いてきている。家に帰る気なら丘に向かうはずだ。街のどこかにいる。

 レヴィンはクオンを探して走った。

 商店が並ぶ通りの道を見回しながら、街行く人に「黒髪の人を見なかったか」と訊いた。人の事は言えないが、彼が特徴のある髪をしていてよかったと思う。何度も首を振られたが、噴水の近くで川の方で見たという人がいた。

 レイトンの東側には川が流れていて、近くに公園がある。公園の先に川があった。

 樹木が立ち並ぶ公園の中を走っていると、公園を抜ける手前で藍色の服が見えた。柵に体を預けながら、川をのぞき込んでいる。

 呼びかけようとしたとき、「クオン!」と別の方角から声が飛んで来た。

 クオンは呼ばれた方に顔を向け、軽く手を上げた。横顔に優しげな笑みが浮かんでいる。

 川沿いに歩いてきたのはロッドだった。レヴィンは咄嗟に大きな木の陰に隠れた。

「珍しいな、こんなとこで」

 とロッドは言った。樹木に背を預け、レヴィンは耳をそばだてた。

 二人の会話が聞こえてくる。

「服、かっこいいじゃん。レヴィンにもらったのか」
「そう。どう、貴族に見える?」
「ん~、似合ってっけど、貴族っぽくはない」

 ロッドの声は笑っていて、クオンも「だよな」と笑った。

「レヴィンはどうしたんだ?」
「貴族の相手してる」
「へえ。で、終わるまで時間潰してんのか」

 二人の掛け合いを聞きながら、隠れる必要などなかったなと思う。レヴィンが出ていこうとしたとき、ロッドが神妙な声で言った。

「あのさ。このまえ言ってたこと、本気か」

 身を出そうとした体が止まる。なんだろう、と気になった。

「一年付き合ったんだ。いい加減、引き際だろ」

 レヴィンは小さく目を開いた。

 え? と思った。

 さらにクオンの声色が低くなった。

「これ以上懐かれても困る。それにあいつはやんごとなき身分だしな」

 どく、と心臓が鳴った。

 かすかに震えた指を丸め、息を呑む。

「レヴィンは身分とか気にするような奴じゃないだろ。それはクオンの方がよくわかってんじゃないのか」
「……そうだな。俺が気にしてるだけだ」

 レヴィンの口の中が急速に乾いていった。「なあ」とクオンが言った。

「あの子、元気か?」
「ああ。おまえのこと心配してた。会いに来いよ……って、まあ、無理か」

 レヴィンは固まったまま、二人の会話を聞いていた。

 天頂をとうに過ぎた陽の光が目に刺さる。

「クオン。もう少しだけ時間をくれないか。俺、まだ不安で……」
「もう少しってどれくらいだよ。大体、なんであの子の気持ちを疑うんだよ。信じてやれよ」

 クオンの口調は責めていた。ロッドがぼそりと言った。

「……クオンに俺の気持ちはわかんねえよ」
「おまえだって俺の気持ちはわかんないだろ!」

 クオンが悲痛な声を上げた。

「どんな思いで協力したと思ってんだ……!」

 春風がそよぐ中、彼の言葉は哀しげに響いた。

 ロッドは何も言わなかった。

「もういい。俺は勝手にやる」

 焦れたようにクオンが吐き捨てる。

 しばしの静寂のあと、「クオン」とロッドが呼びかけた。

「ごめんな」

 ぽつりと零された謝罪は何に対してなのか、レヴィンにはわからなかった。

 ロッドが立ち去る気配がする。嫌な鼓動がずっと耳の奥でしている。

 クオンをうかがい見ると、見つけたときと同じように柵に体を預けている。川をじっと見ていたが、その背中が丸まっていた。

 レヴィンはそっとその場を離れた。

 公園に立ち並んだ樹々たちが足早に去るレヴィンの姿を隠してくれた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。 しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。 迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。 手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。 これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。 ──運命なんて、信じていなかった。 けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。 全8話。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...