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第77話『クオンの回想』
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新緑が萌える季節が過ぎ、蝉の音が夏の到来を告げた。
レヴィンが森の家に来なくなって、三か月が経とうとしていた。
クオンは毎日忙しくしていた。レヴィンが手伝ってくれていたことを、また一人でやらなければならなかった。だがそれがよかった。体を動かしていると、何も考えなくてすむ。
クオンの薬草茶を待っている人は多い。作れる量は少なかったが、以前にも増して近隣の村を訪ねるようになった。
サイスの村にも行った。リウは喜んでくれたが、レヴィンはどうしているのかと訊かれたので、知らないと答えた。もう会うことはないだろと言ったら、哀しそうな顔をした。
夕暮れ時の森の家で、クオンは夕食のスープをすくいながら思い返すことが多かった。
レヴィンに街で初めて声を掛けられたとき、王都でのリウの知り合いかと思った。リウの片恋相手の王子本人だとはさすがに思わなかった。
追いかけられてレヴィンがフードを取ったとき、その容姿に目を奪われた。朱色の髪が陽光を受け、金に光って綺麗だった。
胸が鳴ったと同時に、嫌な予感がした。だから逃げた。
リウを捜しにこんなところまで来たのかと思ったら、一緒に暮らし始めた二人の邪魔をさせたくなかった。
普段は王都にいる王子だ。レイトンの滞在も長くはないだろう。しばらくすればいなくなる、そう思ったらホッとした。そして心の片隅で、すごくかっこよかったなと思った。
ロッドが彼を連れてきたときは、あいつは何を考えているんだと思った。だが、すぐに自分を目くらましに使いたいんだと気づいた。レヴィンの目がこちらに向いていれば、サイスの村に行くこともない。
リウは王都で心に傷を負っている。会わせたくないと思うのも当然だった。あの子のためにも、ロッドに協力することにした。
クオンは夕食を済ませ、食器を重ねて台所に行った。水につけながら、小さくため息を吐く。
まさかこんなことになるとは思わなかった。
毎日やってくるレヴィンに最初は呆れていたが、そのうち彼を待つようになっていた。
父もリウもいないたった一人の生活は静かだったからだ。
レヴィンは雑用をやらせても怒ることなく、むしろ積極的になんでもやっていた。そのうち、お茶まで入れてくれるようになった。王子が庶民にお茶出しするなんて、おかしかった。変な王子だと思った。
レヴィンからロッドのことが好きなのかと訊かれたときは、どきっとした。確かに未練はあった。だがそれ以上にレヴィンに魅かれていることに気づいたからだ。
王子と庶民。身分違いも甚だしい。リウが苦しんだのもわかる。
これ以上魅かれてはいけないという戒めのつもりで、否定しなかった。
とはいえ、共に過ごす日々があまりに楽しくて、このまま一緒にいることを夢見たこともあった。けれど、レヴィンの屋敷に行き、彼の生きてきた世界を垣間見たとき、目が覚めた。
この生活もどこかで終わらせなければと考えるようになった矢先、レヴィンも自分のことを好きなのではないかと思うことがあった。
あれはレヴィンの屋敷に行って何日かした後のことだった。
お茶の入ったポットを二人同時に取ろうとしたときがあった。
手が触れ合ったとき、レヴィンが驚いたように手をひいて、うろたえたのだ。自分もロッドを意識しすぎて同じような態度を取ったことがあった。
まさかなとは思ったが、たまに強い視線を感じることがあった。見返すと、赤くなって慌てたりする。笑いかければ、妙にうれしがる。
見つめてくる瞳に恋慕の色を見た。わかりやすい好意だった。
まずいなと思った。レヴィンはまっすぐな性格で、行動力もある。想いを交わしたら、引き返せなくなる。諦めてくれなくなるだろう。
それだけではない。クオンには、はっきりさせておきたいことがあった。
リウのことだ。
レヴィンは時折、クオンにリウの面影を見ていた。口では否定していたが、リウのことを気にしているのはわかった。
それも自分がリウから聞いた星の神話をうっかりしゃべってしまったせいだ。あの話が一般的なものではないとわかったのは、レヴィンが驚いていたからだ。酔っていたとはいえ、あれは迂闊だった。
レヴィンもリウが好きだったとしたら、リウに会ったらどうするんだろうと思った。
クオンがリウではないとわかったら、がっかりするだろうか。それとも、それでも自分が好きだと言ってくれるのか。
そこまで考えて、クオンは頭を振った。どちらにしろ、この恋を実らせる気はなかった。
実らせてはいけない恋だった。
自分を好きだと言ってくれたとき、クオンはどうやってレヴィンにあきらめさせようかと考え始めた。
ロッドのことがあり、同性を理由にすることはできない。ただ振っても簡単にはあきらめそうにない男だ。
そうしているうちに、リウからペンダントを借りることを思いついた。
レヴィンが森の家に来なくなって、三か月が経とうとしていた。
クオンは毎日忙しくしていた。レヴィンが手伝ってくれていたことを、また一人でやらなければならなかった。だがそれがよかった。体を動かしていると、何も考えなくてすむ。
クオンの薬草茶を待っている人は多い。作れる量は少なかったが、以前にも増して近隣の村を訪ねるようになった。
サイスの村にも行った。リウは喜んでくれたが、レヴィンはどうしているのかと訊かれたので、知らないと答えた。もう会うことはないだろと言ったら、哀しそうな顔をした。
夕暮れ時の森の家で、クオンは夕食のスープをすくいながら思い返すことが多かった。
レヴィンに街で初めて声を掛けられたとき、王都でのリウの知り合いかと思った。リウの片恋相手の王子本人だとはさすがに思わなかった。
追いかけられてレヴィンがフードを取ったとき、その容姿に目を奪われた。朱色の髪が陽光を受け、金に光って綺麗だった。
胸が鳴ったと同時に、嫌な予感がした。だから逃げた。
リウを捜しにこんなところまで来たのかと思ったら、一緒に暮らし始めた二人の邪魔をさせたくなかった。
普段は王都にいる王子だ。レイトンの滞在も長くはないだろう。しばらくすればいなくなる、そう思ったらホッとした。そして心の片隅で、すごくかっこよかったなと思った。
ロッドが彼を連れてきたときは、あいつは何を考えているんだと思った。だが、すぐに自分を目くらましに使いたいんだと気づいた。レヴィンの目がこちらに向いていれば、サイスの村に行くこともない。
リウは王都で心に傷を負っている。会わせたくないと思うのも当然だった。あの子のためにも、ロッドに協力することにした。
クオンは夕食を済ませ、食器を重ねて台所に行った。水につけながら、小さくため息を吐く。
まさかこんなことになるとは思わなかった。
毎日やってくるレヴィンに最初は呆れていたが、そのうち彼を待つようになっていた。
父もリウもいないたった一人の生活は静かだったからだ。
レヴィンは雑用をやらせても怒ることなく、むしろ積極的になんでもやっていた。そのうち、お茶まで入れてくれるようになった。王子が庶民にお茶出しするなんて、おかしかった。変な王子だと思った。
レヴィンからロッドのことが好きなのかと訊かれたときは、どきっとした。確かに未練はあった。だがそれ以上にレヴィンに魅かれていることに気づいたからだ。
王子と庶民。身分違いも甚だしい。リウが苦しんだのもわかる。
これ以上魅かれてはいけないという戒めのつもりで、否定しなかった。
とはいえ、共に過ごす日々があまりに楽しくて、このまま一緒にいることを夢見たこともあった。けれど、レヴィンの屋敷に行き、彼の生きてきた世界を垣間見たとき、目が覚めた。
この生活もどこかで終わらせなければと考えるようになった矢先、レヴィンも自分のことを好きなのではないかと思うことがあった。
あれはレヴィンの屋敷に行って何日かした後のことだった。
お茶の入ったポットを二人同時に取ろうとしたときがあった。
手が触れ合ったとき、レヴィンが驚いたように手をひいて、うろたえたのだ。自分もロッドを意識しすぎて同じような態度を取ったことがあった。
まさかなとは思ったが、たまに強い視線を感じることがあった。見返すと、赤くなって慌てたりする。笑いかければ、妙にうれしがる。
見つめてくる瞳に恋慕の色を見た。わかりやすい好意だった。
まずいなと思った。レヴィンはまっすぐな性格で、行動力もある。想いを交わしたら、引き返せなくなる。諦めてくれなくなるだろう。
それだけではない。クオンには、はっきりさせておきたいことがあった。
リウのことだ。
レヴィンは時折、クオンにリウの面影を見ていた。口では否定していたが、リウのことを気にしているのはわかった。
それも自分がリウから聞いた星の神話をうっかりしゃべってしまったせいだ。あの話が一般的なものではないとわかったのは、レヴィンが驚いていたからだ。酔っていたとはいえ、あれは迂闊だった。
レヴィンもリウが好きだったとしたら、リウに会ったらどうするんだろうと思った。
クオンがリウではないとわかったら、がっかりするだろうか。それとも、それでも自分が好きだと言ってくれるのか。
そこまで考えて、クオンは頭を振った。どちらにしろ、この恋を実らせる気はなかった。
実らせてはいけない恋だった。
自分を好きだと言ってくれたとき、クオンはどうやってレヴィンにあきらめさせようかと考え始めた。
ロッドのことがあり、同性を理由にすることはできない。ただ振っても簡単にはあきらめそうにない男だ。
そうしているうちに、リウからペンダントを借りることを思いついた。
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