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第1章 跳躍と出会い④『おれ以外にもいるんですか』
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「あの、イリアスさんは」
呼び捨ては憚られたので、『さん』付けにしてみたが、
「イリアスでかまわない」
と、一蹴された。
海人は気を取り直して話しかけた。
「じゃあ、あの、イリアスは、なんでおれが異世界の人間だってわかったんですか?」
彼も執事のグレンも、そこにいるメイド服の女もどうみても自分と変わらない人間だ。
果たして一目でわかるものなのだろうか。
イリアスは飲んでいた紅茶のカップを置いた。
「カイトは突然、空中に現れ、私の上に落ちてきた」
「え⁉」
「それに見たことのない材質のものを持っていた」
見たことのない材質というのは、スマホのことかもしれない。
だがそれよりも、人の上に落ちてきたという証言の方に、青ざめた。
「すみません……おれ、まったく覚えてなくて」
自分が悪いわけではないし、むしろ異世界に跳ばされた被害者ではあるが、海人は申し訳ない気持ちになった。
下手をすれば、この人に怪我を負わせていたかもしれない。
その心中を敏感に察したように、イリアスは言った。
「怪我などしていないから気にするな」
そうは言われても、気にならないわけがない。
いきなり目の前に降ってきた人間を助けて、こうやって食事まで与えてくれているのだ。
どうお詫びしよう、と海人が両手の拳をギュッと握ったとき、
「ちなみに我々は別の世界から来た者のことを、跳躍者と呼んでいる」
さらっと言われ、海人は目を剥いた。
「おれ以外にもいるんですか⁉」
海人の声が大きく響いた。
自分以外にも異世界から来た人間がいるのか。
イリアスは海人の目をまっすぐに見つめた。
「いる。私はカイトと同じような人を知っている」
燭台の炎が風もないのに揺れる。
海人は希望を見つけた気がした。
イリアスが言うには、その人は『アフロディーテ』と名乗ったらしい。
ずいぶんと挑戦的な名前である。なんせギリシャ神話の愛と美の女神だ。
本当にそう名乗ったのか、二度訊いた。
あっけにとられていると不思議がられたので、自分の世界の女神のことだと教えた。
それを聞いても、イリアスは表情を動かさなかった。
アフロディーテは十五年前から王宮にいるらしい。
「会うことはできませんか」
海人はお願いしてみたが、いい顔はされなかった。
「会ってどうする。先ほども言ったが、帰る方法はない」
それはそうだろう。
帰る方法があれば、十五年もこの世界にいるはずがない。
いきなり知らない世界に跳ばされて、言葉は通じるものの、帰る方法はない。
名前からして外国人だろうから同郷とは言い難いが、それでも同じ境遇の人がいるということ自体が、海人にとって心の支えに思えた。
「なんでもいいから、話をしてみたいんです」
訴えるように言うと、イリアスはテーブルに肘をつき、両手の指を顔の前で組んだ。
「アフロディーテに会うとなると、私の一存では決められない。父上の許可がいる」
その仕草は簡単なことではないと言わんばかりだった。
イリアスの感情が表に出ないので、何を考えているのかわからない。
だが海人は悪いようにされることはないと、この短時間で悟っていた。
お願いです、ともう一度頼む。
部屋には執事とメイドが壁際にいたが、二人はカタとも音を立てなかった。
イリアスは黙考したのち、答えた。
「……わかった。王宮に取り成してみよう」
「! ありがとうございます!」
海人は顔を輝かせたが、イリアスは無表情のまま、組んでいた指を口元に近づけた。
「ただし、父上は今、外遊中だ。戻るまでに三か月近くある。それまではここで大人しく生活してもらうが、いいか」
三か月。
長いなと思ったが、これ以上のことを望んでも無理だろう。
追い出されないだけましだ。海人はうなずいた。
「かまいません。よろしくお願いします」
椅子から立ち上がり、頭を下げる。
だがイリアスは指を組んだまま、何も言わなかった。
呼び捨ては憚られたので、『さん』付けにしてみたが、
「イリアスでかまわない」
と、一蹴された。
海人は気を取り直して話しかけた。
「じゃあ、あの、イリアスは、なんでおれが異世界の人間だってわかったんですか?」
彼も執事のグレンも、そこにいるメイド服の女もどうみても自分と変わらない人間だ。
果たして一目でわかるものなのだろうか。
イリアスは飲んでいた紅茶のカップを置いた。
「カイトは突然、空中に現れ、私の上に落ちてきた」
「え⁉」
「それに見たことのない材質のものを持っていた」
見たことのない材質というのは、スマホのことかもしれない。
だがそれよりも、人の上に落ちてきたという証言の方に、青ざめた。
「すみません……おれ、まったく覚えてなくて」
自分が悪いわけではないし、むしろ異世界に跳ばされた被害者ではあるが、海人は申し訳ない気持ちになった。
下手をすれば、この人に怪我を負わせていたかもしれない。
その心中を敏感に察したように、イリアスは言った。
「怪我などしていないから気にするな」
そうは言われても、気にならないわけがない。
いきなり目の前に降ってきた人間を助けて、こうやって食事まで与えてくれているのだ。
どうお詫びしよう、と海人が両手の拳をギュッと握ったとき、
「ちなみに我々は別の世界から来た者のことを、跳躍者と呼んでいる」
さらっと言われ、海人は目を剥いた。
「おれ以外にもいるんですか⁉」
海人の声が大きく響いた。
自分以外にも異世界から来た人間がいるのか。
イリアスは海人の目をまっすぐに見つめた。
「いる。私はカイトと同じような人を知っている」
燭台の炎が風もないのに揺れる。
海人は希望を見つけた気がした。
イリアスが言うには、その人は『アフロディーテ』と名乗ったらしい。
ずいぶんと挑戦的な名前である。なんせギリシャ神話の愛と美の女神だ。
本当にそう名乗ったのか、二度訊いた。
あっけにとられていると不思議がられたので、自分の世界の女神のことだと教えた。
それを聞いても、イリアスは表情を動かさなかった。
アフロディーテは十五年前から王宮にいるらしい。
「会うことはできませんか」
海人はお願いしてみたが、いい顔はされなかった。
「会ってどうする。先ほども言ったが、帰る方法はない」
それはそうだろう。
帰る方法があれば、十五年もこの世界にいるはずがない。
いきなり知らない世界に跳ばされて、言葉は通じるものの、帰る方法はない。
名前からして外国人だろうから同郷とは言い難いが、それでも同じ境遇の人がいるということ自体が、海人にとって心の支えに思えた。
「なんでもいいから、話をしてみたいんです」
訴えるように言うと、イリアスはテーブルに肘をつき、両手の指を顔の前で組んだ。
「アフロディーテに会うとなると、私の一存では決められない。父上の許可がいる」
その仕草は簡単なことではないと言わんばかりだった。
イリアスの感情が表に出ないので、何を考えているのかわからない。
だが海人は悪いようにされることはないと、この短時間で悟っていた。
お願いです、ともう一度頼む。
部屋には執事とメイドが壁際にいたが、二人はカタとも音を立てなかった。
イリアスは黙考したのち、答えた。
「……わかった。王宮に取り成してみよう」
「! ありがとうございます!」
海人は顔を輝かせたが、イリアスは無表情のまま、組んでいた指を口元に近づけた。
「ただし、父上は今、外遊中だ。戻るまでに三か月近くある。それまではここで大人しく生活してもらうが、いいか」
三か月。
長いなと思ったが、これ以上のことを望んでも無理だろう。
追い出されないだけましだ。海人はうなずいた。
「かまいません。よろしくお願いします」
椅子から立ち上がり、頭を下げる。
だがイリアスは指を組んだまま、何も言わなかった。
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