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第71話『リウの話①』

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 リウの生まれ故郷は東国の貧しい村だった。兄弟は五人いたが、貧しい暮らしに耐え切れず、両親は体の小さな、十歳になったばかりのリウを売った。
 
 少女のように可愛かったリウは高かったようだ。悲しかったが、同じ村で同じような目に合っている子を知っていたので、仕方ないと自分に言い聞かせた。
 
 リウはハーゼン王国に連れて行かれ、ある富豪に買い取られることになった。ところが、主人は少年好きの変態だということがわかり、リウは隙をついて逃げ出した。人買いはリウを丁寧に扱っており、従順だったためか、奴隷のように鎖でつながれていなかった。
 
 逃げた先でリウは運よく、養父となる庭師に出会った。庭師は亡くした子に似ているとリウを可愛がり、異常なほど溺愛していた。弟子だといって仕事先の宮廷にまで連れて行くほどだった。そこでリウは第六王子と出会った。
 
 朱色の髪の王子は哀しみを抱えていた。自らの境遇を話すようになると、傷を抱えた者同士、互いを支えにしていた。
 
 容姿端麗で心の優しい王子にリウは瞬く間に恋に落ちた。
 
 ペンダントの贈り物をもらったときは、うれしくて泣きそうだった。だが身分違いも甚だしく、秘めた想いを抱えて過ごしていた。
 
 王子の従妹だというエリゼもまた、彼に恋焦がれていた。エリゼは王子の前だとしおらしく可愛らしいのに、リウと二人になると雑言を浴びせられた。

 なんて性格の悪い女だと唾を吐きたいくらいだった。エリゼはリウの恋心に目敏く気づいた。お互い恋敵だと意識しあい、王子のいないところでは激しく言い争うこともあった。
 
 リウがまもなく十五歳になろうとしていたとき、エリゼがレヴィンと婚約することになったと自慢してきた。王子にそれとなく真偽を確かめてみたら、「まだ決まったことではないけど」と満更ではなさそうだった。

 そのときのエリゼの勝ち誇った顔に激しく嫉妬した。
 
 王子は彼女の意地の悪さを知らないのだ。そんな女と結婚してほしくなかったが、庶民のリウにはどうすることもできない。リウがどんなに王子のことが好きでも、報われることなどないからだ。
 
 時を同じくして、リウを見る養父の目がおかしくなっていった。最初のうちは腹や太腿などを撫でる程度だったが、日増しに過激になっていき、ついには性器を触られるようになった。

 今日こそ凌辱されるかもしれないという恐怖が浮かんだ。

 五年も抱えた叶わぬ恋心と、頼りにしていた養父の豹変にリウは誰にも相談できず、日々追い詰められていった。
 
 ある日、養父の家に帰りたくなくてフラフラと歩いていたら、いつの間にか王都の郊外へ続く石橋の上にいた。橋の下を見ると、浅い川がある。
 
 ぼうっと見ていたら、不意にここから落ちたらどうなるかな、と思った。本当に死のうと思ったわけではない。ただ、ぼんやりした頭で、欄干に腹を乗せてみた。しかし次の瞬間、強い力で引き戻された。
 
 気が付くと橋の上で、尻餅をついていた。が、痛くなかった。誰かを下敷きにしていたことに気付くのはそんなに時間はかからなかった。

 死にそうに見えたのを助けてくれたのは、クオンだった。

 東国の人だ、と思ったら「なにやってんだ!」と鬼の形相で怒鳴られた。

 望郷の人に会えたことと、本気で助けようとしてくれた人がいたことに、涙が出てきて大泣きした。

 その場にはクオンの他にもう一人、東国の男の人がいた。クオンのお父さんだった。

 二人は泣きじゃくるリウの話を聞いてくれた。

 お父さんは、自分たちは旅をしているから、一緒に来るかと言ってくれた。

 これからレイトンという街に行くらしい。現実を直視できなくなっていたリウは連れて行って欲しいとお願いした。今すぐにでもついて行きたいと言ったら、養父に置手紙をしてこいと言われた。黙って消えたら誘拐だと思われ、関所で連れ戻される可能性があるからだ。

 そしてその日の夕方、リウを含めた三人は東国からきた家族として、王都の関所を出た。

 クオンとは他人の空似で、二人が兄弟だといっても誰も疑わなかった。
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